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4話 実戦デビュー

皆の技術が上がり、人前で演奏出来る程になったので、遂に、デモンストレーションライブをする事になった。

もちろん、今回はデモンストレーションという事なので、批評メインだ。ただ、上司に下手くそと正面切って言えないと思ったので、匿名アンケートにする事にした。一応字が書けない人用に、ボイスチェンジャーで録音出来る箱も用意してもらった。これは裁判で証人として出たくない人用に作られたものらしく、いつの時代でも匿名希望はいるんだと思った。


「緊張するな……」

「初めてのライブで緊張しない方がおかしいよ」

「そういうハヤトさんは緊張しないんですか?」

「場慣れしてるのはあるけど、どんな反応するのかは分からないから、演奏の緊張よりも、受け入れてもらえるかどうか心配かな?」


皆の演奏は大丈夫、人前で問題無くやれるレベルだ。後は音楽の波長が合うかどうかだ、それさえ合えばほぼ問題無い。


「そうそう、ルーティンって儀式があってね、決められたパターンをすると、緊張しなくなるんだよ。今回からやっておけば本番で緊張し辛くなるんじゃないかな?」

「具体的にどうやってするんっすか?」

「我が説明しよう」


普段は気配を消すと言っていたヴィリが、いきなり皆の前に現れた。


「まさか、ヴィリ・ロット様!?」

「ホンマもんか? いや、ホンマもんやな!」


そりゃ神様クラスがいきなり現れたらビックリするよね、空から女の子が落ちてくるのと同じ位ビックリすると思う。ここでお初なのはエクトル、ミヒャエル、ハルムの3人か、ある意味僕のちょいスパな指導のご褒美になるかな?


「円陣というのがある、それぞれ好みの掛け声で気合いを入れるのが主流らしいぞ」

「例えばどんなものですか?」

「色々あるが、男の魂という意味で『男・魂ダン・コン!!』というバリエーションもあるらしい」

「ダンコン……!?」


 女性陣が恥ずかしそうに顔を赤くしている。確かに聞いた事あるチョイスだけど、そのチョイスは純正の腐女子……あっ字が違った、純正の婦女子に対して良くないと思う。


「が、これは男性のみのバンドでやるものだから、気にしなくて良い。まあその辺りはリーダーがいるならそれに従ったらどうかの?」

「じゃあそれで良いかな?」

「ハヤト、まともな掛け声にするんだろ?」


ナタリーが初めて笑いかけてくれた。だけど、まあ見事な脅迫的な笑顔だね。顔は笑ってるのに、目は最初に会った時の殺気を含んだ目だよ。


「そういえばバンドの名前決めてなかったし、ついでに決めようっと。ここの騎士団の紋章って?」

「狼と木蓮が描かれている。騎士団の正式名称は第8イングス王宮騎士団だが、紋章から『マグノリア・ウルフ』の愛称で知られている。


へぇーそうなんだ、じゃあそこから拝借しよっと。


「ちょうど良いから、少し拝借して『マグノリア・ナイツ』ってどうかな? 円陣も騎士団の愛称の頭文字を取るんだ。僕の世界でのスペルで言えば、M・W・Nって言うんだけど、その後でオオッ! で行こう」

「下品な方向にならなくて良かった……」


……ちょっと14歳な感じはあるけど、魔法とかある世界でそんなの気にしてたら、多分やっていけないからいいや。


「今日は皆に楽しんでもらえる様に頑張ろうね、じゃあ集まって──M・W・N!」

「オオッ!」


気合いを入れた所で、セノノアに用意してもらった舞台に行く。ナタリーが歌うという事で、沢山の騎士団の皆が集まっていた。


「あれか? 新しい楽器は」

「団長ー! 頑張って歌って下さい!」


好奇心と期待が入り混じった声を浴びながら、最後のチューニングを済ませ、前もってリサに頼んだものを、ナタリーが手に取った。


「皆、集まってくれてありがとう。騎士団の代表として、私が音楽祭に選ばれたのは噂で知っていると思うが、今回はそれの練習だ」


何を頼んだかもう分かると思うけど、リサにはマイクを作ってもらった。ナタリーの肺活量を軽視している訳では無いけど、声帯に負担がかからない様に、念のためマイクを使える様にして、喉を潰さない様にしておいた。


「おそらく、皆が今まで聞いたことの無い音楽で、歌う事になる。だから後で意見を聞きたい、この騎士団を代表していくから、音楽のダメ出しを私の事に構わずやって欲しい。もちろん、良かったら良いところも書いてくれ。もし、この評価で私が怒る事があったら、1週間私にタメ口で話しても良い事にするから、安心してくれ。それでは歌わせてもらう」


ナタリーのMCが終了し、僕がカウントを入れドラムを叩いて曲がスタートした。最初は皆ギターの音に驚いていたが、カントリーな要素も取り入れたメロディに、次第に皆の顔が聴く姿勢に入っていった。


「2人だけの散歩道 ゆっくりと歩く顔はもう赤く

この時期はまだ寒くて 少しだけ肌に触れていたい

流した涙を拭き取ってくれた あなたと


あの坂道駆け抜けて 2人の約束果たそうよ

花びらがきっと祝ってくれる 幸せ願ってそっとそっと」


ナタリーに負けじと、間奏でリサが魅せる。それにハルムのキーボードがハーモニーを奏で、曲を盛り上げる。僕の優しいドラムでリズムを支え、ミヒャエルとエクトルがリズムとメロディをリンクする。

やがて曲が終わった頃には、一瞬静まりかえった後、盛大な拍手をもらった。


「ブラボー!」

「いつもの3割増しでカッコ良いー!」


歓声にナタリーが呆然としていた。今までコンプレックスだった音楽で、喝采を浴びた喜びは、キャパシティを超えてショートしているんだろうな。


「ありがとうごさいます! ナタリーは嬉しさの容量越えて、呆然としてるので、代わりに僕からお礼を言わせてもらいます!」


こうして、取り敢えずは大成功の初ライブで、ナタリーも自信がついたみたいだから、それが一番の収穫かな。

そして、アンケートを見ると大方好評だったが、もちろんダメ出しもあった。


「『慣れない音楽だったので、凄く違和感を感じます。声もガラガラで、好みではありませんでした』……これは予想通りだね、コレと同じ内容はどんだけある?」

「10人に1人位はあります」

「思った以上に少ないの、年代別には?」

「若い人にはほとんど受けてんな、年寄りは半々や」


その内容は、今までに無い楽器と音楽が良いというのと、逆に嫌という人が多かった。保守的な人には新しい音楽は好かないかも知れないけど、中立や好意的に受け取る人も多かったのは次に繋がった。


「音楽なんて好みがあって当たり前だよ、好きの比率を、過半数以上にすれば取り敢えず大丈夫、出来れば7〜8割位は良いと言ってくれれば良いけどね」

「その心は?」

「10割だと、完成されてそれ以上が出せないからか?」


ミヒャエルの問いに、ナタリーが思わぬ正解を出してきた、これはかなり真理に近い。


「そうだね、完璧を求めるから音楽が出せるところはあるよね、完璧な曲作れたら僕、曲作るどころか、音楽家廃業するかも知れない。でも、物心ついた時にはもうドラム叩いてて、ずっと音楽やってるけど、未だに完成されて無いんだよね。多分死ぬまで完成しないね」


その事を聞いた男子3人組が真剣に聴いているのを見て、少し恥ずかしくなった。僕は三枚目の方向だから、そんな真面目な話しているとむず痒くなってくる!


「でも、そんな曲が完成したら、ナタリーのプニプニを堪能しても良いよね?」

「良いわけ無いだろう!」


顔を真っ赤にしたナタリーは、僕にローキックをかましてきた。痛いけど、笑い話に出来て良かった。


「このバカが! もう知らん、剣の稽古をしてくる」


ナタリーは休憩室から出て行ってしまった、そりゃ僕が悪いけど……。


「……セクハラですよ、さっさと謝ってきて下さい」

「あれはダメや、せっかく良い事言ったと思ったら……」

「リーダーの事をディスるっす、ブーブーっす」

「女性にあれは最低な発言です、関係改善の為に、早急に裏庭に向かわれた方がよろしいかと」


リーダーの威厳なんてどこにあるのか、完全アウェーで部屋を追い出された僕は、裏庭にいるという言葉から、裏庭に向かった。




☆☆☆☆☆☆



「ふんっ、はっ、やっ!」


裏庭に行くと、ナタリーが刺突と斬撃を繰り返していた。その流れる動作は力強さと、的確に仕留めるという意識の元で、急所を狙ってやっているのが分かった。こういう練習はキツいが、かなり身になるものだから、努力してその地位にまで昇りつめたのが、ハッキリ分かった。


「……ナタリー、ゴメンね」

「……ふん、なら言わなかったら良かったのだ」


おっしゃる通りです。言わなかったら怒られない事だってある、反省してます。


「僕さ、カッコつけるのが嫌なんだ。なんだか真剣に聴いてたから、そんな大層な奴じゃ無いのに、すごい事言った感じになりたく無かったんだ」


ナタリーは不思議そうな顔をして、質問してきた。


「何でだ? 知らない音楽を伝えて、私に自信をつけてくれたのに、凄くない事はないんじゃないか?」

「……っ!」


ナタリーって素直に褒めるから、天然たらしだ。気をつけないと、相手を待たずして口説く位好きになりそうだ。


「な、ナタリーが頑張ったからだよ。僕は教えただけで今回は歌ってないし、先輩の曲を借りただけだし──」

「それでも、自分の声を少し好きになれた。小さい時からいじられ、嫌いだった声が」


そう言ったナタリーは、普段のクールな顔から、優しい笑顔を見せてくれた。……本当に破壊力抜群だ、ロケットランチャーも敵わない程に。


「約束果たせるかな……」

「……っ!」


何故かナタリーが顔を赤くして顔を背けた。

もしかして、聞かれていた……?


「あっ、その……」


我ながら情けないが、あまりにもウブだというのが分かった。そして、ナタリーも恋愛経験がないのも分かった。



☆☆☆☆☆☆



本番前に首都に到着した僕たちは、各々下見や仕事に励んでいた。町は活気が出てきたとエクトルが言っていたが、僕から見たら少し元気のない様に見える。おそらく、更に酷かったのだろう。そんな復活を賭けた音楽祭に失敗は許されないね。


「団長、書類はここに置いておきますね」

「ああセノノア、ありがとう」


本番前日にも関わらず、団長の責務を果たしていて、本当にすごいなあと思う。


「無理はしないでね、明日が本番なんだから」


今回のライブは成功したが、本番に成功しなければ意味がない。ボーカルがボロボロだと話にならないのだ。


「もちろん、今回は軽めにしている。その証拠に今ので最後だ」


ペンを置いたナタリーは、腕を伸ばして体をほぐした。


「みんなも寝たし、明日はやり切れると良いなー」

「あれから更に練習したんだ、あとはちゃんと思いを届けられる事が出来れば問題ない」


そう断言したのを見て、僕はナタリーに歌を歌ってもらって良かったと思った。これからの本番に気負ってないのが、上手くいきそうな感じを出している。緊張はしているだろうけど、こういう感じの時は不思議と上手くいくケースが多い。


「お二人とも頑張ってくださいね、それでは、お休みなさい」


セノノアが部屋を出て行くと、僕も部屋を出て行こうと扉に手をかけた。


「明日も頼むよ、リーダー」

「よろしく、相棒」


お互いにフッっと笑って僕は部屋を出た、ナタリーも頑張ってるなら僕も頑張らないとね、さあ、明日は楽しもう!

次回からは不定期更新です。早めに出すように頑張ります

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