1.キノコ狩りとヒト狩りと
師匠の好物のキノコを狩りに、森に入った。
そしたら、ヒト狩りにあった。
なぜに…。この森の中でヒトに会ったことなかったのに、なぜに初めての遭遇で誘拐…。
キノコ取って、ちょっとキレイな蝶々に気を取られてただけなのに。
……えっと、師匠、とりあえず、今日のシチューはキノコ抜きでお願いね。
ミノムシみたいにズタ袋に入れられて、荷物みたいに運ばれる。
袋はチクチクするし、お腹におっさんの肩が食い込んで痛い。攫うにしても、もう少し丁寧に運んでいただきたいものだ。
痛みに耐える私に、ヒト狩りのおっさんは淡々と質問する。
「なんで魔の森に一人でいたんだ?危機感がなさ過ぎる。まぁおかげで楽に仕事ができたんだが。
それにしても、貧相な身体だなぁ。確認するまでもなく、生娘だろう?」
「失礼な! これでも12歳まではモテモテだったんだよ!!
花祭りでも毎年花輪もらってたし! ……そりゃ、父さんと弟からだけど、異性に違いないし……。
花も恥らう17だし、人生まだまだこれからなんだよ!!」
「……そうか。ま、来世に期待してくれ」
「……は?」
人攫いに説教された…。ってか、あそこ、魔の森だったのか……。
会話はそこでプツリと切られ、あとは黙々と運ばれる。
その間も、もっと丁寧に運べとか、私の過去のモテ話なんかをしてみたけれど、まったく持って相手にされなかった。くそう…。
そして、ポイとどこかに放り込まれた。
「だから、荷物じゃないんだって! レディに対してその扱いはどうかと思うわよ!?」
と、文句を言ってみたものの、人攫いのおじさんはさっさとどこかに行ってしまったようだ。
もぞもぞとズタ袋から這い出して、あたりを見回す。
どうやら、私は檻に中に入れたれたようだ。
…えっ、檻?? え、どういうこと??
入れられたのは、私の家がすっぽり入るんじゃないかと思われるような、大きな檻。
あれ、もしかして私、売られちゃうとか?
今さらながらの危機感。
遅い? うん、よく言われる。
どうも目先の事ばっかで、状況把握が遅いんだよねぇ。どうしましょ?
どうしましょと思っても、どうも出来ない悲しい身の上。
とりあえず、檻の中を見回せば、視界に映ったのは黒。
何? と見れば、それはそれは美しい黒の毛皮があった。
私の倍はあろうかという体格、満月のような金の瞳。小ぶりな耳はピンと立ち、つややかな毛で覆われた長い尾が揺れる。そして、ゆるく開いた口からは鋭い牙が見えた。
それはそれは美しい獣様が、そこにはいらっしゃいました。
あれ? これはもしかすると、命の危機ってやつですか?
近づく獣様に、人生の終わりを感じた。
あぁ、高級菓子を棚に隠したまま食べ損ねた…。
師匠、あれは私のなので、私の遺体と一緒に棺に入れてくだされ。
3/30加筆しました。