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建国の技師  作者: kay
第一章 修理屋の少年と貧民街の少女
13/23

看病は勘弁

 家に帰り、僕はその日にあったことを養父に話した。同胞とそれ以外を区別するアリッサさんのことがどうしても頭から離れなかったから……。

 養父は僕の話を聞いて、深く思いに浸るように目を瞑った。



「……昔、あの店に来た客に聞いた話だ。あの店主はな、帝国の魔法使い狩りの時代を生き抜いたお方だという話だ。そんな時代があったことは聞いてはいたが、ワシが生まれるよりずっと前のことだ、ワシもあまり詳しい事情は知らん。ただ、資料で見る限りかなり酷い時代だったそうだ」


「じゃあ、アリッサさんは仲間が殺されていったのを見ていたかも知れないの?」


「そうかも知れんし、もしくは自身がそうだったのかも知れん。だが、あの店主に聞くことは叶わんだろうな。ルッツも興味が惹かれたといって他人の過去を覗くようなことはするな」


「……うん」


「さて、もう遅い。ワシももう寝る。お前も夜更かしはせんようにな」



 アリッサさんにどんな壮絶な過去があったのだろうかと気にはなったけれど、養父の言う通り他人の過去を探るようなことはしたくはなかったから頷いた。

 養父は僕の頭を撫でて、部屋から出ていった。養父のシワだらけで節ばった指が離れていくのは、なんとなく寂しい気がしたけれども、今日は色々あったからそのまま寝台に横になった。養父はああ言ったけれども、あの人のことだから多分仕事で寝るのが遅くなるんだろうなと思いながら、目を瞑った。




 

 今の僕には魔力を持っている知り合いは養父とアリッサさんと助けた男の子だけだったから、まだ魔力持ちとそれ以外の差別なんて考えもしなかった。

 友達のワイリーや親切にしてくれた人はみんな魔力なんか持っていなかったし、心の中では僕が魔力持ちであるということは理解しているけれども、彼らとの距離のほうが近くて心地よくて離れがたいという気持ちがある。

 魔力持ちにとっては地獄のような時代を過ごしてきたアリッサさんの気持ちは今の僕にはあまり理解ができないことで、昨日の助けた男の子のことも気になったけれど、こんなもやもやした気持ちを抱えたままではアリッサさんの店に行くことが出来なかった。

 とはいえ、ワイリーに会いに行くのもなんとなく憚られ、僕は養父の工房の隅っこで過去に養父が書いたらしい魔導具の図面を眺めていた。


 

「……今日は、仕事はないのか?」


「んー。たぶんないー」


「あの、宿屋の坊主とは遊ばんのか?」


「そういう気分じゃないー」


「……」



 いつもは仕事に熱を入れているはずの養父が、時々思い出したように声をかけてくるけれど、僕はそんなことはお構いなしに、まだ習ったばかりの精霊族の文字を図面から拾い出し、わかる単語だけ読んでみたりしている。

 そろそろ、昼ごはんの時間だから面倒だけど準備しなきゃいけないなぁと考えながら、僕は図面を置いて台所に向かった。

 料理にしても魔導具にしても何かを作るのは好きだけど、今日は気分がのらないから瓶詰料理でいいかなと思い、いくつかある瓶詰と昨日買って食べきれなかったパンを出してきて簡単に済ませることにした。


 手早く温めたスープを机の上に並べて養父を呼び、何時ものように昼ごはんを食べる。

 いつもなら僕が養父に話を振ったりするのだけど、今日は僕が黙っているから妙に静かだった。養父はというと何故かスープ皿を凝視していて、何をしているのかと思ったら思いもよらぬことを呟いたのだ。



「そういえば、店主殿の料理の腕は……壊滅的だったな……」


「そうなの? 壊滅的ってどのくらい?」


「一度料理をごちそうしてもらったことがあったが、消し炭のような代物が出てきたわい」



 少々聞き逃せない話を僕に放り投げてきた養父は、しれっとした表情でそのまま硬くなってしまったパンを咀嚼しはじめた。

 え、消し炭って、それ本当なの!? それが本当ならかなり拙い状況じゃないの?!

 アリッサさんは大人だから心配しないけど、病人がいるのに下手したら食べられるものが出て来なくて死んじゃったりしたらどうしよう……。アリッサさんは死なせないとか言ってたけど、確実にアリッサさんが殺しに行きそうな話なんだけど?!



「で でも、いくら料理が下手でも、便利な瓶詰とかあるから平気じゃないの? あれって、水を足して温めるだけだし……」


「ルッツ……。火加減もきちんと見られん者が、料理ができると思うのか?」


「ほ、本当にそこまで酷いの!?」


「だから、そう言うておろうが」


「それを早く言ってよ!!」



 たちの悪い冗談かと思ったけれども、養父は察しが悪いと言わんばかりにこちらを見つめてくるので、それが本当なのだと分かった。

 理解したのと同時に僕は、少し覚めたスープを急いで飲み干して、常備してあった瓶詰を鞄の中に突っ込んで家を飛び出した。



 アリッサさんの店に向かう途中で、市場の中で目に付いた果物を買った。この町では新鮮な野菜や果物は少しばかり値が張るけれども、あまり気にならなかった。

 いつものように人気のない三番通りで回りに目をやりながら、アリッサさんの店を目指す。いくつ目かの路地を曲がったところで、赤い灯火が見えたがその下に黒い塊があることに気が付いた。

 


「ちょ!? 何やってんだよお前!!」


「……くろい魔女に、喰われる……」


「喰われるって……。アリッサさんは魔女だけど、そんなことはしないよ?」



 店の前にあった黒い塊は、僕が助けた子だった。

 アリッサさんと何があったのかわからないけれど、魔女に喰われるという言葉から養父の言った通りに食事で何か問題があったみたいだった。

 それにしても喰われるって言われるほど、アリッサさんは怪しい魔女って感じだろうか?

 少々首を傾げたくなったけれども、このままこの場所に放置するわけにも行かないので、引きずって彼を店の中に入れることにした。

 僕より身長が高いわりに体重が軽いのか、弱々しい抵抗はされたけれども店の中の椅子に寝かせることが出来た。


 しかし、さっきから店の中に充満している微妙な臭いは何なのだろうか?青臭いような辛いような臭いなのだけど……。もしかしたら、彼はこの臭いを嗅いで喰われると思ったのかもしれない。

 

 勝手知ったるとは言えないけれども、何度かお茶を淹れるために入ったことのある台所に行ったのだけれども、台所に近づくにつれて強烈な刺激臭で目から涙が出てきた。一体何を作っているのかと不安になりながら台所に飛び込むと、元凶と思しき液体を煮詰めているアリッサさんが居た。



「あら、いらっしゃい。ルッツ」


「ゲホッ……。あ、アリッサさん!? 一体何をやってるんですか!!」


「何って、パン粥を作っているのよ。さすがにスープだけじゃ、栄養が偏るでしょう?」



 咳き込みつつも、アリッサさんが掻き雑ぜている鍋の中身を聞くと、パン粥を作っているといわれたが、全体的に緑色でところどころに赤いもののと、何かのしっぽのようなものが浮かんだドロドロとした液体は、どう見てもパン粥には見えない色をしている。



「パン粥って……。何を煮詰めたらそんな臭いになるんですか!? あの子、魔女に喰われるって逃げ出してましたよ!!」 


「失礼しちゃうわねぇ。野菜が足りないかと思って、薬草類と滋養に効果があるアナイモリの干物かしら? あー!!!」



 見るからにヤバそうなものがワンサカ入っている物体を、僕はアリッサさんが止めるのを無視して鍋の中身をそのまま捨てたのだった。

 


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