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9話 老練魔道宰相

丸め込まれたナタリーに、ダメだこりゃと思っていると、スッと隣に洗練された衣服を着た、老年に差し掛かった感じのおじさまが立っていた。ダンディーさでは我が家の父に勝るとも劣らない渋みと、好々爺という表現がピッタリな、柔和な表情を浮かべているけど、修羅場をくぐり抜けた人にしか出せない凄みが目の奥に宿っていた。

「おやおや、ソフィア様はまだまだ詰めが甘いですな。何とかまとめはしましたが」

「誰ですか?」

「これは失敬、演奏が趣味のジジイですよ」

「ただ演奏が趣味なだけのジジイじゃないでしょ? よっぽどの修羅場をくぐり抜けてないと、そんな目なんて出来ないと思うけどー?」

「あっはっは、あなたもただの異界人では無さそうですな。──人を殺すのになんの躊躇いもないのでしょう、かなり血の臭いが染み付いていますよ」

「……質問に答えてないけど」


偉そうなおじさんを睨みつけると、おじさんは慌てる事なく深々とお辞儀をした。


「私めは、イングス国宰相をしています、バーナード・ヘイミッシュ・アンブラーと申します。お見知りおきを」


この人が国のナンバー2って事か、さっきの言動からすると、部下じゃなくて相談役に近いのかな? とりあえず、国を潰す奸臣では無さそうだから、ハゲよりましか。


「西郷隼人です、──政治の道具としか思われてないだろうけど、こっちも使われるならメリットを享受させてもらうから」

「ほっほ、その面は否定しませんが……」


正直な大人が多いな!? まあ力に群がるのは世の常か、僕は力を提示して、見返りに色々な権利を行使させてもらうだろうから。


「ですが、あなたの音楽には素晴らしい可能性を感じました。個人的には、好きな音楽でしたよ」

「それはありがとう、技術面は急造だったから大した事なかったんだけど……1つの可能性を提示は出来たかな」

「その事なのですが……」


バーナードが僕に耳打ちで話した事は、とても魅力的な提案だった。


「時間の流れが全く違う場所、お貸ししましょうか?」

「……要は時間を気にせず、練習出来る場所を提供するって事?」

「ええ、もちろんタダとは申しませんが……」


時間を気にせず練習が出来るとなると、こちらとしては相当なメリットになる。……ただ、対価とするものは相当バーナードに取ってメリットの大きいもの……こちらと同じか、それよりも大きなメリット、そしてかなりの大変なものと推測出来るかな。

まあ、いざとなったらナタリーに色仕掛けでもしてもらおうか! その隙に攻撃してみんなでさっさと逃げるとか。


「頑張ってみるよ、内容は?」

「ドレーク公爵との和解を実現させる事です。国の財政が悪化している理由の1つは、ドレーク公爵からの納税がない事ですので、これはなるべく早い事解決しなければならない問題なのです」


家臣が税金滞納って……相当ヤバい事してるけど、潰すんじゃなくて融和路線って事は、相当力を持ってるんだろうなー。


「ドレーク公爵って相当凄い人だったりするよねー……?」

「先代は前王に反発し、一戦交えた上に退けた名将です。後を継いだ現当主も領地を急速に回復させ、領民に大変慕われているお方です」


それってドが付く程のアウェーじゃないかなぁ……ボコった相手が味方になって金寄越せって言うわけだから。まず卵や石は飛んで来るね、最悪領主様から襲撃があるかも。


「ですが、まずは各国のご挨拶を済ませてからにしましょうか」

「そりゃそうだね」


その間にアポを取ってもらって、招待の準備やら戦闘準備やら済ませてもらおうか……本当は穏便に解決してほしいけどね。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



伸びたバカ親子や、血気盛んなケモミミさん達を引き連れて去って行った女王と宰相を見送り、次々に来る使者と面会した。

この後すぐに来たのは大陸の中で1、2を争う強国、フローラン。更に強くなりたいのか、はたまた弱ってるイングス国に力を取り戻されたくないのか、それとも単純にソフィアの事が気に入らないのか、熱心に僕の事を口説いていた。


「我が国に来ていただければ、この世の全てを手に入れる事が出来ましょう」


……ぶっちゃけ、文明が進んでいる元の世界から来てる僕としては、そんな口説き文句は花粉症になってる人の鼻水よりも有り余ってて全くいらない。

まあ、何かしら軽く協力して、見返りをふんだくろうか。その為にはと……。


「このイングス国には、異世界にいきなり連れてこられて不安だった私を保護してくれた恩があります。容易に裏切れば私もフローラン国も世間から非難を浴びるでしょう」

「しかし……」

「ですが、あなたの純粋な気持ちはしかと感じました。代わりと言っては何ですが、我が故郷の農業技術を特別にお教えしましょう」


その言葉を聞いた途端、使者の目が光った気がした。使者さん露骨過ぎるって、オマケにさっき教えたばかりだというのに。完全に踊らされてる……。

喜んで帰って行く使者さんを見送った後、ナタリーが鬼畜とボソッと言ったけど、ナタリーがピュア過ぎる気もする。

次にやって来たのはメルヒという国、ナタリー情報では山に囲まれた国で、武器や傭兵で国のサイフを少しずつ重たくしている永世中立国……スイスみたいな国かな?


「我が国に敵意はありません、これまで通りよしなに」

「武器だけでなくて、全般的に凄い職人さんがいると聞きましたが……」

「ええ、それが?」

「山間部でも期待できる農業技術、買いませんか?」


ピクリと使者さんの眉毛が動いた、やっぱり山間部じゃ魚は期待できないし、畑が少ない農業も不向き、せいぜい酪農か畜産かって感じだろうしなぁ。


「……何を求めているので?」

「今回は楽器の生産に協力して欲しいです。後で設計図を見せるので、お受けするのであれば情報の一部、成功すれば残りの情報をお教えしましょう」


それを聞いた相手は少し間を置いた後、後で設計図を見たいと言って去って行った。これで大量生産の目処が立ったかな?

そうして何件か交渉していると、ヴィリが突如上から現れた。


「ふむ、ただのたわけかと思ったら、なかなかセコい手を使うのお主は」

「まあ大した事ないよ、ナタリーがコッチを白い目で見る以外は」

「特別に教えると言っておきながら、大抵使い回しではないか!」


そりゃ小出しにするなら使い回さないと、何でも知ってる訳じゃ無いし……それに全く無駄な情報は教えてない。簡単に出来る生産力アップと、その地域に合わせたやり方を教えている。そうしないと、僕の信用が無くなるし、また何かしら協力してくれなくなるからね。


「あっそうだ、次にやって来る使者はジェンダって国何だけど、ヴィリは知らない?」

「……面倒な国じゃ、我は隠れる事にする」


その言葉の通りに、ヴィリは姿を消してしまった。仕方が無いので、ナタリー先生に教えてもらう。


「ジェンダは宗教国家だ、アークル教という教主が国主を務めている……しかし、我が国に伝わる神話と違い、神は唯一の存在と言っているんだ」

「えっ、どういう事?」

「文献によって一神教となっていたり多神教だと書いてあったりと違っているんだ、これは国によっても違うから意見が分かれて、多数の国が一神教論を支持しているから、ジェンダ国がかなり力を持っている」


うーん……イングズ国、結構立場弱いね。そこに勇者というジョーカーが出てきたんだから、無理にでも止めようとするよね。いくらソフィアが有能でも、強国2つを相手にするのは厳しい、だからハゲを無闇に処分出来なかったんじゃ無いかな。人材を減らしたく無かったから。

そうソフィアの苦労を思っている内に、ジェンダ国の使者がやって来た。


「これは勇者様! 無事でなりよりです」

「それはどうも」

「この異教徒の国にやって来たのは不運でしたが、ワタクシ共が来たからには安心して下さい。さあ今すぐ我が国に参りましょう!」


もうおべっか感が凄まじくて、笑うのを堪えるのに必死だった。それに異教徒って……これだから間違ったプライド持っちゃった宗教国家ってヤツは……。


「ちょっと待って下さい、勇者はもう1人いますよ」

「へっ……?」

「ここにいるチャンドラー公も対の勇者として指名されたのですよ?」


それは聞いてなかったと言わんばかりに、使者の目が見開いていた。……だから正直な以下略。


「チャンドラー公は現王と懇意の間柄、いくら手負いのイングス国を相手にするといっても、余計な消耗は避けたいでしょう? それに、2人1組の勇者を片方だけ持っていても仕方ないでしょう」

「それなら……チャンドラー公もご一緒に──」

「祖国を裏切る事はまずありえない」

「──と言っている辺り、望み薄ですが?」

「ぐっ……ぐぬぬぬ……!」


取り敢えず鼻を叩き折ったけど、これ以上やったらキレるだろうから、ちょっと優しい言葉をかけてあげようか。


「──ですが、全く協力しないとは一言も申しておりません。貴殿の国では異教徒かも知れませんが、イングス国もジェンダ国と一戦交えるつもりも無いのですよ……ですよね、チャンドラー公?」

「あ、ああ。ジェンダ国と戦ってもメリットなど無いし、懇意に出来るなら両国にとって嬉しい事この上ない」


ナタリーが上手く話を合わせた所で、僕はもうワンプッシュ入れておく事にする。


「他国とはまた違う、新たな情報をジェンダ国だけに教えて差し上げましょう」

「そ、それはまことですか!」

「ええ……ですから、これからもイングス国とはよしなに。ちなみに圧力鍋というものでして……」


そして僕はジェンダ国の使者に、圧力鍋の存在と作り方を教えた。まあこれが結構製造難易度高い代物だけど、魔法の概念があるなら、割と作れそうだからいっか。仮に作れなくても別にどうでも良いし。

そんな正しい製造方法を、テキトーな男に教えられて取り敢えず満足したと顔に出ている使者を見送って、僕は思いっきりダラけた。


「はぁー! 親の凄いが分かるよー!」

「……そんなに礼儀が正しい人だったのか?」

「外ヅラを素早く作るのが本当に上手く人でさ、信頼してる人しか素顔見せなかったんだ」

「その素顔は?」

「人をイジメるのが大好きなドS魔王」

「……親子揃って最低だな」

「僕も入るの!?」

「当たり前だ!」


もう酷い! 今度ナタリーが犬好きな事を騎士団の皆さんに暴露してやる……。


「……あっ、ナタリー、今度ドレーク公爵の家にしゃもじ持って突撃して、ご飯を食べに行くから」

「貴様死ぬ気か!?」

「流石に『突撃! 隣の昼ごはん』は冗談だけど」

「そっちもダメだが、ドレーク公爵だぞ!」


ナタリーの中でドレーク公爵は、恐ろしい人としてインプットされているらしい。でも、行かないとどの道ダメだろうしなー。バンドもこの国も。

ナタリーが顔を真っ赤にして、熱く危険な理由を語ってくれた。


「良いか、ドレーク公爵側3千に対して、こちらはその5倍の1万5千の軍を連れて戦ったんだ、それを向こうは離間、虚報、闇討ち、あらゆる謀略や策略を使って壊滅状態に追いやったのだ」

「その時にナタリーはいたの?」

「ああ、それまでの戦略概念を打ち砕かれた。……それ程までに惨敗だった」


思い出したのか、ナタリーの顔が赤から青に変わって項垂れていた。ナタリーのトラウマになった大敗を作った名将か……。

そうなると、なおの事友達になってくれたら、頼もしいよね。だって今のドレークさんも凄い人だって聞くし。それに……。


「じゃあナタリー、リベンジしない?」

「…………はっ?」


ポカンとした顔をしているので、言葉を変えてもう一度言う。


「今度はナタリーが友達になるんだ、そうすれば戦争に負けて、交渉に勝つ事になる。という事は、結果的にナタリーが勝つって事だよ」


僕の発言にナタリーは呆れた感じになりながらも、笑ってくれた。


「全くお前は……最高のバカだな」

「どうもありがとう」


ナタリーらしい貶した褒め方にちょっと打ち解けた感じがした。


「じゃあ手土産にする曲の練習でもしよう──ドレークさんの人となりとか知らない?」

「ウワサで聞いた話は……男女問わずに熱烈なファンが多いと」


熱烈なファン……? ナタリーみたいなカッコ良い人? 取り敢えず、新曲を披露出来るように、基礎練と新しい楽譜を何個か作っておこうっと。

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