お片づけとゆずれないものと 後編
「私の名前は、クリスティーヌ・デ・マルゲリータです!!」
宣言するように告げれば、なんだか、周りが静かになった。
『えっと、……クリス??』
「聞いてなかったんですか? 私の名前は、クリスティーヌ・デ・マルゲリータです!!」
「お、おい…」
師匠が何やら言いたげだけど、これだけはゆずれないのです!!
「師匠!!」
「何だよ」
「私を慰めようと、腹話術まで使って頑張ってくれたのは嬉しいです。けど、私の名前はクリスティーヌ・デ・マルゲリータです。クリスなぞではありません!」
『ふくわ…じゅつ……』
「ふ、腹話術……いや、だからな、そんな簡単に真名を口にするなって何度も言ってるだろう? 特にお前は魔力強いんだから、真名は大事にしまっといて、普段は愛称で呼ぶのが普通なんだって」
『そうそう』
師匠の言葉にうなずくように、辺りを飛ぶ精霊さんまで瞬くのが、更に癇に障る。
「ですが、私は、両親に付けていただいたこの名前を誇りに思っています。それを簡単に短縮されたくはありません!!」
「…ったく、なんでお前は毎度毎度、この話になると口調がしっかりするんだよ……」
「師匠!! 聞いているんですか!?」
「はいはい。だからいつも名前でよばねーよーにしてんじゃんか。
だいたい、どう呼ばれたらお前は満足するんだよ」
どう呼ばれたら満足…。考えたことはなかったけど、う~ん…
「クリスティーヌ・デ・マルゲリータで。」
「だから、真名はダメだって!!」
「じゃあ、クリスティーヌか、マルゲリータ。これ以上はゆずれません!」
「…どっちもイヤダ……」
何が嫌がられるのかさっぱりです。こんないい名前はないと思うのに……。
「おや、こんなところにいたのかい」
「あ、おば…カレンさん」
いつの間にか、部屋の片付けは終わったみたい。
出てきたカレンさんを、一瞬おばあちゃまって呼びかけたらものすごい形相で睨まれた…。おそろしや…。
「じゃあ先生、こっちはだいたい片付いたんで、私は失礼しますね。
また何かあったら呼んでください」
「あ、はい…」
師匠も、カレンさんの前ではなんだか改まっているのが面白い。
そう思いつつ、ニヤニヤしてたら、またカレンさんに睨まれた。
「リタ! あんまり先生に迷惑かけるじゃないよ!」
「は~い…」
「じゃ、たまには家にも顔出しなよ」
「はいは~い」
帰っていくカレンさんを見送っていたら、なんか師匠に変な目で見られていた。
精霊さんも、なんだか元気がない。
「どうかした?」
「…リタ?」
「あぁ、昔から、家族にはそう呼ばれてるよ」
「あ、そう…」
そういえば、カレンさんが来るときは何かしら用事を見つけて出掛けてたから、師匠の前でカレンさんとしゃべるのははじめてかもしれない。どうも、おばあちゃまってお小言が多いから苦手なんだよねぇ…。
とか考えてたら、もう師匠はいなかった。
しかも、精霊さんたちまでいなくなってるし。さみしいなぁ。
手元に残ったのは陣と呪文の書かれた紙。
そういえば最近実家に全然顔出してないし、とりあえずこの紙の裏にでも手紙書いて出してみようかな。
そしたら、なんか魔術の勉強してるっぽく見えるよね!
****その日の夜の獣様
「で、ジャムは?」
「ジャム?」
「野いちごのジャム。ビンは見つかったんだろう?」
「あぁ、あのジャム、カレンさんの好物だから、お礼にって全部あげちゃった」
「全部……」
「あれ? フェル様、あのジャム好きだったの?」
「……嫌いじゃない」
「じゃあまた採りに行こうよ。毎年、何日かに分けて採りに行くんだ。で、いっぱい作り置きしとくの。
今年はいつもより豊作みたいだから、いっぱい出来るよ!!」
「…予定を空けておこう」
「ありがと!」
「お前ら、仲いいよな……」
獣様と野いちご狩りの約束をしてたら、なんだか影を背負ったままの師匠がつぶやいていた。
師匠も仲間に入れて欲しいのかな?
とりあえず、これでネタ切れです。
また思いついたら続くかも?
何かリクエストあればお願いします!!