3話 下準備を整えて
「もう大丈夫かい?」
「ありがとうございます、少し落ち着きました。……寝ている時に、カルレラの息子に襲われそうになって、もうダメだと思いました」
「済まない、リサ……」
「良いんです、助かったんですから」
すっごいピンチぽかったけど、なんかラブラブな感じだから、取り敢えず良かったのかな? 少女は、セノノアに笑顔を見せていた。なかなか可愛い笑顔だが、ヴィリが転送して来たって事は、若いながらも立派な魔法使いって事だ。
「こんにちは、ジョー○・○ルーニーです」
「こんにちは、ジョー○・○ルーニーさん、わたくし、リサ・レイル・バーネットです」
「あの、リサちょっと良い? なにサラッと嘘ついているんだ、お前はサイゴウハヤトってちゃんとした名前があるだろ」
良かったーツッコミ入れてくれなかったら、リサの中ではジョー○・○ルーニー決定だよ。
「ちょっとした冗談だよー、西郷隼人です、隼人って呼んでね。僕の国は名字が先なんだ」
「ハヤトさん、改めましてこんにちは。──珍しい髪ですね?」
「この世界って、黒い髪は珍しいの?」
「人間、獣族、翼族、竜族、魔族にエルフに小人と会ってきましたが、黒い髪は見た事ないです」
なるほど、この世界は色んな知性を持った種族がいるんだね。その中でも、僕の髪は少数派だと。
「僕の世界では、逆に緑は普通存在しないね。赤髪も少数派、白髪とかは年配か、病気の人しかいなかったなあ」
「僕の世界……?」
「ふむ、我が呼んだからには、お主にも説明しよう」
「……!? ヴィリ・ロット様ですか!?」
ヴィリが僕の経緯を説明すると、リサは真剣な顔をしていた。
「つまりは、わたくしの力を借りたいという事ですね?」
「簡単に言えばそうだね、ナタリーをバカにしている、髪の毛の後退がハゲしいおっさんを驚かせたいんだ」
「……ぷぷっ、わたくしたちの年代で、カルレラに対しておっさんとも、ハゲと言ったのもあなたが初めてです。わたくしでよろしかったら力を貸します」
良かった、まずはワンステップクリアだ。次は楽器の話だ。
「そうそう、ここの世界って、ギターの概念はあるかな?」
「……ありますけど、主流ではありません。オーケストラでは使用しませんから」
今はそれで充分だ。0から1を作るのは難しいけど、1から1を加えるのは、技術と知恵があればまだ楽だ。……どっちも大変だけどね。
「絵してもらえないかな? 今回の肝なんだよ」
意外にも描いたのはセノノアで、絵に造詣が深く、上手に描いてもらったギターを見ると、旧式の5弦だった。
「これを6弦にして。1番低い音が出る様にしてもらって、更に電子音が出せるかな? ……こんな感じで」
リサも音楽プレーヤーに驚いていたが、今はそれに構っていないで、エレキギターのソロを聴いてもらう。
「箱から音楽が出る世界があるんですね……」
「作れそう?」
「音の雰囲気は問題無いです。後は、弾く人と細かい所を擦り合わせます」
本当にしっかりしてるなー、貴族や魔法使いというより職人さんだ。無駄な答えがほとんど無い、時間が限られている中ではありがたい。
「後幾つかあるんだ。さっきのイラストみたいなコントラバスと、色んな音が出るピアノ。音の変化を加える機能を持った箱、音が小さくなるから、さっきの箱と組み合わせて、音を大きくする機能も併せて」
「厳しいですね……魔法の所はともかく、土台部分もわたくしが作っていたら、完成で当日になってしまいます」
人手不足をどうするか? そんな時は人に頼ろう!
「ナタリーすわぁん! 部下貸してー!」
必殺、甘えん坊攻撃! 甘えん坊攻撃とは、ギリギリのスキンシップで、母性本能を刺激する技だ!
「ちょ……! セノノアやリサが見ているだろ!」
「お願いー! 作戦が失敗しちゃうよ〜」
なんか、やたら照れているナタリーが可愛いが、これ以上やると拗ねそうなので、両手を握って、相手の目を見つめた。
「……っ! ああわかった、元より協力すると言っているだろ。だからそんなじゃれるな」
「ありがとう! じゃあ支障の無い範囲で、工作員と、耳が良い人を連れて来て」
ナタリーが照れながら連れて来た人は、楽器作り5人と音審査5人の併せて10人で、後20人程来れるそうだ。朝昼晩のローテが出来るのは嬉しい想定外だった。
「ありがと、ナタリー」
「お代は音楽祭を成功させる事だ。……わたしも頑張るから、ハヤトもな」
さあ、ようやくスタートラインに立った。号令をかけますか!
「えーこんにちは、ナタリーの友達の隼人です。皆さん、ナタリーの事を尊敬してますか?」
「勿論です!」
「クールな姐御について行くと決めてます!」
「ただ、彼女が虜になるのは勘弁して欲しい……!」
「……意識してやっているわけでは無いが、すまない」
……まあ、カッコ良いもんねナタリー、女子受けするタイプそうだもんなぁ。おっと、気を取り直して。
「これから作る楽器で、ナタリーに恥を掻かせようとしたハゲをぎゃふんと言わせるぞ!」
「「「オオー!」」」
気合いを入れた所で、早速楽器作りを開始です。まずはプレーヤーの音を聴いてもらって、僕が伝えた形を基に、セノノアとリサの共作の楽器設計図を見せた。──夫婦の共同作業が、設計図っていうのはなんだか地味だけど、2人とも真剣だったし、茶々を入れるのは止めておこう。
「この箱はアンプって名前なんですけど、2種類作ってください。変化を加えやすいのと素直に出すのと。──ギターは弦の太さを変えてもらえれば上手くいきます、バスはギターよりも大きめで……」
テキパキと指示を出して後を任せたら、次はナタリーの発声練習を外で開始する。
「まず、今までの歌い方をかなりいじるから、結構大変だよ。声楽は正統派だけど、僕が教える音楽──POPは歌い手の癖を持ち味にする。だから、不完全を良しとする歌なんだ。まずは裏声を使わずに高い声を出して」
「分かった──」
こんな感じで、練習と製作を進行させながら、3日経った。その間にもナタリーは鍛練、僕はドラムと剣術の練習を欠かさなかった。
そして、凄いスピードで楽器とアンプが完成した。
「これでどうですか?」
「ありがとう、試し弾きするね──」
まずはギターを一通り弾く、どのコードも問題無い、ちゃんと音が出ていたし、アンプもしっかりしていた。
「3日でこれって完璧! 次はベースも良い?」
「どうぞ、音審査は完璧です」
そう言ったリサの言葉通り、指でもピックでも理想の音が聞こえた。こっそり要望していたスラップ対応もバッチリだ。
「ピアノも──キーボードって名前ですね──どうぞ」
キーボードは色んな音が出せるので、取り敢えず、今回使う音だけを使える様にしてもらった。
「リサ、ありがとう。──最後にもう1つ、作って欲しいものがあるんだ」
リサに要望を伝えると、笑顔で了承してくれた。
「分かりました、後は、レッスンお願いしますね」
さてと、楽器は揃った。後は楽譜を見ながらで良いから、本番までに演奏出来るように特訓をする。楽器を担当するのは、僕とリサをはじめ、製作に関わった耳の良い人から音楽を習った人を集めた。と言っても、ツインギターに、ベースドラムのリズム隊、キーボードとボーカルで6人程だ。もちろん、ボーカルはナタリー、僕はドラムスなんだけど、意外にもリードギターをリサがやる事になった。
「ギターを弾いた経験の無い人が多いですし、練習も限られます。それなら、部外者のわたくしがやった方が、しっかりした音楽が出来るでしょう」
「そりゃそうだね」
後のメンバーはリズムギターがエクトル、ベースがミヒャエル、キーボードはハルムというやる気満々の年下が参加してくれた。
「団長の為に頑張るっす!」
「力になれる様に、全力を尽くします」
「がんばんね、よろしく頼むわ」
みんな15〜16歳と、フレッシュなメンバーだった。……そういえば、リサっていくつだろう?
「わたくしですか?」
「嫌なら良いんだけど、リーダーを決めるのに年長者が良いかも知れないし、参考に」
「ナタリーと同じ19です、ようやくセノノアさんが落ち着いたので今年には結婚する予定です」
おおっ……僕が最年長か、音楽的にもリードしないといけないし、リーダーって事で良いのかな?
「えーっと、バンドは歌う人を1番目立たせます。だけど、まとめ役は別なので今からやる音楽に詳しい僕がリーダーって事で良いですか?」
「ハヤトは具体的に、どんなことをするんだ?」
「音楽の練習指示と雑用かな? もう1つはバンドの窓口、でもこれは、他のみんなにも手伝ってもらいたい。僕は別の世界から来て常識とか色んな知識が浅い。せっかく作ったバンドを良くしたいっていうのがあるから、協力お願いします」
しばらく沈黙が流れ、やがて最初に口を開いたのはナタリーだった。
「まあ、貴様はちゃらんぽらんな所があるから、音楽以外では盛大に援護する。音楽の指示は頼んだぞ」
ナタリーの言葉を受け、他のみんなも賛成する。
「ギターについては初心者です。いくら音を出せるとはいえ、演奏するにはハヤトさんの指示は必要です」
「おいらも人前では初めてっす、ガンガン指導してくれっすよ!」
「オレも楽器に触れるのは初めてです、講師はハヤトさんがいいでしょう」
「わてはまだ経験はあるけど、あんさんは信用出来そうやから、ちゃんと従いましょ」
みんな……ありがとう! でも、1番ありがたかったのは、ナタリーが最初に賛同してくれたからだね。みんなナタリーを信頼しているから、割とすぐに賛成してくれたんだと思う。
「じゃあ、楽器の弾き方を教えるから、頑張ろうね! ただし、音楽に関しては厳しいよ?」
「望むところだ」
みんなもナタリーに賛同する感じで頷いた。さあ、特訓だ!
◇◇◇◇◇◇
という事で特訓をスタートした。ナタリーをはじめ、ほとんどは仕事優先なので、合同練習が出来ない場合もある。それでもまずは、個人のレベルアップを図って合同練習で無駄なくやれるようにするから、最初は問題無い。それに、僕とリサはお客さんだから、存分に練習出来る。
「まずはダウンピッキングっていう、ピックを使って上から下へ弾いてみて」
「こう……ですか?」
「そうそう、出来なかったらリサを『赤ちゃん』って呼ぼうと思ったけど、出来てるね」
何本か作ったギターで、リサと一緒に練習する。マルチプレイヤーの父は、ロックで使う楽器をプロレベルで演奏出来た。そのおかげで、僕もドラム以外の楽器でも、人前で演奏して拍手がもらえる位には上手い。
エクトルにも同じ様に教えた。2人とも練習を必死にしたのか、2週間経つ頃には、基本的なテクニックも完璧にこなせる様になっていた。
「お願いします」
「うん、ベースとドラムスは地味だけど、失敗したら目立つわ、曲が崩壊するわで、バンドの根幹部分だから、頑張ろうね」
「分かりました、ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願いします」
並行してミヒャエルにベースを教える。さっき言った通り、リズム隊がボロボロなバンドはプロにはいない。逆に、僕とミヒャエルがしっかりしていたら、曲がマシになる。頑張っていってみよう。
「ベースは役割がシンプルな分、基礎練がモノを言うから、しっかり毎日練習しようね。ピックと指とで弾き方はあるけど、今回は指弾きでやるよ。スタンスは……」
ベースは色んな事が出来るが、今回は縁の下役に徹してもらう。その甲斐あって、ミヒャエルも大分上手くなった、プロレベルでは無いけどね。
「ハルム、よろしくね」
「よろしく頼みますわ……でも、基本は変わらんやろ?」
軽い言い方で挑発的なハルムだが、言っている事は正しい。しかし……。
「でも、合奏経験は無いでしょ?」
「……痛いとこつきますなぁ。確かに、合奏は無いわ、ソロでしか弾いとらんからな」
まあ、他のパートに比べて、基本や奏法はほぼ良いので、後はリズムの練習だ。メトロノームを使ってリズム感を養わせ、ついでに僕もベースの練習をした。
「あんさんは打楽器じゃ無いんか?」
「色んなパートが出来るけど、毎日ちゃんと練習しないと、腕が鈍るから。それにベースとギターはプロレベルじゃないし」
正確には、一流のプロレベルでは無いと言うのが正しいけど、そんな事言っているヒマがあったら練習したいから、言うのを止めた。時間が無いし。
こんな感じで楽器は練習していき、僕はある提案をした。
「1曲演奏できる様になったから、騎士団の前で演奏してみよう」
「ほ、本気か!?」
ナタリーが不安そうな顔をしている。ハスキーな声を披露するのが不安なのかもしれない。
「本番はもっと色んな人の前でやるんだよ、1回知った顔の人に意見を聞きたいんだ」
「それはそうだが……」
なおも渋っているナタリーに、僕は説得を試みる。
「人前で発表しないと上手くならないし、方向性も見えない。知った人の前だからまだ優しい意見で済むし、打たれ強くなるには軽いパンチからだよ。──それに、自信は成功しないと身につかない。挑戦しないのに成功もへったくれもない!」
自信が無いのは分かる、その19年間イジられて壊された自信を、1ヶ月で完全に直すのは流石に無理だ。だけど、それでずっと立ち止まるのも無理でしょ?
「ナタリー、無理しなくても……」
「──いや、痛い所を突かれたな。分かった、このバンドのリーダーはハヤトだ、リーダーの指示に従おう」
そういう事で、本番1週間前に1回騎士団の前で披露する事にした。ちゃんとした意見を聴ける様に準備しておこっと。