逸話:貴方が私の全て
この話は、物語とは大して関係ない短篇なので気軽に読んで下さい。
月黄泉は、今日の政務を終えて夜空に浮かぶ月を見ながら物思いに耽っていた。
「・・・・・・年月が過ぎるとは速いのう」碧空を見上げる。
夫、飛天夜叉王丸と結ばれてから早三百年。
夜叉王丸との出会いは妖獣大戦の時で、互いに良い印象はなかった。
戦の時も喧嘩をしたりと散々だった。
どうやったら、そんな犬猿の仲の男と一緒になれるのだろう?
しかし、喧嘩を重ね、共に戦っている内に彼の優しさや良い所に気付き、いつの間にか彼に恋をしていた。
戦が終わり魔界に帰った彼を想い、毎夜のように枕を涙で濡らした。
どうしても諦め切れずに意を決して、魔界に文を送った。
・・・・・返事が来ないかも知れない。
しかし、想いを表さないと相手には伝わらない。
やらずに後悔するよりやってから後悔した方が良いと思った。
女から男に文を送るなど下品だと重臣に嗜まれても止めなかった。
否、止められなかった。
最初の文を送ってから実に一ヶ月後に彼から、文が来たのだ。
緊張しながら読んで見ると綺麗な文字で返事が書いてあった。
あんなに喜んだのは生まれて初めてだった・・・・・・・・・・・・
それから文の交換が繰り返された。
彼の書いた文には、煙草の臭いが染み付いていて初めは嫌だったが、大好きな匂いに変わっていた。
そんな昔を思い出し、戸棚から黒漆の箱を取出して文を取った。
夜叉王丸と交わした文は全て大切に保管している。
今だに煙草臭いが、お気に入りの臭い。
「・・・・・・飛天」文を抱き締めながら姿を消した夫の名を呼ぶ。
夫が姿を消した原因は、明らかに自分にあった。
自由を愛し束縛を嫌う夫にとって苦痛でしかない。
『じゃが、飛天を想ってこその行為なのじゃ』苦々しく顔を歪める。
しかし、愛して止まないから危険から遠ざけ、自分の傍に置いていたい。
夫にしてみれば迷惑、極まりない事だが・・・・・・・・・・・・
結果的には、束縛を嫌って姿を消してしたのだが。
自分の過ちを後悔する。
『・・・・・どこにおるのじゃ?飛天よ・・・・・・・・・・』文を抱き締めて静かに涙を流す月黄泉。
『お主が傍に居なければ妾など、ただの傲慢な女狐に過ぎん』
『お主が妾の元に帰って来てくれるなら、どんな代償も払ってみせよう』
女帝を辞めろというなら辞める。
裸踊りをしろというならしてやる。
退け座して犬の真似をしろというならしてやる。
それで愛する夫が、自分の元に戻ってくるなら構わない。
「・・・・・妾にとって主が全てなのじゃ。・・・・・・・・飛天・・・・・・・・・・・・」一人で泣く姿を憐れんだように、月は雲に隠れた。
これからは逸話も入れて書くので、評価・感想をよろしくお願いします。