第5章 天空の楽園(中編)
不思議な物音で目覚めたら、小さな毛むくじゃらの動物が自分達の荷物を漁っていた。
「んむんむ…何だか硬いし、変な味がするな…。」
毛むくじゃらは近くに置いてあった愛用のサブマシンガンの銃身を、バリボリと難なく噛み砕いている。
「う、うあああぁっ!!」
動揺の余り、手元にあったハンドガンを毛むくじゃらに向けて撃ちまくってしまったが、弾をヒラヒラ避けて頭の上に着地した。
「全く…失礼だなぁ。初対面のこんなに可愛らしい生き物に攻撃するなんて…。」
(喋った!?)
「うるさいな…朝から銃撃戦でもしてるのか?…って誰だお前。」
発砲音と謎の生き物の騒ぎでやっと目覚めたカイトウが冷静に大事な事を聞いてくれた。いや、待てよ?もしかしたらこの状況を分かって無いのかもしれない。
「あたいは、かつて人間だったムクージャ。アンタ達に忠告しに来たんだ。」
「なんの事だ?」
「今、この雲の上に秘宝が眠る巨大な浮遊山があるんだけど、凶悪な怪物が人間を動物にしてしまい、島が危機に直面している。だから、行かない様にと…。」
長い耳をピンッと立て、哀しそうな瞳をこちらに向けている。言葉は「行くな」と言っているが、その眼差しからは「助けて」と願うかの様に切なかった。
「どうする、カイトウ?…そういえばジュリーの奴が居ないが…。」
「行こう。多分、その島に向かったんだと思う。」
どうせまた彼女の事だ。迷わず目の前にある島に突っ走る筈。早く支度をして追いかけないと、手遅れになってしまう。
「ムクージャも一緒に来るか?」
「も、もちろん!肩に乗せておくれ!」
少し驚いた様子でカイトウの肩に乗るも、更に手のひらサイズに小さく見える。
「よし、じゃあ行くか!」
分厚い雲を高速で飛び交い、浮遊山の最下層部分に到着した。そこには大きな空洞があり、ムクージャ曰く、ここに仲間が避難しているそうだ。すると、穴の入口に鳥や兎、ハムスター等の小動物がワイワイと集まって来て、誘導してくれた。
「ようこそ!我らの天空の城へ!…と言いたいのだけど、今はそれどころでは無いね。」
中には喜んでいる住人、不思議そうな目で見ている住人と様々な反応をしている。まあ、わざわざ危険な土地に足を踏み入れる奴はそうそう居ないと思うし、第一、まだ信じられない浮遊山に来るなんて自殺行為だ。
「向こうの国王の部屋に来ておくれ。話がある。」
「カイトウ、俺は行かない。調べたい事があるんでな。」
「…そうか、分かった。気をつけろよ。」
別の住人に地上に出る道を教えてもらい、長い階段と分厚い鉄の扉を越えると、一面水だらけの広い湖畔の一軒のログハウス内部に着いた。敵に見つからない様に、木の板で鉄の扉を隠していた為、一応見張りがいるが用無しに見える。
「お帰りになられる際は、このオカリナにてこの『~儚き幻想曲~』を…。」
代表の兎の住人が小さなオカリナを吹き、その場に居た全員が聞き入った。何故かとても儚く切ない夢の感じがして、不思議な気持ちだ。
「…はかな~く~き~え~る~♪…まぁこんな感じで吹いて頂ければ私がお迎えに上がりますので。」
「ふぅん、分かった。わざわざありがとうな。」
「いえいえ、こちらこそ。」
ログハウスを後にし、湖畔の周辺を散歩する事にした。それにしても、かなり広い湖だな。川から流れてくるとしても、相当な水の量だ。
(ん?あそこにいるのは…ジュリーか!?)
向こう岸にいる二人の少女と女性の内の少女は、間違なく行方が消えたジュリーだった。
8月30日まで『2回OVL大賞応募作』を執筆中です。なので暫くの間、セカイカイトウの執筆を一時中断させて頂きます。ご愛読されている読者様には大変ご迷惑をお掛けしますが、是非執筆中の最新作『ドラグーン戦記~時を架ける竜の少年とカラスの少女~』もご覧下さいm(_ _)m