『クローゼットを開けてみて』3
そんな意気込みむなしく、あたしの健気な作戦は、残忍なキミによって打ち破られることとなった。
以下、あたしの奮闘記。
「ではさっそくですが、これからのあなたの役割についてご説明させていただきますね」
「急に改まって、どうしたの?」
「いいえ、おかしなところなんて、何もありませんよ」
「絶対へんだよ、なんか顔とか能面みたいで不気味」
女の子に対して顔が不気味とは、許すまじ……。
でも、あたしは必死に堪えたんだ。
「お父さんからもお聞きになられたかと思いますが、これからあなたにはE計画を進めていただくことになります」
「たまごちゃんは、それでいいの?」
「たまごちゃんって、大人達に利用されてるだけでしょ?」
「たまごちゃん、結局最後は殺されちゃうんでしょ?」
キミの強烈な連続ストレートパンチ。
キミは容赦なくあたしの鉄壁を打ちつけてきた。
それでもあたしは耐えたんだよ、耐え続けたんだよ……。
「問題ありません。これは本意です」
「そう」
でも、あたしの鉄壁が崩れたのは次だった。
「2か月前に起きた異変により、樹の根第四枝部との接続地点である梨山地区は、現在、特殊な状況下に置かれています。あなたには明日からそこへ向かい、ある重要任務をこなしていただきます」
それから聞いたんだ。録画映像みたいに、
「重要任務の内容について、説明が必要ですか?」
って。そしたら。
「うん、何をすればいいのかな?」
キミは知ってるくせに聞いてきたんだ。
ううん、知ってるから聞いてきたんだ。
だってさっきの任務のときは『説明が必要ですか?』って何回聞いても、キミは毎回「いらない」とか「言わないで」とかまで言ってたもん。
今回だけ聞いてくるとかおかしいし、ずるいし、ひどい。
別にあたしだって「それはお父さんからすでにお聞きになられていましたね」とか臨機応変に言えばいいのに。
「はい、では、ご説明しますね」
録画映像のあたしになりきってたあたしは、お決まりのようにそう言ったんだ。
まぁ……キミが「いらない」って答えてても同じように言ってた可能性は否定できないけれど……。
そう思うとキミが聞いてくれた方がまだマシだったのかな……。
ううん、どっちにしても致命傷に変わりはない。要するに、あたしの作戦はこの時点で詰んでた。
で、あたしは全くなにも思わずに、頭の中にインプットされた破滅の言葉をそのまま口にしたんだ。
「あなたには、明日から毎晩、あたしとデートをしていただきます」
あれ? あたし今、なんて言った? ほんの少し違和感を覚えながら、ぎこちなく笑顔を少し右に傾けて。
「え? なんて言ったの?」
そしたらキミはわざと聞こえないフリをして聞き返してきたんだ。絶対、心の中ではニヤリと笑みを浮かべてた。
「あなたには、明日から毎晩、あたしとデートをしていただきます」
今度は左に傾いた。さっきよりも傾きが増してた。この時、あたしの鉄壁の崩壊は、もう秒読み段階に入っていた。
「もっかい、言ってみて?」
キミはお父さんみたいにしつこく聞いてきた。
今思えばキミのタキシード姿も、絶対お父さんとグルになって、あたしにイジワルしてたんだ。シネ。
「あなたには、明日から毎晩、あたしとデートをしていただきます」
次は右に。だいぶ傾いて、なんかヒューってやかんの沸く音まで聞こえてきた。
「首折れちゃいそうだけど、もう一回、言える?」
ほんとに生意気、なんだから。
「あなたには……」
言いかけたところで、あたしはこけし人形みたいにコテンと転がって、噴火した。




