出会い
遅くなってすみません。
深夜に書いたので、おかしなところがあったら、訂正しますのでコメントお願いします。
「・・・これは・・・」
大勢の人が行き交う大通りで誰にも届かないであろう呟きが人々の喧騒に消えていく。
完全に迷子になっていた。
丘からキャメロットまでは迷わずに来ることができた。
丘からはずっと街が見えていた。ラウンズ士官学院も街のどの位置からも見えると思い込んでいた。国で唯一の霊具使いの育成機関なのだから、と。だが、普通に考えてみれば、キャメロットはログレスの首都、土地も広ければ建物だって高いものが多い。
しかし、ロイドも初めての土地で何の情報も無しに動くほど馬鹿ではない。キャメロットの門番に士官学院までの道のりは聞いた。
そしてその通りに進んだ・・・はずだった。
しかし門番に道を尋ねてから約1時間後、ロイドは再び門の前にいた。
「こうなったら、いつもので行くか」
ロイドは昔から迷子になることが多かった。
しかし、自分が方向音痴だとは思ってはいない。あくまで自分では。
方向音痴というのは、目的地に辿り着けない者のことを言うのであって、目的地に辿り着ければ、方向音痴ということにはならない。というのがロイドの持論であった。この持論の通り、これまでロイドは目的地には必ず辿り着いていた。その方法というのが、
「すまない」
通行人の1人に声をかける。
「あら、若い剣士さん、どうしたの?」
腰の霊具を見て判断したのだろう、女性は呼びかけに応じてくれた。
「ラウンズ士官学院はどの方角にあるか知っているか」
「士官学院に行きたいのね、それならこの道を・・・」
ロイドの目的を察したのであろう。女性は士官学院までの道のりを教えてくれようとする。が、ロイドが欲しい答えは道のりではない。
「道のりはいい、方角だけ教えてくれ」
「あら、そう・・・それなら、こっちの方だったと思うけど・・・」
ロイドの言葉に少し戸惑いながらも女性は指さしで方角を示してくれた。
「ありがとう、このお礼はまたいつか」
女性にそう言うと、ロイドはその方向に向かい走り出した。
走り出してすぐに建物の壁が目の前に迫る。
このままいけばぶつかる。
「ふっ!」
壁にぶつかる直前、思い切りジャンプする。
霊具使いは霊具の影響で身体能力が極端に上がる。よって2、3mくらいの壁なら難なく越えられる。
が、目の前の建物は10mくらいある。これは霊具使いでも越えられない。
「っっ!」
さらに壁を蹴って登る。垂直な壁を蹴って登るのは至難の業だが、もう幾度となくやってきたことなので今では容易に登ることができる。
ほんの数秒で屋上に辿り着く。
「あっちの方か」
女性が示した方角を見ると、今自分がいる建物と同じくらいの高さの建物が所々にある。
とりあえず目の前の建物の屋上に飛び移る。
これが、ロイドが必ず目的地に辿り着く理由だった。目的地に向かって一直線、障害物があれば乗り越える。あまりに単純で無茶苦茶だが、ずっと迷っているよりはマシだ。
テンポよく建物の屋上を飛び移っていく。
「っ!?」
5つ目の建物から跳んだ時、強い追い風が吹いて着地するはずだった建物を通り越してしまう。
細い路地に着地する。
「面倒だな・・・」
登ることには慣れたが、それなりに集中力を必要とするのでできるだけ下りたくなかった。
「よし・・・」
もう一度跳ぼうとすると、
「誰かー!捕まえてー!」
路地の奥から誰かが叫ぶ声がした。
声がした方向を向いて見ると、大柄な男が女性物のバッグを持って走ってきていた。
路地は狭いので、このままでは男とぶつかってしまう。
「どけぇ!クソガキ!」
ロイドに気付いた男が叫ぶ。
避けれるのならばそうしたいが、生憎この路地にはそんなスペースは無い。
男との距離が縮まる。男は減速するどころかむしろ加速してロイドに迫って来ていた。ロイドを突き飛ばすつもりなのだろう。
「ふっ!!」
男とぶつかる直前、ロイドは男の鳩尾に蹴りを放った。
「おぐぇっ!?」
謎の音を発し、男が倒れる。バッグは男の手から離れていた。
落ちたバッグを拾おうと手を伸ばす。すると、バッグに伸ばされたもう1つの手に触れる。
このバッグの持ち主だろう。
顔を上げると、紅い瞳に蒼いサファイアのような髪の、整った顔立ちの少女がいた。
(こいつどこかで・・・気のせいか)
「これ、お前のか?」
少女に何かを感じつつ一応確認する。
「いや、このバッグは私のではない。あちらの女性のだ」
そう言って少女は路地の奥を見る。その方向を見ると、確かに、1人の女性がこちらに走って来ていた。
この少女も男を追っていたのだろう。
女性が辿り着き、少女が女性にバッグを渡す。
「ありがとうございます。このバッグ、彼から貰った大切な物で。」
女性は少女に感謝の言葉を述べる。
「いや、私は士官学院生として当然のことをしただけだ。それより、今後は気をつけるのだぞ」
謙遜しながら少女は返す。
そんなやりとりを横目に見ながら、再び壁を登ろうと跳ぼうとすると、
「おい待て、貴様」
少女に呼び止められる。
「なんだ?」
「貴様の腰にある剣、霊具だな。」
少女はロイドの腰にあるレーヴァテインをみていた。少し警戒しているようにも見える。
「ああ、お前もか」
少女をよく見ると、少女の腰にも鞘に収まった剣があった。
「貴様、学院の者ではないな、ここへ何しに来た、答えろ」
剣の柄に手をかけ、静かに少女が問う。
少女は士官学院生の証でもある制服に身を包んでいる。対してロイドは旅着のままだ、そんな者が霊具を所持していれば、ここまで警戒されてもおかしくない。
「ラウンズ士官学院に転入しに来た」
少女の目を見据え答える。すると、
「なんだ、転入生か」
すぐに少女は柄から手を離し警戒を解いた。
「お前、士官学院生なんだよな」
ほぼ分かりきっていることだが、一応確認する。
「ああ、今から学院に行くところだ」
「ならちょうどいい、俺を学院まで案内してくれ」
また一直線に進もうと思っていたが、ここで少女に案内してもらったほうが楽にすむ。
「まあ構わんが、貴様、名前は?」
「ロイド・アルカディア、お前は?」
「カスミ・アカツキだ。急いでいるのでな、走るぞ、ついて来い」
互いに名乗り、走り出す。
(そういえば、こいつ、どこか師匠に・・・)
少し前を走る蒼髪の少女に自分の師の面影を重ねながら、ロイドは士官学院への道をいそいだ。
最近現実のほうがかなり忙しくなってあまり執筆ができません。なので大体週一投稿になるとおもいます。