逃亡
なんだかいつも何かに巻き込まれている気がする。僕はそう考えながらも六番通りに入っていくワイリーの後について歩いた。
六番通りは他の通りに面している場所は余り変わったところはなかったように思えたけれど、少し中に入り込むとエッダを追いかけて入り込んだ四番通り程ではないにしても、やっぱり柄の悪い人が多かった。
「ワイリー、もう帰った方が良いよ……」
「本当にビビりなんだなぁルッツは。ここらにいる人たちよりも、精錬工場で働いている人の方がずっと怖い顔しているぜ? このくらい俺にとってはどうってことないんだぜ!」
ワイリーには事あるごとに帰ろうと提案をしてみるものの、それが余計に彼の好奇心と冒険心を煽るのか、それとも度胸試しをするのに引くに引けなくなったのか、ワイリーは僕の話を全く聞いてはくれなかった。かと言って、彼をおいて帰るのは良心がとがめるから僕も帰るに帰れなくて困ってしまった。
どんどん進んで行ってしまうワイリーの後を追い、僕たちはついに六番通りの中心部と思しき場所にまでたどり着いてしまった。
「ねえ、ワイリーもう戻った方が良いよ。ここまで来れたのは確かなんだし」
周りはボロボロの服を着た貧民街の人が多く、僕らに視線を送ってくるのが分かる。この時になって、ワイリーもようやく自分の置かれている状況に気が付いたみたいだった。
「そ、そうだよな。じゃあ証拠品として何か買ってから戻ろ――」
「こんなところで餓鬼が何してんだぁ?」
「ひっ!?」
思いがけない場所で見知らぬ男の人に声をかけられて、僕らは思わず悲鳴を上げそうになった。恐る恐る後ろを振り向くと、ボロボロの服を着た柄の悪そうな人で、僕らを見ながらにたぁと黄色い歯を見せながら笑っている。その後ろには、仲間っぽい人がこちらに視線を向けながらニタニタ笑っていた。
反射的に関わっちゃいけない人だと思って、僕はワイリーの腕を掴んで逃げ出した。
「ル、ルッツ! 何処に、行くんだよっ!」
「わかんないけどっ! 危なくないとこ!!」
来た道を引き返そうにも、そちらにはさっきの男の人たちが居て僕らは六番通りの横道に逃げ込んだ。がむしゃらに走ったから、ここが何処なのかはさっぱり分からない。
「おうぃ、坊主たちぃ~。隠れてないで出てこいよ」
男たちは逃げた獲物を追い詰めるように追いかけてくる。姿は見えないけれども、さっきの耳に残るねっとりとした感じの気味の悪い笑い声が聞こえてくるからわかった。
男たちが通り過ぎるのを、物陰に隠れてやり過ごし、僕らはどうにかして安全な場所に逃げること考えた。
でも、考えれば考えるほど、拙い状況に僕の背中には冷たいものが垂れてくるのが分かって、ますます焦ってくる。
どうするか、男たちが通り過ぎたから、来た道を戻るか……。
多分、そんなことは男たちも予想しているだろうし、このまま横道を進んだとしても、安全な道に続いているとは限らない……。
「おい」
「!?」
さっきの男とは違う若い声だけど、むしろ僕らと同じくらいの子供の声だけど、切羽詰まった状態で急に声をかけられたもののだから、僕らは声も出ないくらいに驚いて振り向くこともできず、その場から逃げようとしたけれど、腕をつかまれて恐慌状態になってしまった。
「あ、ちょっと待て、暴れるなって!! ルッツ!」
「!? なんで、名前……。え、エッダ?」
叫び出そうとした僕らの口を押えたやつの顔を恐る恐る確かめると、そこにはしばらくい前に分かれたエッダの姿があった。
あんな別れた方をしたけれども、彼女の顔を見た瞬間体の力が抜けて、僕はその場にへたり込んでしまった。
「え、え? 知り合いなのか?」
「ああ、うん……」
ワイリーは僕がへたり込んでしまったことと、お互いが名前を呼んだことで状況はよくわからないものの、僕の知り合いらしいと判断したみたいで暴れるのを止めた。
そして、僕らの顔を見て首を傾げている。
「さっき、アンタらが騒いだから向こうも気づいたみたいだ。場所を移すよ」
「わかった……。けど、なんでエッダがここに居るの?」
「なんでって……、本来こんなところで見かけない奴がいるから、何しに来たのかと思って追いかけてきたんだけど……。なんでここらで一番厄介なやつに目をつけられているのさ……」
「ごめん。助かった、ありがとう」
エッダの言う通り、やり過ごしたと思っていた男たちは僕らが見当たらないせいで、来た道を戻ってきている様子だった。彼女と会った時に驚いて少し騒いでしまったのも原因だろう。
こそこそとその場を離れながら、僕はどうしてここにエッダが居るのかと問いかけると、彼女は呆れたように、僕らを見かけたから忠告するために追いかけたらこんな状態になっていたと教えてくれた。
それから僕らがここらで一番厄介な奴らに目をつけられてしまったとため息をついた。
自分の置かれた状況を理解したワイリーは、大変なことになったと顔を真っ青になっていたけれど、起きてしまったことは仕方ない。
幸いにも、ここの地理に詳しいエッダが加わってくれたことで、僕は気持ちを切り替えてこの状況を切り抜けるために何をすべきかを考えることにした。
まぁ、エッダにとっては厄介ごとを持ち込んでしまって申し訳ないけれども……。
「なぁ、お前らどういう知り合いなんだ?」
「僕が倒れていた彼女を助けたんだよ、看病は僕がしたわけじゃないけど」
「か、彼女ぉ!? お前、女だったのk、モゴォ!」
エッダに六番通りからの脱出をしたいと話をすると、仕方ないと言わんばかりに案内をしてくれることになった。
彼女の先導で裏路地を進むと、僕らがどういう知り合いなのかと疑問に感じたのだろう、ワイリーが問いかけてきた。
別に僕らが同胞だと話すわけではないし、エッダが倒れていたところを助けたというと、助けたという話よりも、エッダが女の子だったということに驚いたみたいで、僕と同じ轍を踏みそうになったから慌てて口を押えた。
「こいつは|一体≪・・≫何なんだ?」
「僕の友達。宿屋の子なんだ」
「へぇ……。宿屋の看板息子にしては華がないな」
「なんだとぉ!!」
「ワイリーやめてよ! エッダも、こいつを煽るなって!」
ワイリーの様子を見て、エッダは僕にどういう関係なのかと聞いてきた。おそらく、エッダが知りたいのは、ワイリーが同胞なのかどうかだと思った。だから僕は、ただの友達だと伝えると、エッダは何だが安心したみたいだった。
ただし、宿屋の息子だと教えると、ワイリーをしげしげと眺めて嘲るように華がないと言った。どうも、さっきの女に見えないとの発言が気に喰わなかったみたいだった。
彼女に掴みかかろうとしたワイリーを止めた僕は、エッダにも苦言を吐いたが、彼女はそんな僕らを冷えた目で見て、フンと鼻を鳴らして再び歩き出した。
「ここ、人の手が入った跡があるのに人通りがないね……」
「ん? ああ。ここは四番通りが閉鎖された原因になった場所だから仕方ないよ」
「それって、地下の坑道が落盤したとかそういう話だっけ?」
「うん。静かに通る分には問題はなさそうだけど、落盤のせいでここはかなり揺れたりしたからね」
話をそらすために、僕はここがどういう場所なのかを聞いてみた。
今僕らが通っている道は、少し広めの道幅で六番通りでは露店が並んでいた通りに似ていた。違うところは、露店があったと思われる場所には木箱などが置かれており、その場所には既に砂埃が積もって僕らが歩くだけで足跡が付くほど、誰も通らないような道だった。
噂では聞いていたけれども、ここがそんなに危険な場所だとは思わず、思わず足元を見た。
「ここをまっすぐ進めば、表の通りに出る――――」
「やっ~と見つけたぁ!」
「!?」
「餓鬼がこんな場所に紛れ込んで、無事で済むと思っていたのかい?」
エッダが出口を指して話しているところで、僕らの後ろで招かれざる者の声がした。




