獣様と薬草採取
獣様視点です。
「ふぎゃ!」
森の中を、薬草を探して歩いていたら、隣を歩いていたはずの娘が消えた。
見れば、突如として開いていた穴に落ちていた。
…これで何度目だろうか。
こいつの師匠であるダンの家を出てからまだ10分も歩いていない。
なのに、その間にこいつは、2度木にぶつかり、5度つまずいて転び、4度枝に頭をぶつけ、穴に落ちたのはこれで3度目だ。
というか、なぜこんなところに穴があるのか…。もはや、これは才能なのではないかと思う。
災難が起こる前に、こいつの周りを漂う精霊たちが必死で警告しているのだが、こいつはそれにさっぱり気づいていない。むしろ、警告を発する精霊に気をとられて、他への注意が散漫になるという悪循環。
そのたびに、穴から上がるのを手伝ったり、怪我の治療をしている精霊たち。
しかも、そんなにしてもらっているのに、こいつはそれにも気づいていない。『思ったより上手に穴から出れたし、怪我もなかった。ラッキー』くらいにしか思ってない。
…精霊たちが不憫でならない。
だが、そんなに甘やかすから、余計に危機意識が薄まるんじゃないかと思わないでもない。
なのになぜ、精霊たちはそこまでこいつにこだわるのか。
ここに来てもう1ヶ月たつが、さっぱりわからないままだ。
まぁ暇だけはしないからいいのだが。
俺があの檻に入っていたのは、暇だったからだ。
貴族が変な罠を張っているのを見つけて、暇だし面白そうだったから捕まってみた。
何にもしなくても生娘が来るし、俺を自慢げに見せびらかす貴族の馬鹿面を見るのもなかなかに面白かったのでそこにいた。
でも、生娘の精気にも飽きてきたし、精気をもらってから娘を元いた場所へ術で送り返すのも面倒になってきた。なので、そろそろ出ようかなと思っていた頃、あいつが来た。
獣姿の俺を見てもまったく恐がらず、やたらと精霊に愛されている娘。しかも、あの奇人・ダンの弟子らしい。
無警戒に真名を名乗った娘に、更に興味が湧いた。気まぐれに、魔力を纏わせた俺の真名も告げれば、魔力ごと、あっさりと受け止めて見せた。
こいつに付いて行ったら、しばらく退屈はしなさそうだ、そう思った。
……上手い料理に惑わされた、わけではもちろんない。
ないったらない。
「やった! 今日は一度も食虫植物に喰われなかった!!」
無事?に薬草を採取して帰ると、あいつはそう言って喜んでいた。
その間、13回木にぶつかり、35回つまずいて転び、44回枝に頭をぶつけ、16回穴に落ちた。
数える俺もどうかと思うが、それでも植物に喰われなかっただけで喜ぶあいつは、大丈夫なんだろうか。
心なしか、あいつの周りの精霊たちが行きより霞んで見える。……不憫だ。
本当に、退屈だけはしない毎日だ。
主人公の名前募集!
でも続きは未定!