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第四話:名を変え身分を変えて

更新が遅れて申し訳ない。夜叉王丸事、時雨空牙だ。今回は、俺が城から抜け出す物語だ。       最後まで読んでくれ!?

「ふんふんふん♪」鼻歌を歌いながら、月黄泉の夫であり、妖狐の里の主上(しゅじょう、おかみ)である夜叉王丸は城下に降り立った。


「いやー、一週間振りに外出許可が降りたから気分爽快だぜ」晴れ晴れと照り上がる道を歩きながら笑う。


飯屋の件から夜叉王丸は一週間の外出禁止を言い渡された。


ただ着物に女物の香りがしただけで外出禁止とは、横暴だと非難されたが月黄泉は気にしなかった。


更に夜叉王丸が逃げないように執務室に縛り付けていた。


その気になれば力ずくで行動も出来たが、月黄泉の気持ちも考え思い止まった。


そんな夜叉王丸に同情した女中や臣下達が月黄泉に圧力を掛け一週間で外出許可を勝ち取ったのだ。


下に恐ろしきは、民衆の力なりかな。


「城の奴らに感謝しないとな」煙管を蒸かしながら夜叉王丸は悠々と飯屋に向かった。


「・・・邪魔するぜ」暖簾を潜り店の中に入る。


「いらっしゃいませ!」一週間振りに聞く元気なお葛の声が耳に入った。


「あ、貴方様は・・・・・・・・・」客が夜叉王丸と分かり頬を染めるお葛。


「よぉ、俺の事を憶えていたのか?嬢ちゃん」煙管を口から離し微笑する夜叉王丸。


「あ、当たり前ですっ」赤面しながら怒った。


「ははははは。悪りぃ悪りぃ悪りぃ」ぽんぽんと優しく頭を叩く夜叉王丸。


「今日は客が一杯だな」店内を見回すと職人やら侍やらで溢れていた。


「こりゃ、無理か」諦めて背を向けようとした。


「あ、あの!に、二階が空いているので、二階で待っていて下さい!!」


「いや、そんな気遣いは・・・・・・」丁寧に断ろうとしたが


「どうぞ二階へ!!」お葛の、ど迫力とも言える気に圧倒される夜叉王丸。


「じ、じゃあ、お言葉に甘えて二階に行こうかな」お葛に案内されるがまま二階に通じる階段を登る夜叉王丸。


「こ、こちらですっ」案内された二階は町を一望できるように造られていて心地よい感じがした。


「料理は前と同じ品を頼むよ」座布団に腰を降ろしながら注文を頼んだ。 


「・・・・・ふぅー」お葛が下に降りたのを確認すると溜まった息を吐いた。


「・・・・良い眺めだ」城から見る光景よりも馴染みを感じた。


暫らく時を忘れて夜叉王丸は、城下を見た。


「・・・・・・ん?」雷鳴と豪雨の音で夜叉王丸は目覚めた。




『何時の間にか眠っていたのか?』肩ごしに毛布が掛けられていた。


「あっ、起きたんですか?お客さま」料理を盆に乗せたお葛が入ってきた。


「これは嬢ちゃんが?」毛布を肩から取る。


「は、はい。風邪を引かないように」緊張した口調だった。


「ありがとよ。お陰で気持ち良く眠れた」微笑みながら畳んだ毛布を渡す。


「鳴神がひどいですね」窓から見える豪雨と雷は一行に止みそうになかった。



「こりゃ、ずぶ濡れで帰るしかないか」溜め息を吐きながら畳に置いた刀を立ちながら腰に差す。


「えっ、この雨の中を帰るんですか?」お葛は驚きを隠せない様子だった。


「あぁ。別に濡れるのが嫌な訳じゃないからな」


「で、でも、雷も近いですし・・・・・・・・」途中から口籠もった。


「また来るよ」お葛は、笑顔で通り過ぎる夜叉王丸を止める方法を知らない。


「さぁて、ずぶ濡れで帰るか」


店を出て夜叉王丸は走りながら城に向かった。







「・・・・・・・・」執務室で政務をしていた月黄泉は、苛立ちを隠せないように眉間に皺を寄せ不機嫌なオーラを出していた。


『・・・・・飛天はまだ帰らんのか?!』夕刻を過ぎても帰らない夫に月黄泉は苛立ちを募らせた。


「・・・・月黄泉様、この豪雨と鳴神では夜叉王丸様も立往生していますよ」玉露を出しながら女中は女主人を宥めた。


「・・・・・・・」ぶすっとした表情で湯呑みを口に運んだ。


「あちちちちち!!」冷まさないで飲んだ為、舌を火傷した。


勢い余って持っていた湯呑みを手放してしまった。


床に落ち無残な形になるはずだった湯呑み。


「おっと」横から出た手が湯呑みをキャッチした。


「・・・・・・ひ、ふぃっん(ひ、飛天)」火傷した舌で上手く言葉を発せない月黄泉。


「いま帰ったぜ」全身ずぶ濡れ状態でニヤリと笑う夜叉王丸。



「まぁ、そんなにお濡れになって!!」女中は信じられないような視線で夜叉王丸を見た。


「直ぐに湯の準備を」一礼して女中は部屋を出て行った。


「俺も部屋に戻るか」窓から去ろうとした所を月黄泉の裾を掴んで止めた。


「湯の前にする事があるのではないか?飛天」まだ熱い舌を我慢しながら凄味のある目付きで夫を見上げる月黄泉。


「ん?何かあったけ?」とぼける夜叉王丸。


「・・・・・また、外出禁止にするぞ」脅し文句を出す月黄泉に夜叉王丸は、ため息を吐いた。


「・・・今、帰ったぞ。我が妻よ」ため息を吐きながら、紅が塗ってある月黄泉の唇に己が唇を重ね合わせた。


「・・・・・んっ」心底、幸せそうな笑みを洩らす月黄泉。


「・・・・これで良いだろ?」唇を離しながら威圧的な眼差しで月黄泉を見下ろす。


「まだ足りないが、それは夜まで取っておこうぞ」悪戯っぽい笑みを浮かべる月黄泉。


「・・・・・・・」この時点で夜の外出を決めた夜叉王丸だった。






夕食を済ませた月黄泉は白い寝巻姿で寝室に敷かれた布団の上に正座で夜叉王丸が来るのを待っていた。


尻に生えた五つの尻尾は嬉しそうに動いていた。


『まだか?飛天。早く来て妾を抱いてたもれ』焦れったく待っていたが、何時まで経っても夜叉王丸は来なかった。


『・・・・・遅い。何をしているのじゃ?』苛々と扇を叩きながら、それでも辛抱強く待っていたが


二時間後、ついに我慢の限界に達した。


「もう!待てぬ!!」扇が悲鳴を上げる位、握り締め寝室を飛び出した。


『今夜は寝かさんぞ!』意気込んで風呂場の扉を開けたが、中には誰もいなかった。


「ぬっ、妾の気配を察したのか?」微かだが夜叉王丸の臭いを感じ数刻までは居たのは分かった。


「何処に行った?飛天」近くの女中を捕まえ尋ねたが知らないと言われた。


その後も何人かの女中や臣下に尋ねたが誰も知らないの一点張り。


『こ奴ら、飛天の居場所を知りながら喋らないな』


月黄泉は、気弱そうな女中を捕まえ半ば脅しで口を割らせた。


予想は見事に的中、夜叉王丸は城下に逃げたと判明した。


「逃がさんぞ!!」勇んで城下に向かおうとしたが、何処からともなく現われた女中達に抑えられた。


「夜叉王丸様のお頼みですので、お許し下さい」憎らしい笑みを浮かべながら女中達は、主人を連行した。


「おのれー!必ず連れ戻しに行くからなー!!」じたばたと暴れながら月黄泉は絶叫した。


「・・・ん?」雨が降る中を傘を差して城下に続く道を歩いていた夜叉王丸は後ろを振り向いた。


「何か聞こえたような・・・・・・・」耳を澄ませたが、何も聞こえなかった。


「気のせいか?」首を傾げながら歩を進める。


「さてと、暫らくは宿でも借りて独身貴族に戻るかな?」愉快そうに笑いながら時雨の中を歩く夜叉王丸。


一方、城では夫を連れ戻そうと暴れる月黄泉と、それを必死に抑える臣下達の戦いが始まっていた。  


そんな自分を賭けた戦いが起きているのを当の夜叉王丸は知る由もない。  






「・・・・・・ん」雨の中を歩いていると大きな木の下で雨宿りしている一人の女性がいた。


「雨宿りか?お嬢さん」ゆっくりと歩みながら尋ねる夜叉王丸。


「あっ、はい」女性は夜叉王丸の格好から武士と判断し会釈した。


「隣町まで行った帰りに急に振り出して傘を用意していなかったのです」微苦笑しながら答えた。


「家まで送ろうか?」夜叉王丸の申し立てに女は躊躇した。


「お武家様の手を煩わせる訳には・・・・・・・」


「お嬢さんを危険から遠ざけられるなら喜んで煩らうよ」この場に月黄泉がいたら


『妾にも、それ位、甘い言葉を掛けろ!?』と言う位のセリフだ。


大抵の女なら無条件降伏をするだろう。


案の定、女も赤面しながら


「・・・・・では、送ってくれませんか?」と無条件降伏をした。


女性を傘に招き入れ、自分は肩方だけ入った。


「では、行きましょう」時雨の中を夜叉王丸と女性は歩み始めた。






「・・・・・では、私共は失礼します」妾を拘束した女中達は一礼して執務室から退室した。


城の主人である妾を監禁するとは、どういう臣下達じゃ!?


悪いのは、飛天の方ではないか!


・・・・・・妻である妾から、逃げたりするからいけないのじゃ。


こんなに主を愛しているのに・・・・・・・・・


待っておれよ。必ず主の元に妾は行くからな。


主が嫌な顔をしようと、拒絶しようと、妾は主の元に行くからな。


そうと決めれば、ここから抜け出す作戦を練らねばのう・・・・・・・・






「まぁ、お武家様は魔界の方でしたの」雨の中を夜叉王丸と女性は、楽しそうに談笑しながら歩いていた。


「魔界より妖狐の里の方が落ち着くんで引っ越して来たんだ」嘘八百を言う夜叉王丸の言葉を信じる女性。


魔界にいた時より悪魔になった気がするのは作者だけだろうか?


「あっ、着きました」話している内に女性の家に着いたようだ。


「・・・・・ここは」女性が家と言った場所は昼前に来た飯屋だった。




「お葛、ただいま」暖簾が外された扉を開けながら女性は中に入って行った。


「あっ、姉さん。お帰りなさい」テーブルを拭いていた、お葛は女性に笑い掛けた。


「この、お武家様が雨宿りしている所を助けてくれたのよ」店の中に夜叉王丸を招き入れる。


「あ!お侍さんじゃないですか!?」夜叉王丸を指差しながら叫ぶお葛。


「えっ?じゃあ、この方が例のお侍さん?」夜叉王丸を凝視する女性。


「うん。私と店を守ってくれた侍さんだよ」女性に微笑かける、お葛。


「まぁ、妹と店を守ってくれた方とは知らずに、ご無礼を・・・・・・・・」女性は、お葛を伴い頭を下げた。


「いや、別に大した事はしてないから」困惑した口調で返答する夜叉王丸。


「お侍さんはこんな雨の中をどうしたんですか?」頭を上げたお葛が尋ねた。


「まぁ、色々と事情があって宿を探してたんだ」他人に言えたような内容ではない為、苦笑した。


「まぁ、宿をお探しなら二階を使って下さって結構ですよ」嬉しい申し立てだった。


「いや、うら若き娘が二人だけの家に、俺みたいな浪人が泊まる訳には・・・・・・・」言葉を濁す。


「お武家様のような心優しい方なら心配いりませんわ」あっさり返答する女性。


「いや・・・しかし・・・・・」返答に困る夜叉王丸。


「今頃、どの宿も閉まっていますよ」お葛が追い打ちを掛けた。      


時刻は夜の十一時と言った所で、どの宿も閉まっているか閉めようとしている所だろう。


『・・・・・まぁ、月黄泉に見つからなければ大丈夫だよな?』暫し思考して答えを出した。


「じゃあ、お言葉に甘えて厄介になろうかな」夜叉王丸は苦笑しながら言った。


「では、布団を敷いて来るので少々まって下さい」女性は一礼すると嬉々と二階を登って行った。


「そう言えば、まだ名前を言ってなかったね」ポンと手を叩く。


「俺の名は時雨空牙。見ての通り貧乏浪人だよ」嘘ばかりを並べる夜叉王丸。


本当は魔界の貴族で更に妖狐の里の王のくせに・・・・・・・・


「わ、私は、お葛と言います」慌てて自分も名乗り頭を下げる。


「お武家様、布団の準備が出来ました」二階から女性の声がした。


「おぉ。じゃあな。お葛ちゃん」お葛の頭を優しく一撫でして二階に通じる階段を登って行く。


「茶漬けを持って来ますね」部屋に入ると女性が出る所だった。


「いえ、泊めて貰うだけで結構ですよ」やんわりと断る。


「では、お酒でも・・・・・」


「気遣いは嬉しいですが酒も結構です」


「左様ですか?では、お休みなさいませ」不服そうな口調だったが一礼して部屋を出た。


しかし、直ぐに戻って来て


「申し遅れましたが、私の名前は水藻と申します。時雨空牙様」自分の名前を名乗り終えると襖を閉めた。


「・・・背中に感じた寒気は気のせいか?」月黄泉とは違う危機感を本能的に夜叉王丸は悟った。


『不味いかな?』嫌な予感を感じながら夜叉王丸は床に着いた。


この予感は、後々とんでもない結果になるのを夜叉王丸は知る由もない。

・・・・・なぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃが!時雨空牙じゃ!?       妾との甘い甘い夜の営みから逃げおって!?    おまけに妾は監禁されるし?!          妾は悪くないのに何故じゃ!!          そんな事より何じゃ?あの二人の小娘は?!    妾の飛天に色気など使いおって。         早く城下に降りて飛天を連れ戻さねば!!

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