逸話:一時の逢瀬
今回は短めの詩みたいな感じで書いてみました。
十六夜の月が天に高く昇り地上を照らしている中で私は彼を待っていた。
“月が天に昇っている間はお前だけの物となろう”
彼と交わした約束。
その言葉通り貴方は私の為に月夜に不似合いな漆黒の翼を広げて逢いに来てくれた。
貴方が来る時は必ず黒い翼が落ちて来るから直ぐに分かる。
そして何時も私の為に紫の花を持って来てくれる。
・・・・・・・・・・紫の花は悲しみを意味する。
そんな話を貴方にしたら鼻先で笑われた。
“下らん”その一言で終わらせた貴方。
そんな花を好きな私を周りは物好きだと笑ったけど、貴方だけは違った。
“どの花を好きになるのも本人の自由だ”と言って私の髪に口付けを落とした。
貴方と初めて会った時よりも長く伸びた髪はもう足まで伸びた。
貴方は覚えてないだろうけど、貴方が“長くて綺麗な髪だな”って言ったから伸ばしたのよ。
私に花を渡すと用意した酒を私に酌をさせて一緒に月を眺める。
月を見上げる私の瞳は何処か遠い瞳をしていると貴方は言った。
貴方の片方しかない黒き瞳は全てを見透かす瞳。
だから幾ら嘘を吐いても直ぐに知られてしまう。
それでも私は嘘を吐く。
何でもないと答えて離れようとしたが腕を掴まれた。
こうなると本当の事を言わなければ離してくれない。
観念して私は重い口を開いた。
“貴方をずっと、・・・・・・・・・永遠に私の物に出来ないのが悲しい”
単なる私の身勝手な我が儘だ。
月の出ている夜しか貴方は私の物に出来ない。
それが、悲しくて悲しくて仕方がない。
貴方を私だけの物に出来れば、どんなに嬉しい事だろうか?
貴方と二人だけの世界で生きて貴方に抱かれ続けられたい。
嗚呼、何て醜い心なのだろう。
何て浅ましい欲望だろう。
こんな私を貴方はどう見るのだろう?
“浅ましい欲望だな”
嗚呼、やはり貴方も他の同じなのね。
“その浅ましい欲望が俺を惹きつけて止まないのだろう”
そう言って貴方は私を引き寄せた。
嗚呼、忘れていた。貴方は人では在らず悪魔だという事を忘れていた。
欲望に忠実な悪魔だからこそ、私の浅ましい欲望を受け入れてくれた。
“その浅ましくも美しい罪なる業をもっと見せろ”
私の欲望は罪、浅ましさは業。
その代償に肉体が滅び輪廻転生が適わず冥府魔道の無間地獄に落とされても構わない。
貴方が私の手から離れずに留まるのなら喜んで、この身を捧げましょう。
そう。貴方さえ私の傍から離れずに居てくれれば他には何も望まない。
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