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第九話:逢いたくて愛しくて大脱走

久し振りの登場じゃ!?妾を忘れてはおらんじゃろうな?          忘れたなら、これを読んで思い出すが良いぞ!?

「・・・・・はぁ」執務室の窓から賑やかに活気づく城下町を見下ろしていた。


飛天が妾の手から離れて一月が経つ。


その間に便りもなく、日々は、ただ過ぎて行くばかりで憂欝になる。


何度か飛天が城を出た事はあったが、一月も留守にはしなかった。


飛天が出て行く度に、激しく後悔と怒りの念がくる。


何故、飛天を縛ったりする?


その度に今度は広い心で我慢しようと誓ったが、出来なかった。


妾を置いて、何処か遠くに行ってしまうのではないか?


もう二度と帰って来ないのではないか?


そんな不安な気持ちが爆発して飛天を縛り付けてしまう。


今回の件も妾に非があるのは解るが、これ以上、飛天の帰りを待ち続けられるほど、忍耐強くはない。


『今日こそは、飛天を妾の手に取り戻す!?』決意を新たに閉じられた襖に視線を向ける。


何度も妾の狐火を跳ね返した忌まわしき結界を攻略してみせようぞ。


始めに軽い狐火を放ち、間を置かずに第二、第三と除々に力を加える。


経験を生かし、この結界は連続の攻撃に弱いと分かった。


『・・・・・この結界を破壊しても二重になっておるかも知れんからな』


力を制限しながら狐火を放ち続ける。


段々、結界に小さいながらひび割れが入って来た。


もう少しで割れる。


確信して更に狐火を放つと案の定、結界は妾の前で砕け散った。


このまま部屋から飛び出しかったが、良い作戦を思い付き部屋に留まった。







「月黄泉様、朝食をお持ちしました・・・・・・・・・・・・ッ!?」


時間通りに朝食を運んで来た女中を気絶させ、着物をすり替えて、悠々と自室を後にした。


ふっ、我ながら良い作戦じゃったな。


思わず笑みを浮かべて歩いていると、妾を軟禁した女中と鉢合わせした。


「月黄泉様は?」変化の術を見破れないとは甘いな。


「不貞腐れて眠っておいでですわ」自分の事を馬鹿にするのは嫌な気分じゃな。


「月黄泉様にも困ったものね。昔は殺伐として嫌だったけど、今は今で、夜叉王丸様に甘えぱっなしで嫌なのよね」


・・・・・ほう。妾の前で嫌なのと、良く言えるな?


「私達が夜叉王丸様に近づくだけで、ハリネズミみたく全身を逆立てるんだから困ったわよ」


「まぁ、夜叉王丸様に捨てられるんじゃないか?って気持ちがあるから、縛ってるんでしょうけどね」


女中の言葉に我慢していたが理性の鎖が千切れた。


「・・・燃え尽きろ」一瞬で女中を黒焦げにした。


「飛天を連れ戻したら城から追放じゃ」ぷすぷすと煙を上げる女中を見下ろす。


女中をその場に残し小舟が置いてある水門に歩を進める。


小舟に乗り込み誰も居ないのを確認して、小舟を動かし水門を通過した。


『主を必ず見つけ出し妾の手に取り戻して見せる』小舟を漕ぎながら、城下町を睨む。







一方、月黄泉の脱走を知る由もない夜叉王丸は、自分の胸で泣き続ける、お葛を抱き締めていた。


「泣けるだけ泣いて良いんだよ」泣き続ける、お葛の頭を優しく撫でる。


「・・・・・ふっ、くっ、うっぐ・・・・・・・」何度止めようとしても流れ出した涙は、止まる事を知らなかった。


それから十分経過。


今だに泣き止まない、お葛を抱いたまま店を開いた訳にはいかない。


「今日は、もう店仕舞いにしよう」ぽんぽんと背中を叩きながら離れるように促す。


しかし、拒否をするように首を振る、お葛。


「でも、このままだと客が来ちゃうから、な?」優しく諭すと渋々といった具合で離れた。


「片付けは、俺がやるから部屋で休んでな」お葛は小さく頷き、部屋に戻った。


「さてと、片付けをしないとな」暖簾を降ろしに店の外に出ると


一刻ほど前に追い出した青年が立っていた。


「二度と来るな、と忠告しただろ?」暖簾を降ろしにながら青年を睨む。


「・・・・そんな忠告を聞いた覚えはありません」一刻で立ち直ったのか、冷静に答えた。


「頭の螺旋ねじが二、三本ないようだな?」冷笑を浮かべる。


「何とでも。それよりも私と立ち合って頂きたい」手にした刀を見せる。


「私が勝ったら、この店から出て行って下さい」


「なら、俺が勝ったら命を貰うぞ」青年は目を見張った。


「立ち合いをするんだ。それ位の覚悟は持て」


「・・・解りました。良いでしょう」緊張した声色で返答する青年。


「少し待ってろ。店の片付けをしてくる」中に戻り手早く片付けを済ませた。


お葛の部屋に行くと泣き付かれたのか眠っていた。


目を覚まさないように布団を被せ部屋を出た。


「・・・・・では行こうか?」刀を腰に差し店の外で待っていた青年と歩き出す夜叉王丸。







店を出た二人は、町から少し離れた丘の上で対峙していた。


「・・・・・ここが貴方の墓場です」青年が手を上げると数十人の男達が夜叉王丸を取り囲んだ。


「・・・・・お久し振りですね。お侍さん」青年の横では大旦那と若旦那が微笑んでいた。


「・・・・・手を組んだのか」ぽつりと呆れた口調で喋った。


「この人数では、太刀打ち出来ないでしょ?」嘲笑う声が周囲から聞こえた。


「この程度の人数で俺を倒そうとは笑止千万」


落ち着き払い煙管を蒸かしだす夜叉王丸。


「お前らのやり方を卑怯とは思わんが、女を泣かす奴らには、きつい仕置きが必要のようだな」


「・・・・・戯言を」青年が冷笑した。


「戯言かどうか、その身で味わうんだな」


背中から漆黒の翼を出し、意識を集中する。


「幾多の屍の山を築き、その身を血と涙で濡らした蛇よ。その身を刄に変え我に仕えよ」


呪文を唱えた瞬間、雷が宙を舞い、突風が巻き上がった。


「来い、朧月!」天に手をかざすと雷が直撃した。


周りを白煙が包んだ。


「これを使うのは“天魔大戦”以来、だな」


視界が広がると前には、妖艶な輝きを見せる蒼き大太刀を握る夜叉王丸がいた。


「・・・・・そう言えば名前を言ってなかったな」大太刀を肩に置きながら笑った。


「俺の名前は、地獄帝国男爵、飛天夜叉王丸だ」血の気が引いていく一同。


そして後悔の念が押し寄せた。

嗚呼、自分達は、何て事をしたんだ。



自分達の王である女性の夫であり、妖獣大戦の英雄を敵に廻すなんて・・・・・・・・・・・


「さぁ、誰から来る?」


一同は散を乱し脱兎の如く逃げ出した。


「おいおい。誰が逃げて良いと言った?これから、お仕置きの時間が始まるんだぜ」


うっすらと笑いながら翼を羽撃はばたかせせ一同に襲い掛かる夜叉王丸。







・・・・・・・三分後


「・・・・・やれやれ。とんだ茶番だったな」


煙管を蒸かしながら夜叉王丸は、気絶している男達を見上げた。


「この里から消えろ。二度目はないぞ」翼を背中に戻し背を向ける夜叉王丸。


「・・・・・・・・・・・・・・・・や、やっと、見つけたぞ。飛天よっ」


前方に荒い息を出しながら仁王立ちする月黄泉と視線が合った。


「おぉ、月黄泉。久し振りだな」


鬼気迫る形相の妻に恐れもせず笑いながら近づいた。


「その格好だと、城から脱獄したようだな?」


着ている着物を見て瞬時に悟った夜叉王丸は、下から睨む妻を面白そうに見下ろした。


「ふざけるな!!一月も妾から離れおって!?」


「半年間は外出禁止じゃ!!覚悟しておれ!?」怒鳴りながら夫の胸板を叩く。


「・・・・まぁ、仕方ないから受け入れてやるよ」


寛大な物言いだが、そろそろ帰ろうと考えていた、夜叉王丸にとっては良かったらしい。


「何が仕方ないじゃ!」


しかし、妻の怒りが治まる所か更に噴火したのは、言うまでもない。


「悪りぃ悪りぃ。その詫びに今夜は、たっぷりと可愛がってやるから」


肩まで伸びた灰銀の髪を撫でながら耳元で艶やかな声を出した。


「〜〜〜〜ッ!?」耳まで真っ赤にしながら月黄泉は夫を睨んだ。


「そ、その言葉!忘れるでないぞ!?」ぷんぷん怒りながら月黄泉は、後ろを向いて歩き出した。


「へいへい。女帝様のお望みのままに」畏まりながら後を追う夜叉王丸。


『文だけ置いて帰るのは性に合わんが、こいつが許す訳ないし、仕方ないか』


二人の姉妹が無事に生きられる事を祈りながら、夜叉王丸は、月黄泉と城へと帰宅した。


それから、店に帰宅した水藻と眠りから覚めた、お葛が眼にしたのは一通の手紙だけであった。


この二人が夜叉王丸の側室に成るのは、もう少し後の話である。

ふふふふ、ついに飛天が妾の手に帰って来た。   それでは失礼するぞ。これから愛しい飛天に抱かれるのでな・・・・・・・・

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