九死に一生
お久しぶりです。いつもお読みくださり誠にありがとうございます。
なにぶんリアルが繁忙期の真っただ中でして、
不定期更新になりますが、連載を再開いたします。
同日に2話の更新をいたします。読み飛ばしのないようご注意ください。
誰かが呼ぶ声がした。
泣きそうな声だった。
どうにかして起きなきゃいけないと思ったけれど、眠いわけじゃないけれど何故か体を動かすどころかまぶたを開けることすら億劫で……。
「――っ、……ルッツ!!!」
「……え っだ?」
「!? よかった、生きてた……」
その声は次第に涙交じりになって僕の名前を呼ぶから、どうにかして泣き止んでほしくて重いまぶたを頑張って開けた。
まず目に飛び込んできたのは、煤けたエッダの顔だった。勝気な彼女には珍しく泣いたのか、頬に涙の筋が通っていた。
どうにも、体が痛くて動かないうえに、何故かわからないけれども周囲が酷く暗かった。
「……なんで、泣いてんの?」
「なんでって!! アンタ、さっきのこと覚えてないの!?」
「さっき……? ……あー、そっかー……」
なんでエッダが泣いているのかと聞いたら、ものすごく怒られた。
さっきのことって言われても……と思ったけれど、そういえば何で体中が痛いのかとかを考え始めたら、貧民街の男たちから暴力を振るわれたことを思い出した。
そりゃあ、エッダも心配するよねと思い直し、ゆっくりと起き上がろうとして体の痛みに顔をしかめた。うめき声をあげた僕をエッダが支えてくれなければ、起き上がることすら難しかったかもしれない。
「いてて……、ワイリーは? ……僕たち、あいつらに捕まったの?」
エッダが居るのにワイリーが居ないのはどうしてなのだろうか、それに周囲があまりに暗いので、僕たちは浚われた後なのかと思ったけれど、どうやら違うらしい。
「……正直言って、アタシとアンタが生きているのだって奇跡だよ」
「どういうこと?」
「周りをよく見てみなよ」
いつも勝気なエッダが困惑した表情を隠そうともせずに、僕に周りをよく見ろと言った。
エッダに言われた通りに周囲を見渡してみるものの暗くて見え難い。光が差している方を見上げてみると天井に穴が開いていて、そこから差し込む光でかろうじて周りの状況を理解すると同時に驚いた。
わずかに差し込む光が当たっている場所は岩肌のようで、何故?と思いつつ手が動かせる範囲で回りに触れてみると、ゴツゴツとした石が積み重なっているようだった。
僕が気を失ったときは、四番通りの建物が並んでいる通りだったのに、それがどういうことだろう、周囲は瓦礫の山だったのだ。
「アンタがあいつらに乱暴されていた時に、あそこが崩落して、アタシたちとアンタに暴力をふるっていた男諸共ここに落ちたんだ」
「え、じゃあ……」
「……それなら心配ないよ。ここにはアタシたちしかいない」
エッダの話を聞いて、よくあの高さから落ちて無事だったなと僕らの悪運の強さを実感するのと同時に、一緒に落ちたという男たちの行方が気になった。
それも聞こうとしたが、彼女が少し目をそらしながらこの場には僕らしかいないことを教えてくれた。確信をもってしゃべっているみたいだったから、おそらく男たちは落ちた際に落下の衝撃で死んだか瓦礫に潰されたのだろうと思い至った。
「……ごめんね、エッダ」
「謝る必要なんかないよ。下手したらアンタの方が死んでいたんだから。やつらは自業自得」
「ワイリーは無事かなぁ……」
「わからない。でも、アンタを中心に崩落したみたいに見えたから、あの子のところまでは被害がないと思いたいけど……」
エッダの顔色は暗くてわからないけれども、おそらく酷いものを見ただろう彼女に僕は謝りたかった。彼女は強がってはいるものの、それは僕に対する気遣いだと思った。
僕は話題を変えようと、この場に居ない友人の状況がどうなっているかと天井の穴を見上げた。
彼女も気にはなっていたみたいで、落下した時の状況を話してくれたけれど、会話もあまり続かなかった。
僕らはしばらくその場を動かずにじっとしていたが、特に上の方で騒ぎになっている様子もないため、助けが来るとしても大分先になりそうな気がした。
「ここに居ない方が良いみたいだね。なんか危ない気がする」
「そうだな……。向こうに横道に行くしかないな……」
「でも、どこに繋がっているかわからないよ……」
どうにかしてここから出られないかと考えてみるものの、現状では崩落現場を調査しに来た人たちに助けてもらうのが一番良い方法だろうとおもうのだが、さっきから天井から落ちてくる砂や小石が少しずつ増えているように感じ、僕らは急いでこの場所から離れる必要があると察した。
痛む身体をエッダに支えられながら起こしつつ、回りを見回した。
幸いなことにあんなに高い場所から落下したのにも関わらず、僕らは打撲程度の怪我で済んでいるのは奇跡だろう。
僕はひときわ暗くなっている横道を指してそちらに逃げようと提案した。横道の手前までやってきて、壁面を触ってみると思っていたよりもしっかりとした岩盤に人工的に掘った跡があることが分かり、この先に続く暗闇が、かつての坑道の一部であることを僕らは確信した。そこは光が差し込まない暗闇がどこまでも続いており、一歩でも足を踏み入れれば自分の位置すら見失いそうだと思った。
ただ、奥から風が吹いていることもあり、この坑道が何処か外に繋がっていることは確かだと思われた。
「エッダ、何か明りになるような道具とか持ってないよね?」
「マッチならあったけど、アンタを探すときに全部使っちゃったよ」
ここから先に進むのならば、光源になるものがないと進むことが出来ないだろう。
ダメ元でエッダに聞いてみたけれど、エッダが持っていたマッチは僕の捜索をするときに使い切ってしまったと言われた。
さっき、ちらっと見えてしまったけれど、エッダの指先がかなりボロボロな状態だった。きっと、僕を探すために、瓦礫を掘り起こしたりしたときについた傷だろう。
僕は彼女の友人という括りではなく、おそらく知人という枠組みにしか入っていないだろうけれど、僕を助けるためにここまでしてくれた彼女に報いたいと思った。
そして僕は、今度は僕が彼女を助けるんだと心に誓った。
僕は足元にある砂をすくい、天井から差し込んでいる光に充ててどんな鉱物が含まれているのかを観察することにした。
今やるべきことは、僕の知識と技術を最大限に生かすことだ。
「ルッツ? 一体何をやってる?」
「えっと、ここの鉱山が昔は魔晶石の坑道だって話を父さんから聞いたことがあって」
「は? ……魔晶石? 何それ」
「あー。魔石の結晶? かなり強い力があった石らしいよ。百年以上前に採り尽された鉱物だけど」
この街に引っ越してくる際に養父から聞いたことをうろ覚えながら、エッダに話す。いきなり魔晶石と言われても既に枯渇した資源だから、エッダの反応は薄い。
「それとこれに何の関係があるのさ」
「今では採れなくなっちゃった石だけど、こういった砂にはその成分が含まれていて、今のマルモアの精製工場で作られている魔石の原料になってるんだって」
本当なら紙の上とか色が分かりやすいものの上で調べたかったけれども、サラサラとした小石交じりの砂を掌に広げて何が含まれているかをわずかな光に透かして調べた。
うん、魔石特有の赤い結晶があるから多分大丈夫かな?
「それで? 魔石を作るとかいうつもり? 魔導具すらないのに!」
「僕を誰だと思ってるのさ」
「魔力持ちのチビ」
エッダの言っていることは間違っていないけど、面と向かってチビと言われるのはグサリと来るものがある。
「違うってば! 僕は魔力持ちだけど、その前に魔導具職人なの!」
「へえ……」
ちょっと胸を張って言ったら、何言ってんだこいつみたいな胡散臭そうな目で見られた。
僕が持っているもので使えそうなものを取り出すと、なおさら胡散臭そうな目を向けられた。
うう、ちょっとどころじゃなくてかなり傷つくんだけど……。




