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建国の技師  作者: kay
第一章 修理屋の少年と貧民街の少女
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魔女の指南

 今日は珍しくマルモアの街に雨が降っていた。

 配管から漏れる蒸気と、工場の持つ熱気に晒された雨水で街の中は白く煙っている。

 雨が降ると煤が雨に溶けて流れてくれるから、雨の日だけは外出するときにマスクをしなくても平気だから少しだけ気分が良い。



 養父にアリッサさんの元に連れて行ってもらってからというもの、僕は頻繁にアリッサさんのところに遊びに行くようになった。

 え、養父の仕事の手伝いは良いのかって? 

 自分で出来る範囲の仕事はきちんと済ませているから大丈夫。それに、養父が抱えている仕事は、かなり複雑な構造の魔道具みたいで、僕が手を出せるような代物じゃなかったから仕方がない。奥さん情報網で広まってしまった簡単な修理を終わらせてから遊びに行くようにしている。

 まぁワイリーは最近僕の付き合いが悪いとか、遊べと文句を言うのだけれど、それに関しては、ワイリーが宿屋の手伝いをサボってまで遊びに行こうとするから、僕が暇な時に女将さんにお仕置きをされていたりするのだ。まぁ、ワイリーの自業自得だと思う。



 煤が溶け込んで黒く濁った水たまりを避けながら、傘を差している人の間を縫うようにして市場に向かって走る。

 市場の中は、このマルモアの街のなかで特に空気が良い場所だと僕は思う。

 アリッサさんの店に入るときの決まりは一つだけ、周りに人が居ないかを確認してから店に入ること。魔力持ちしか見えないように店には目くらましの魔法がかけてあるけれども、念の為にそうしてほしいとアリッサさんに言われた。



「こんにちは、アリッサさん」


「いらっしゃい。今日も勉強しに来たの?」


「そうだよ!」



 僕が店に入るとアリッサさんはカウンターの奥から声をかけてくれる。店にかけてある魔法のせいで年中閑古鳥が鳴いている。今のところ僕が見たことがあるお客さんは一人だけだ。

 旅の商人さんらしいけど、目深にローブを着ていたので顔は見えなかった。

 アリッサさんの様子からして馴染みの人なのだろうと思うのだけど、僕の前では無言で特に何のやり取りもなく、アリッサさんがカウンターに袋に入ったものを出し、その商人さんはその代金と思われる皮の袋を置いて出て行くと言う、異様な取引の仕方だった。

 まさに魔女の店と言わんばかりのやり取りには理由があって、『魔力持ちが狩られる時に、同胞の情報を売らないようにするため』ということらしい。

 帝国が魔法大国だったころの旧世代の魔道具には、考えていることを暴くような魔道具やら、心を操るような魔道具があったらみたい。そういった負の働きをする魔道具は古い魔導師が封印若しくは破壊したとのことで、今では殆ど残ってはいないだろうけれど帝国の王城にある宝物庫や、古くからの血筋を持っている貴族の館にはある可能性が高いから、念には念を入れているのだと教えてくれた。



「さて、今日は何を教えようかしら、坊やは呑み込みが早くて教えるのは楽しいけれど、早々に教えることが無くなってしまいそうだわ」


「えー」


「ふふふ、冗談よ。じゃあ、そこの青い石の首飾りと、赤い石の腕輪を取ってくれるかしら?」



 言われた通りに青い石の首飾りと赤い石の腕輪を手に取った。この店に置いてある商品の殆どがこういった装飾品だ。

 赤い石の方は多分魔石なんだろうけれど、青い石の方を手に取ってみると不思議な感覚がした。首を傾げながらも、僕はアリッサさんに言われた通りに天鵞絨の布が貼ってある箱にそれらを並べた。



「どうだったかしら? 触ってみた感想は」


「赤い石の方は多分魔石だから魔道具だと思うんですけど、青い方は何なんですか? 不思議な感じがしたんですけど……」


「不思議な感じっていうと、強いて言うならどういう感じ?」


「えと、魔道具を作っているときに、魔石と回路をつないでいるような……」


「正解」


「え!?」


「こっちの青い石もね、魔石の一種なのよ。具体的には魔石化したサファイア。ちなみにそっちの赤い石は魔石化したガーネット。宝石は地の精霊の好む物だから、こういったものが出来易いのよ」



 新な事実に驚いていると、今では魔石化した宝石を識別できるような人が居ないから、既に旧世代の遺産になりつつあるとアリッサさんは話してくれた。



「じゃあ、これの装飾品は両方とも魔道具なんですか?」


「腕輪の方は宝石が魔石化しているだけの装飾品よ。少し前に宝石店で見つけたから買ってきたの。お店の方もこれが魔石化している宝石だとは知りもしなかったみたいだから、いい買い物だったわ。でもね、首飾りの方は正真正銘の魔道具。これには精神強化の魔法がかけてある」


「精神強化って……、魔法がそのまま発動するんですか?!」



 精神強化は魔法じゃないと発動しないのに、そんな魔導具が存在していることが驚きだった。精神強化なんかはもう使われなくなって久しい魔法ではあるけれども、物語なんかでは良く出てくる魔法だ。今では魔法を使う描写がある物語は暗黙の了解で禁書扱いになっているけれど……。



「そうよ、良く考えてみなさい、昔からある光源の魔導具は同じ原理で動いているでしょう?」


「あ、そっか!」



「魔法は使えなくても、こういった魔導具は魔法の理論と魔力さえあれば作れるからね。まぁ、坊やの体質に付いては追々調べていくとして、先ずは理論から叩き込むからそのつもりで居てね?」


「はい!」



 僕はアリッサさんから魔導具の成り立ちから教えてもらい、本来の魔導具の作り方を教えてもらうことになった。

 簡単な魔法の理論は養父から教えてもらったこともあったけれども、アリッサさんから教えてもらうことは僕にとっては知らない事ばかりだった。

 魔法陣で使われている模様が精霊族の言葉だったことを僕はこの時初めて知った。

 意味が分かれば作れる魔導具も増えるからと、僕は精霊族の言葉をアリッサさんから叩き込まれることになるとはこの時は思いもしなかったけど。



 休憩のためにアリッサさんが淹れてくれたお茶を飲んでいて、ふと疑問に思ったことを聞いてみた。長い間生きているアリッサさんなら知っているんじゃないかと思ったからだ。



「なんで、今の魔導具は魔石を動力源に使うようになったのかな」


「こういった魔導具は元々魔法が使えていたころに作られていた代物でね、その次の世代の魔導具っていうのは魔晶石という石を使って魔法の発動を補助する役目をしていたのよ。その魔昌石も枯渇して魔導具は一旦廃れたのだけど、魔石が作られるようになって再び魔導具が作られるようになった。でもね、その頃になるともう法は使われなくなって久しくて魔法の理論なんかは殆ど残っていなかったのよ。そうなると旧世代の魔導具を見本にして理論を組み立てていくしかなくて、今の魔導具の形になったのよ」


「そうなんだ……」


「まぁ、こんな機械仕掛けの魔導具を作り出したのが()なんだけど。追われる身になるとは皮肉よね」


「?」



 意味深なことを言ったアリッサさんだけれども、僕がその話を聞こうとするとさり気なく話を逸らされてしまった。そんなことよりも、アリッサさんに本来の魔導具の作り方を教えてくれると言われた方に気が行ってしまい、この時は深く追求しようとも思わなかった。



次回の更新は5月29日(日)7時です。

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