元魔王と元魔術師と
後日談。書いちゃった。
「うまい」
「ありがとう。こっちのパンもおいしいよ~」
ポテトを一口食べた獣様、改めフェル様が発した一言に嬉しくなって、パンもすすめてみた。
今日の朝食は中はホクホク、外はカリカリの揚げポテトに、ふわふわに焼いた卵をかけて、それに採れたてサラダと焼きたてパンを添えたもの。パンもチーズを練りこんだ自家製。ちぎって口に入れるとチーズの風味が口いっぱいに広がっておいしいんだ!
「あぁ、確かにパンもうまい。お前は料理だけはうまいな」
「えへへ。ありがと」
褒められるのは嬉しいものだ。
あれ、……褒められた、よね?
まぁ、いつも師匠は黙々と食べるだけで、全然感想言ってくれないし。
なにか言ってくれるだけで場が華やぐ。
やっぱり、料理は楽しく食べないとね。
「……なんでワタシが、元魔王と肩を並べて喰わなきゃならないんだ」
そんな、和やかな食事の時間に放たれたのは、ずっと無言で食べていた師匠の言葉。
ただ今、丸テーブルに私とフェル様、そして師匠の3人が座ってまする。
「今が食事の時間で、席がここしか空いてなかったからじゃないか?」
「そうそう。このテーブル、元々は4人掛けだけど、椅子一つ壊れちゃったし」
まぁ壊したのは私だけども、それはまぁ今はいいか。
私とフェル様が事実を言ったのに、師匠はまだなんだかご機嫌斜め。
そんなに眉間にしわ寄せたら、せっかくの美形が台無しですぞ?
この前200歳越えが発覚した、見た目30台くらいの若作りな師匠。
顔だけはいいんだから、もっといい顔してればいいのに。
「そういうことを言ってんじゃない。
だいたい、なんでお前はそうやって、厄介ごとばっか巻き起こすんだ」
「お前の弟子だからじゃないか?」
憤慨する師匠と、それに淡々と応える獣様。
なんかちらっと私の悪口が聞こえた気がする。
厄介ごと……身に覚えがありすぎるゼ……。
「そういえば、師匠は獣様を倒しに行ったのに、なんで獣様はピンピンしてるの?」
未だ発覚してないであろう『厄介ごと』が発覚するのを防ぐために、話題を変えてみた。
ま、気になってたことでもあるし。
勇者御一行とともに魔王退治に出掛けた師匠が、手ぶらで帰ったとも思えないし。
倒されたはずの獣様が、元気に師匠と肩を並べてご飯食べてるってのも不思議だし。
「……」
「師匠?」
ザ・無言。
眉間のしわが更に増えてますよ!
「……思い出したくもない」
更に問い詰めてみても、そんな返事。ツレナイわぁ。
だったら、と質問の相手を変えてみた。
「あぁ、めんどくさいから、魔王を放棄した」
「え、魔王を、放棄?」
「俺は何もしてないのに、なんで倒されねばならないんだ。
返り討ちにするのは容易いが、それも面倒だった。
だから、魔王の位を別のものに移して、城を出たんだ」
「じゃあ、師匠とは会ってなんだ」
「いや、城を出たところで挨拶だけはしておいた」
「あいさつ……」
師匠から発せられる負のオーラが激しいっす。
魔王ってそんな簡単に辞めれるものなの?
代理の魔王ってどんな奴だったのかとか、挨拶ってどんなだったのかとか、聞きたいけど、今は止めておこう。私だって、空気読めるんです!
「あ、じゃあなんで、檻に入ってたの?」
空気を読んでまた話題を変えてみた。
わざわざ魔王を辞めたのに、なんで捕まってたのか。しかも、簡単に出れたっぽいし。
「ああ、暇だったから」
「暇つぶしで、捕まってたの?」
「そうだ」
「……変なの」
獣様って、不思議。
暇つぶしで捕まるとかありえないのに、獣様だからありえるのかもとか思えてしまう。
変なヒトだ。
「お前の師匠も、充分変なヒトだと思うぞ」
「へ?」
最後のセリフは心の中でつぶやいたつもりだったのに、口に出ていたらしい。
チラリと見れば、少し弱まったきていた師匠の負のオーラがまた復活している。
あわわ。
「師匠は口が悪くてちょっとロリコンなだけで、変態ではないはずだよ!!」
「……いつまでもしゃべってないで、さっさと食べて薬草を取って来い」
負のオーラに包まれた師匠は、さっさと席を立っていってしまった。
えっと、私のせい、じゃないよね? ね?
…あ、食事はいつの間にか完食していたらしい。早いな。
獣様も特に気にしてないようで、のんびりと食事を続けている。
私? もちろん気にしてないよ! 師匠が機嫌悪いなんていつもの事だしね!
もう年なんだし、ゆっくり噛んで食べたほうが身体にいいと思うけど、それを今言うとまた怒られるんだろうなとも思う。
何度も言うけど、私、空気の読める子なんです!
さて、ご飯食べたら言いつけ通り、森に薬草採取に出掛けますか!
師匠があんまりしゃべらなかった…。
ノリと勢いで書いてます。スイマセン。