第2章 好敵手の決意
それから、約1時間が経過した頃。すると、カイトウが先に話を再開した。
「しょうがない、アイツに頼むとするか…」
「あ、そうですね。」
二人が言う『アイツ』とは、カイトウの好敵手、タイホウの事であり、暗殺者兼怪盗のスナイパーだ。
「ジュリー、伝達用のカードを。」
「は、はい!」
そう言われてジュリーは腰に下げているホルダーから白いカードを取り出し、カイトウに手渡した。
今のカードは、触れたり壊したりする事で発動する『マジックカード』という名のアイテムだ。これは黒魔法使い(ブラックウィッチ)のジュリーが発明した魔法器具の一つ、色で効果がそれぞれ異なる。
「よし、これで届く筈…多分すぐ来るぞ。」
書き終えたカードを青空の向こうまで投げ、自らタイホウの元へと飛び去って行く。
「アイツの街は遠いから時間が掛かるな。」
「そうですね。」
1時間後、ビルの中にドアベルの音が鳴り響く。3階に居た二人は急いで階段を駆け降り、ドアを勢い良く開いた。
「よお、待たせたな。」 久しぶりに見るニヤけ顔。そして、今日は何故か拳銃を所持していなかった。
「なんだ、拳銃は持って来て無いのか?」
「昼間っから持ってたらさすがに怪しいだろうが。」
タイホウの住む街は遠い北のミスト市で、その街はいつも霧に紛れて外部からは姿が見えないそうだ。だが、1年に一度だけ霧が晴れる日があり、その日の街は素晴らしく綺麗だと人々は言う。
「こんな場所で立ち話は辛いだろうし、3階にでも上がってください!」
「あぁ、そうだな。」
三人は3階の部屋まで行くと、テーブルの前の椅子に座った。すると、ジュリーが駆け足で地図と手紙を運び、飲み物の準備を始める。
「…で、今回はなんの用で俺を呼んだ?」
「この『未知の島々』へ行く為の遊空機の操縦をして欲しい。」
その瞬間、タイホウが真剣な表情になった。まるで無理難題でも言われたかの様だった。
「……覚悟は出来てるのか?」
「だからこそお前に頼んだ。」
「………。」
そして、暫く会話が途切れた後、
「…分かった。但し俺は島へは降りない。」
「ありがとう。」
カイトウとタイホウの話が丁度終わった頃、ジュリーが紅茶とクッキーを持って来てくれた。広い部屋に甘い香りが瞬く間に漂う。「ジュリー、すまないが今日の夜中に出発する事になった。」
「そうなんですか?なら、私はカードを早速作ってきますね。」
ジュリーは早々と紅茶を飲み終わり、2階の作業部屋へ入って行ってしまった。
「お前の部屋はここを出て右の部屋だ。」
「ん…。」
もう日が沈み、先程の青空は段々と暗くなっている為、カイトウは自分の部屋に戻った。クローゼットを開ける度に怪盗の自分を思い出す。行方不明になった妹の事、キッカケとなった親友の死、警官になりたかった自分。それが混じり合い、どうしても頭から離れられなかった。