第二十話:現金な姫君
もう少しで完結です!
「・・・・・ん」夜叉王丸は背中を叩かれる感触で目を覚ました。
瞳を開け背中を見ると玉藻が眉を吊り上げ九尾で背中を何度も叩いていた。
「どうした?そんな怖い顔して?」あんまり怖くない感じで聞く。
「・・・・・・・・」
質問を無視して玉藻は背中を叩き続けた。
「・・・・・・ふぅ」
答えそうにない玉藻に嘆息を吐き夜叉王丸は再び瞳を閉じ玉藻に背を向けた。
「・・・・・・・・ッ」
夜叉王丸の態度に玉藻は一瞬、捨てられた子犬のような表情になったが直ぐに尻尾で背中を叩き始めた。
『・・・・・・こういう場合は機嫌が直るのを待つしかないな』
『まぁ聞かなくても様子から使い魔がやられて、俺に八つ当たりでもしているんだろう』
半分正解で半分は不正解の夜叉王丸。
そして外れた半分は自分に責任があるのを知らない夜叉王丸。
不機嫌な玉藻を無視し夜叉王丸は再び眠ろうとしたが肩を叩かれ眼を閉じて背中を向けたまま尋ねた。
「・・・・何だ?姫」
「・・・・・・・・・」
しかし無言が返ってきた。
「・・・・はぁ」小さく息を吐き背中を丸める。
暫らくすると再び肩を叩かれた。
「・・・・・・・・」今度は瞳を開け視線を送ると
「・・・・・・・ッ!!」
今にも泣きそうな顔で見下ろす玉藻と視線が合った。
「・・・・・・・姫」
起き上がり頬に触れようと手を伸ばすと
「・・・・・やっ」
身を引こうとする玉藻。
しかし、腕を掴まれ叶わなかった。
「どうした?そんなに泣きそうな顔で?」
「・・・・・・飛天なんか嫌いっ」
「・・・・・・・」
「なによっ、月黄泉に煉獄の術なん・・・・・・・・て、教えて・・・・月黄泉ばっかり構って・・・・・・・・わた、しなんて見向きもしないで・・・・・・・・う、うわぁぁぁぁぁん!?飛天の馬鹿ー!!」
嗚咽を上げ玉藻は途切れ途切れに言葉を紡ぎながら夜叉王丸を睨んだが終いには泣き出した。
「・・・・・・はぁ」
泣き出した玉藻の姿に些か呆れ果てながらも懐から手拭いを取り出し涙で濡れる頬を拭う。
「泣くなよ。仮にも九尾の狐だろ?」
「うるさいっ!?私だって恋する乙女だもん!?うわぁぁぁぁぁん!?」
慰めの言葉に更に声を張り上げ泣き叫ぶ玉藻。
「恋する乙女、ねぇ」
男には理解不能の世界だと思う夜叉王丸。
しかし、そんな事を言えば火に油を注ぐ結果になるのは分かり切った事なのであえて言わず心の中に留める夜叉王丸。
「なによっ、何か言いなさいよっ!?」
何も言わずにいると涙声で怒られた。
「・・・・・んな事を言われてもな。どうしろと?」
「慰めてよ!?」
「・・・・・はぁ、我侭な姫君だ。・・・・まぁ、そこも可愛いがな」
最後は聞かれないように小さく言って玉藻を抱き上げた。
「・・・・・・・・ッ」突然の事で泣き止む玉藻。
「あーあ、涙で目元が真っ赤だぞ。そんな顔じゃ城に帰れないな」
涙で濡れた目元を舌で舐める夜叉王丸。
「ひ、飛天っ」突然の事で息を飲む玉藻。
「このまま行くと月黄泉に醜態と晒す事になるから少し温泉に行くぞ」
牛車から降りて抱き上げたまま茂みの中を進む夜叉王丸。
「まったく。あそこは誰にも教えてない隠しスポットなのに」軽い愚痴を零す夜叉王丸。
「誰にも?月黄泉にも教えてないの?」小さく尋ねる玉藻。
「あぁ。俺と姫だけの秘密の場所だ」
「飛天と二人だけの場所!?」
ぱぁっと顔を輝かせ尋ねる玉藻。
どうやら夜叉王丸との二人だけの秘密が何よりも嬉しいようだ。
「本当に飛天と二人だけなの?」
「あぁ。俺と姫の二人だけだ」
玉藻の様子に苦笑しながら答える。
「やった!飛天と二人だけの場所だ!?」
少女のように瞳を輝かせると夜叉王丸の首に抱き付く玉藻。
「・・・・・やれやれ。現金な姫様だ」
嘆息しながらも笑う夜叉王丸。
これから行く場所はたまたま見つけた温泉で月黄泉の隙を見つけては行く場所。
しかし、今の状況から考えれば直ぐに見つかってしまうだろう。
『まぁそうなったらそうなったで仕方ないか』
苦笑しながら早く早くと急かす玉藻を抱きながら夜叉王丸は茂みの中を歩み続けた。
後一話で完結なので、もう少しお付き合い下さい!?