第八話:立派な女性に失礼
またまた俺が大活躍だ!え?月黄泉はどうしたって?さぁ?どうしたんだろ?まぁ、気にせず読め!?
「・・・・・ふぅー」
夜の食後を終えた夜叉王丸は、与えられた二階の部屋で煙草を蒸かしていた。
『・・・・・あの娘、泣いていたな』
部屋から戻ってきた、お葛の瞼が赤くなっていたのを見て分かった。
「・・・・・つらい事でも遭ったのか、もしくは病気だったのか・・・・・・・・・・・・後は、俺に原因があるか、だが・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・俺、何もしてないよな?」思い当たりがない様子だった。
「んー、俺が原因なら謝らないとなぁ。女を泣かせたなんて気分が悪い」
夜叉王丸が何故、女に人気が高いのかは、顔や性格に似合わず女性に紳士だからだ。
人(悪魔)は見かけによらないとは言ったものだ。
「・・・・・明日、聞いてみるか」そう言って床に着く夜叉王丸。
しかし、ひと足早く水喪がお葛に聞いていた。
「ねぇ、お葛。私と空牙様が居ない間に何かあったの?」
「別に何もなかったよ」当たり障りのない返答をするお葛。
だが、姉としての勘か、水藻は妹が嘘を吐いていると見破った。
「・・・・・本当に何もなかったの?空牙様も心配してたのよ」
二人を騙している罪悪感が芽生えたが、
「本当に何もないよっ。早く寝よ。明日も早いんだからっ」
強引に話を切り上げ、床に着く妹に諦めたのか水藻も床に着いた。
翌日、お葛は、午前十時くらいに目を覚ました。
『寝坊したよ!?』急いで顔を洗い身支度を整え店に行く。
「ご、ごめんなさい!空牙様!?」料理を作っている夜叉王丸に謝る。
「いや、大丈夫だよ。それより朝飯、作っておいたから食べな」菜箸でテーブルに置かれた料理を差す。
「す、すいませんっ」お葛は、頭を下げながらも朝食を頂いた。
朝食を終え腰巻きを付けて料理を作る夜叉王丸の手伝いに向かった。
「これ、三番目のテーブルに持って行ってくれ」
夜叉王丸の作った料理を三番目のテーブルに運び、奥に戻る。
「今日は、どうしたんだい?寝坊するなんて・・・・・・・・・」菜箸で綺麗に盛り付けをしながら、お葛に尋ねる。
「ちょっと、疲れただけです」失笑しながら答えたが
「嘘は駄目だね」あっさりと見破られてしまった。
「男は騙す時に目を逸らさないけど、女は逆に目を逸らすんだよね」お葛は何も言えなかった。
「歳のせいかな?長く生きてると分かるんだよね」
可笑しそうに笑ったが、直ぐに真剣な表情に戻った。
「水藻殿も心配してたんだよ」
「・・・・・・もし、俺に原因があるなら言ってくれないか?」
沈痛な表情をして聞いているが、料理を作る腕は止めてなかった。
『どうしよう?原因は空牙様に歩るけど、恥ずかしくて言えないよ!?』
顔を真っ赤にしながら頭を振る、お葛に夜叉王丸は眉を潜めた。
「やっぱり俺に原因があるのかい?」
「・・・・え、えーと、あの、その・・・・・・・・・・・・・・・・」あたふたする、お葛。
「・・・げ、原因は、そ、その、せ、生理が、き、来て!?」
「あっ、そうだったの」何となく納得する夜叉王丸。
「言い憎い事を聞いちゃつて、ごめん」頭を下げる夜叉王丸。
確かに。女性からは言い憎い言葉だ。
・・・・・実際の原因は違うのだが、夜叉王丸は納得してしまったようだ。
「おーい!お茶を頼む」客から注文を受け急いで、準備する、お葛。
「今、行きますっ」お葛は夜叉王丸に頭を下げ仕事に戻った。
それからの二人は、気まずい雰囲気の中で仕事を続けた。
『やっべぇな。無理に聞き出すんじゃなかったぜ』
ため息を吐きながら、魚を裁く夜叉王丸。
『うぅぅぅぅぅ、もう少し別な嘘を吐くんだった』
客が食べ終えた食器を洗いながら、お葛も溜め息を吐いた。
そんな空気の中、新たに客が入って来た。
「いらっ・・・・・・」中に入って来た客に、お葛は固まった。
「久し振りだね。お葛」客は、微笑みを浮かべた。
『誰だ?この餓鬼』奥から覗き見る夜叉王丸。
「・・・・・ひ、久し振りだね。聡」お葛は、ぎこちなく笑い返した。
『・・・・・何で、ここに来るのよ』心の中で毒づいた。
『・・・・元恋人か初恋の相手か?』お葛の態度を見て夜叉王丸は思案した。
「水藻さんは居る?」近くの席に座る。
「ううん。今は、琵琶の稽古に行ってる」
「なんだ。せっかく大人になったから二度目の告白しようと思ったのに」残念そうに肩を沈める。
「そ、そうなんだ」返答する声が震えているのが見て取れた。
『・・・・・水藻殿に恋をした餓鬼に、お葛殿が惚れて告白したけど玉砕したって所か?』話の中から推理する夜叉王丸。
「大人になった水藻さんは前より綺麗になったんだろうな」妄想する聡。
『好きな相手以外には冷たい質だな』
他に客も居ないからか、身を乗り出して観察する夜叉王丸。
「しかし、水藻さんに比べれば遥かに劣るけど、お葛も綺麗になったね」
「・・・・・・・」傷ついた表情をしたが、聡は気付かないのか話し続けた。
『随分と手ひどい事を言い捲る餓鬼だな』心の中で毒づく夜叉王丸。
「三百年前に告白された時なんかは、正直いって困ったよ」
「水藻さんに告白されたなら泣いて喜ぶけど、お子様のお葛だったからね・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・ッ」お葛は床に倒れそうな位、ショックを受けた。
告白した時の振られ方もひどかったが、今のは、前よりもひど過ぎだ。
「ん?どうしたの?顔色が悪いけど」聡は、お葛に触れようと手を伸ばした。
「その汚ねぇ手で、この娘に触るな」奥から出て来た夜叉王丸が、聡の手を握り締めた。
「誰ですか?貴方は・・・・・・?」訝しげな眼を向ける聡。
「誰だって良いだろ。話を聞いていたが、てめぇみたいな餓鬼じゃ水藻殿は、無理だ」
「てめぇは、女には優しくするって事を知らないのか?」冷笑を浮かべる夜叉王丸。
「・・・・・知っていますよ。だから、お葛に手を貸そうとしたんです」握られた手を解こうとしたが、無理だった。
「はっ、“淑女”を傷つけた餓鬼がふざけた事を・・・・・・・・」お葛は驚いた。
昨日は、子供扱いした夜叉王丸が今度は、淑女扱いをしたのだ。
「俺から見れば子供だが、それでも水藻殿に劣らない立派な“淑女”だ」
「そんな事も分からない尻の青い餓鬼が偉そうに言うな」
「な、何を!?」聡は激怒して振りほどこうと暴れたが、更に力を込められた。
「俺に喧嘩を売るとは良い度胸だが、愚か者だ」ミシミシと聡の手が悲鳴を上げた。
「・・・・・ぐわぁ」床に膝を着く聡を侮蔑の眼差しで見下ろす夜叉王丸。
「・・・・・さっさと店から出て行け。そして二度と顔を出すな」手の力を緩めて聡を店の外に蹴りだす。
「・・・・・・・ッ」聡は震える足に力を入れ逃げ出した。
「・・・ごめんな」夜叉王丸は振り返り、お葛に謝った
「他人の色恋に口を挟んだりして」
「昨日は、子供扱いしたけど今日の健気に耐える姿を見て、お葛殿は立派な“淑女”だって分かったよ」
「だから、あの餓鬼の言った事なんて気にしちゃ駄目だよ」
お葛の頬から流れる涙を救いながら語る。
「・・・・・空牙様」お葛は我慢出来ずに夜叉王丸に保たれ掛かった。
「・・・・・ふっ、・・・・・・・・くっ」溢れ出した涙は、止められずに流れ出た。
夜叉王丸は、ただ黙って抱き締めて泣き止むのを待っていた。
誰も居ない昼前の店で、お葛は、静かに激しく泣き続けた。
どうでしたか?かなり読み憎かったでしょうけど、また読んで下さい!?