『たまご、天使になりました』1
『ぜろぉーっ!』
パーティの始まりを告げるような、胸トキメかせる女の子の歓声。同時にクラッカーの音がパンと鳴り、真っ暗だった室内に眩い光が射した。
音と光の源は、壁面に掛けられた大きなモニターから。モニターには華やかに飾り付けられた部屋が映し出されている。
ふわふわ浮かぶ色とりどりの風船に、手を繋ぐように連なる色とりどりの旗。
それらに囲まれて、映像の中心にはお姫様ご用達、淡いピンク色の天蓋レースの付いたふかふかのベッド。
そこにはまるでベッドの付属品のような、お人形のような、華奢で色の白い女の子がちょこんと座っている。
甘い香りのしそうなココア色の長い髪に、甘い味のしそうなりんご飴の瞳。
女の子は澄ました顔で、この映像をモニターの前に立って見ているキミを、まっすぐに見つめている。
『よっこっしょ』
女の子は小さく声を発して、ベッドの上に立ちあがった。耳に掛かっていた髪が胸元までさらさら流れて、モニター越しに甘い香りが漂ってきそう。
襟元に黄色い蝶結びのリボンがついた半袖の白いブラウスに、赤と黒のチェック柄のスカート。
女の子は自作の洋服をお披露目するように、スカートをひらつかせながら一回転すると、キミに自己紹介をする。
本当ははじめましてじゃないけれど、はじめましてみたいなものだから。
『玲下たまご16歳です。好きな食べ物はゆで卵。好きな食べ方はケチャップをたっぷりつけて。ケチャップのツンとした酸味が、卵のまろやかな甘みを引き立たせるから。塩? マヨネーズ? ソース? そんなのあり得ないから』
おとなしそうな見た目とは違って、割と強めの語調で言う女の子はーーあたし。
つまり、今キミが見ているモニターの女の子は、1か月前のあたし。この映像は、目を覚ましたキミへの挨拶代わりに用意した、録画映像だ。
ちなみに卵を使った料理は何でも好き。名前が《たまご》ってこととはあんまり関係ないけれど。
☆★☆
『それから好きなことはー』
あたしは何事もなく続けると、はっと口を噤むんだ。
一呼吸。
別に言い間違えたわけじゃない。ここは女の子らしく、恥ずかしそうな表情を浮かべて言い直すところ。
『す、好きなことは、ね……?』
『な、何だと思う……?』
上目遣いで続けると、あたしはそっとスカートに手を伸ばしていく。
答えが気になるのなら、好きなだけ、見ててもいいよ……?見ないフリ、しててあげるから……。
そんなふうに意味ありげに視線を逸らすと、あたしはスカートの両端を摘まんで、扇型に広げた。
綺麗にプリーツの並んだスカートは、天井から垂れ下がる幕のよう。
そう、甘い舞台の始まりを告げるように、あたしはスカートの裾をゆっくりと持ち上げていく。
白と黒、ボーダーのハイソックスから続く、しなやかな脚線。
なめらかな肌色は、スカートの内側に隠れていた部分が露わになるにつれて、淡く、柔らかみを帯びてくる。
あたしは今、キミに見られてる……。
そんな思考で頬を染めながら、あたしはココロの中で、キミにこう訴える。
知ってる……? 女の子のふとももは、つきたてのお餅みたいな感触で、舐めると、カスタードクリームの味がするんだよ……?
きっとうまくは伝わらないけど、伝えようとする気持ちが大切なんだから。
あたしはなおもスカートの裾を持ち上げていく。下着が見えそうで見えない、ギリギリの境界線を意識しながら、キミを誘うように、大胆に、慎重に。
やがてふとももとふとももの間の空間は、唐突に終わりを迎えようとするけれど、
あと3センチ、
あと2センチ、
あと1センチは、大丈夫……。
☆★☆
ね、ところでキミは今どんな顔をしてる?
恥ずかしくなってあたしから視線を逸らしちゃった?
それとも、もうすぐあたしのぱんつが見えると思って、じっと画面を見つめてる?
まさか、あたしのスカートを覗こうと思って、画面の下から見上げてないよね? 見えるはずないよ、大丈夫?
ま、そんなことは別に何でもいいんだ。
今一番大事なコトは、キミにあたしを《女の子》として意識させることだから。
そのために、キミの《男の子ゴコロ》を掻き立てるために、もっとも効果的な方法を、あたしはこの2か月間ずっと研究していた。
色んな本を読んだり……。
色んなDVDを見たり……。
色んな恥ずかしい思いとともに、男の子への侮蔑のココロを芽生えさせながら、そしてようやく導き出したキミへの最適解が、《絶対領域》+《チラリズム》。
女の子のふとももというものは、クリスマスの七面鳥以上に、男の子を惹きつける効果があるらしい。
でも、そう簡単にご馳走にありつけさせても、ダメ。焦らされれば焦らされるほど、男の子は夢中になるんだって。
なるほど、なるほど。




