第六話:疾風の用心棒
・・・・・・・・・・・・・・・・月黄泉じゃ(怒) 今回は、妾の出番も少ないし飛天の情けない姿ばかりじゃから、読むでないぞ。
「いらっしゃいませ!」お葛の元気な声が店中に響いた。
「ざるそばを二つ頼む」職人風の男が二人、注文を頼んだ。
「ざるそば二つ!!」お葛は奥に叫んだ。
「・・・・あいよー」気怠そうな声が返ってきた。
「さてと、やるか」少し気を静め集中する。
「っし!!」変な声を出して料理を始める。
「ほれ、ざるそば」あっさり作り終え盆に載せ渡す。
「はい、ざるそば二つ」そばをテーブルに置く。
「お、もう出来たの?早いね」二人は出された、そばを食べ始めた。
「ごゆっくり召し上がって下さい」一礼して奥に消える。
「ありがとうございます。空牙様」
お葛は店の奥で夜叉王丸に礼の言葉を掛けた。
「水藻殿が留守なんだから俺が手伝わないと」
「それに例の奴がまた来るかも知れないからね」大きな手で頭を撫でる。
頭を撫でられた、お葛は複雑な気分だった。
恋心を抱いている相手に子供扱いされれば、当然と言えば当然だろう。
実際、お葛は童顔で身体的にも大人の女性には程遠い身体。
比べて姉の水藻は、整えられた顔に出る所は出ている身体。
まさに大人の女性の身体なのだ。
余談だが、月黄泉の身体はスレンダーな身体で、些か女の魅力に欠けている。
水藻は、近くの商店で琵琶の講師をするため留守。
「おーい!茶漬け頼む」客の声が聞こえてきた。
「休憩は終わり。ほい、茶漬け」作った茶漬けをに渡す。
「・・・・はーい」
拗ねたような口調で茶漬けを受け取り仕事に戻る。
「んー、小さい月黄泉って感じだな」城に居る妻を思い出し愉快そうに笑う。
『今頃、どうしてるかな?月黄泉の奴』
「・・・・・」おのれ、臣下共め・・・・・・・・
書類を片付け、いざ飛天を連れ戻しに城下に行こうと襖を開けようとしたが、開かなかった。
おのれ、結界を張りおったな・・・・・・・
その後、結界を破ろうとしたが破れず無駄だった。
このような強力な結界は見た事が無い。
「まさか・・・・・・・母上が」
母上の実力なら那須から指だけで結界を張る位は朝飯前。
飛天を連れて会いに行かない八つ当りか?
果ては他の誰かの仕業なのか?
考えれば考える程、頭が混乱する。
頭を抱えている内に女中が入り書類を置いて出て行ったのを気付いたのは五分後だった。
一方、夜叉王丸は客も落ち着いたので少し早いが、お葛と昼食を頂いていた。
「空牙様って料理が上手いんですね」夜叉王丸の作った料理を絶品する、お葛。
「一人暮らしが長かったからね」今では贅沢尽くしの生活だが・・・・・・・
「だけど、今は水藻殿とお葛殿がいるので」にっこりと笑う夜叉王丸。
「そ、そんな・・・・・・・・・・・・・」頬を染めて照れる、お葛。
「・・・・・そ、そう言えば、空牙様は何で家を出たんですか?」照れを隠すために話題を変える。
「・・・ちょっと同居人と色々あって」
これを聞いたら月黄泉は激怒する所か、ショックのあまり死んでしまうだろう。
「同居人とですか?」
「まぁ、大人の事情ってやつだよ」
「・・・・・私も数え二百歳で立派な大人です」子供扱いされたのが、癪に障ったようだ。
「二千八百歳の俺と千二百歳の同居人から見たら子供だよ」確かに、子供扱いされても仕方がない。
「そりゃ空牙様と同居人から見たら子供ですけど、私だって嫁に行ける年ごろです!?」声を荒げる。
「嫁に行けるなら、私と結婚してくれませんか?」
「・・・・・この声は」二人共、顔を見合わせる。
「用心棒の出番かな」刀を持ち立ち上がる。
「久し振りだな。ガキンチョ」店の奥から顔を出した夜叉王丸に若旦那は驚愕した。
「お、お前は!!」
「ここの用心棒だ。俺が入る限り店には手を出させんぞ」刀の鯉口に手をかけ威嚇する。
「ひぃ!た、助けて!」裸足で店から逃げ出す姿は滑稽だった。
「ちっ、軽い脅しで逃げ帰るなんて情けねぇ」愚痴を零す。
「空牙様は強いですね。あれだけで追い返すなんて・・・・・・」お葛が感嘆の声を聞こえた。
「あの若造が情けなさ過ぎるだけだよ」
「それでも凄いですよ」
「ありがとよ。さぁ、飯を片付けて仕事を再開しようぜ」
何事もなかったように仕事を始める二人。
余談だが、裸足で逃げ帰った若旦那は父親の大激怒を買ったそうだ。
若旦那を追い出した夜叉王丸は仕事を続けていた。
「空牙様、そろそろ店仕舞いにしましょう」
最後の客が出て行ったのを見て、お葛が提案した。
「そうだな。じゃあ、店仕舞いにしようか」食器を洗いながら答える。
二人で片付けを始め十五分で終わった。
「さてと、水藻殿を迎えに行って来るかな」
片付け終えて外出準備をする夜叉王丸。
「えっ?」
「この店には、俺が用心棒だって事は伝わってるはずだから暫らく手は出さないだろう」
「お葛殿は一日中、店に居るから手は出せない」
「・・・・しかし、水藻殿は琵琶の講師で店を出る」ここで、お葛も夜叉王丸の言いたい事を理解した。
「そういう事だから、留守は頼むよ」ぽんと頭に手を置いて店を出る夜叉王丸。
「早く行かねぇと・・・・・・・・」小走りで水藻を迎えに行く。
その後ろ姿を複雑な表情でお葛は見ていた。
一方、水藻は琵琶の講師を終え帰宅の道にいた。
「早く帰って夕食の準備をしなきゃ」
布に包んだ琵琶を大事に抱えながら急ぐ水藻。
「・・・水藻さん」前方の道端から大旦那が数人の用心棒が連れて出て来た。
「・・・・・・ッ!!」後退る水藻。
「そんなに怖がらないで下さい。私は、ただ貴方に求婚を申し込みたいだけですよ」
笑顔を向けたが、水藻は余計に後退った。
「へ、返事は、お断わりです!!」強きに言ったが震えていた。
「その気丈な所が、またそそられますね」意地悪に笑い一歩、進む。
「しかし、今日は連れ返らせてもらいますよ」顎で用心棒達に命令する。
「・・・・・・」用心棒達は頷いて水藻に近づく。
『助けて!空牙様!!」用心棒達の手が触れそうになった時だ。
「やれやれー、迎えに来て正解だったぜ」
夜叉王丸が用心棒達の前に立ちはだかっていた。
「空牙様!!」喜びの声を出す水藻。
「・・・・・また、貴方様ですか」苦虫を噛み潰したような声を出す大旦那。
「悪いな。他人の邪魔をするのが大好きな質でね」ニヤリと笑う夜叉王丸。
「まぁ、今日は、先生方を連れているので負けませんよ」負けじと笑い返す。
「俺達は妖獣大戦を生き残った奴だぜ」自慢気に喋る用心棒達。
「妖獣大戦に出た位で威張るな。それに、お前ら妖狸側に着いてただろ?狸の臭いがプンプンするぞ」
「・・・・・くっ」明らかに動揺していた。
「図星のようだな」ニヤリと笑う夜叉王丸。
「だ、黙れ!」用心棒達は抜刀して襲い掛かった。
「・・・・・まぁ、手加減して歯と腕の二、三本で勘弁してやる」指の節を折りながら笑う夜叉王丸。
「死ねぃ!!」真っ正面から振り下ろされた刀を避け侍の歯に拳を打ち込む。
「ふんっ!?」横からの突きを足で払い、左腕にかかと落としを落とした。
「こんな実力で、よく妖獣大戦に出れたものだ」もう二人、刀を構える用心棒を見る。
しかし、二人共、刀を持つ手が震えていた。
「今日は、貴方様にお譲りしましょう」
大旦那は一礼して身を翻し用心棒達も続いた。
「怪我はなかったか?水藻殿」背後を振り替える。
「は、はいっ。だ、大丈夫です」水藻は地面に腰を落としていた。
「腰を抜かしたの?」
「・・・・・・・・は、はいっ」恥ずかしそうに答える。
夜叉王丸は、腰を抜かした水藻を自分の背中に背負った。
「むさ苦しいとは思うが我慢してくれ」首を動かして謝る夜叉王丸。
「・・・い、いいえ!むさ苦しいだなんて思ってません!」ぶんぶんと横に振る水藻。
「さぁ、お葛殿が夕飯の支度をして待っているよ」水藻を背負いながら歩き出した。
「・・・・・・・」水藻は夜叉王丸の背中に顔を埋めて吐息した。
沈む夕日を夜叉王丸は眩しそうに目を細めた。
うぃーす!夜叉王丸だ。 どうだったかな?最近、更新が遅いのは、新しい小説を書いてるかららしいぜ。 まぁ、作者しか分からんが楽しみにしてな!