第十三私:愛の逃避行
いつもは大人の玉藻が乙女になっていますので、見て下さい!?
月黄泉が城の中を走り回っている時、玉藻と夜叉王丸は城の外に出ていた。
「はい、飛天あーん」
ゆるゆると独りでに進む牛車の中で玉藻は、白い絹のような手で持った箸で豚の角煮を綺麗に摘んで夜叉王丸の口に運んだ。
普通なら大御所と現女帝の夫が二人だけで城の外を出歩くなど考えられないが、それはそれ。
二人とも化け物を超えた実力者なので不貞な輩に襲われても指一本で倒せる位の実力を持っているのだ。
卑怯だ、不平等だの外野が五月蝿いがまったく気にしない二人。
「・・・・・・・」無言で口を開け角煮を頬張る夜叉王丸に玉藻は
「そんなに拗ねないで。私だって貴方と遠乗りに行きたかったんだから」宥めるように苦笑した。
何故、夜叉王丸が可愛い気もなく拗ねているのかというと、風呂場で拉致?されたからだ。
「今日は、月黄泉と遠乗りの約束だったんだぞ?」不機嫌丸出しの声で玉藻を睨む。
「良いじゃないー。月黄泉は、百年以上も貴方と一緒に暮らしてたのよ?ちょっと位、貴方と一緒にいても良いじゃないー」ぶぅと頬を膨らませる玉藻。
「だから、月黄泉との約束を果たしたら連れて行ってやるって言っただろ?」
「私が我慢強くないって知ってるでしょ?」
箸を床に置き艶やかな仕草で夜叉王丸の頬に触れる玉藻。
その姿は何処か哀しさを秘めていた。
「・・・貴方を忘れた事なんて一度だってないわ。瀕死の私を助け、殺しに来た人間から私を命懸けで逃がしてくれた」
「・・・・月黄泉の夫として来た時は、正直いって月黄泉を殺そうとしたわ」
「貴方の隣に居るはずだったのは、私なのに・・・・・・・・・・・月黄泉だなんて認めたくない」
声に微かな震えが混ざっているのを夜叉王丸は感じ取った。
「月黄泉の夫になっても貴方は、私に逢いに来てくれた」
「・・・・・一時の逢瀬だったけど、私にとっては幸せだった」
遠い眼をしながら呟く玉藻の頬から流れる涙を夜叉王丸は優しく拭った。
「優しいわね。子は親に似るものと、言ったものだけど男の好みも一緒とはね」
「だけど、月黄泉に貴方を想う気持ちは負けない」
「・・・・・貴方と一緒なら肉体が滅び冥府魔道の道を歩む無間地獄に堕ちても構わないわ」
夜叉王丸の唇に自身の唇を重ねた。
「・・・・・・飛天」唇を離し潤んだ金色の瞳で夜叉王丸を見つめた。
「・・・・・・・姫」かつて、人間だった頃に玉藻を呼んでいた名で呼んだ。
「・・・懐かしい名ね」くすりと笑った。
「だけど、もう姫なんて呼ばれる歳じゃないわ。人間でなら皺々(しわしわ)のお婆ちゃんよ」
苦笑いする玉藻に夜叉王丸は微笑んだ。
「・・・・・お前は、昔のままだ」しかし直ぐに否定した。
「いや、違うな。お前は今だからこそ美しい。昔のお転婆で我侭な姫君だよ」
「お世辞が上手くなったわね」夜叉王丸の胸に倒れ込む。
「今回だけだぞ?」玉藻の足まで伸びた銀髪を撫でながら苦笑する。
「・・・・・貴方も昔と変わらないわ。傲慢で気紛れで無責任だけど、それを補う優しさを持っている」
「・・・・・前よりも素敵になったわね」
倒れ込んだ夜叉王丸の胸の温かさに酔いながら玉藻は瞳を閉じた。
「・・・・・・・ありがとよ。姫」自身も瞳を閉じて二人して横になった。
一人で進む牛車は当てもなくまた歩き出した。
「・・・・・飛天!!」妾は城の中という中を探し回った。
だが、まったく見つからなかった。
「くそっ!母上め、飛天を何処に連れて行きおった!?」苛々と探し回っていると
「・・・・・・・・あ、あの、月黄泉様」背後から呼ぶ声がした。
この声は
「・・・何用じゃ?水藻、お葛」飛天の側室の水藻とお葛を見る。
「は、はい。少し言いたい事が・・・・・・・」もごもごと口篭る二人。
「・・・・・話したい事があるなら早く申せ。妾は急いでいるのじゃ」苛々とした口調で喋る。
飛天が見つからない苛立ちをついぶつけてしまった。
「は、はいっ。これだけ城の中を探しても見つからないとなると、お二人は城の外に行ったのでは、ないでしょうか?」
妾の気迫に怯えながらも途切れ途切れに言った。
外・・・・・・・・・迂闊じゃった。その手があったか。
「水藻、お葛」
「はっ、はい!」名を呼ばれ緊張する二人。
「今から、飛天と母上を探しに外に出る。二人とも準備をせい」妾の言葉に戸惑う二人。
本来なら妾だけで行くつもりじゃったが、この二人も加われば母上も反省するだろうと判断した。
「早くせんか!!」怒鳴り声を上げると二人は急いで各々の部屋に向かった。
「外出の準備をせい」傍に控えていた女中に命令を出し妾も部屋に戻る。
・・・・・・・待っておれよ。母上。飛天との遠乗りを邪魔した罪をたっぷりと払わせて貰いますぞ?
そして飛天よ。必ず母上の毒牙から助けてやるぞ。
少し狂気染みた想いでした!!