‐short story‐
冬の童話祭で投稿しようと思っていた短編ですが、童話じゃなくなったので短編集として投稿しました。
初めて書いた短編ですので優しい目で見守ってください。
これは夢見る子供達のために、聖なる夜の空を駆けるサンタを乗せるトナカイ達の物語。誰も知らない、人里から遠く遠く離れたサンタが住む村での、ある日の出来事である。
◆◆◆◆◆◆
彼が仲間内で笑い者だったのはもう数年前の話です。今では笑われる原因であった赤い鼻はすっかり彼のトレードマークへと変わりました。
日々の努力の成果で他のトナカイより馬力があり、何より暗い道をものともしないピカピカの赤い鼻のおかげで、ここ数年のサンタさんからの指名回数は彼がNo.1です。
だけど一つだけ問題が発生しました。
変わったのは彼の赤い鼻への認識だけでなく、彼の性格もなのです。数年前までは泣き虫で引っ込み思案だった彼は、この数年で傲慢なトナカイへと歪んでしまったのです。自分だけが特別視され、子供達からの人気を独占しているのですから、性格が歪んでしまったのは仕方のないことなのかもしれませんが。そんな彼は今まで自分を笑っていたトナカイ達を今では蔑み、罵ってしまうトナカイに……。彼は子供達からは人気者と呼ばれるようになりましたが、仲間内からは笑い者ではなく、こう呼ばれるようになりました。
―嫌われ者、と。
「やあ、トナカイA・B。調子はどうだい?」
「あ、赤鼻……」
「何の用だよ……」
これといった特徴のないトナカイA・Bがクリスマスに向けてソリを引く訓練をしていると、そこに赤鼻のトナカイが人……というよりトナカイを見下した目でやってきた。
「なに。クリスマスに向けて訓練していたら、冴えない鼻の君達を見つけてね。興味本位に話しかけてみただけだよ。にしても悲しいね。君達のその努力は全て無駄になる」
「どういう意味だよ」
「決まってるだろ。今年もサンタさんは僕をパートナーに選ぶ。選ばれるトナカイは各サンタにつき一人という掟だからね」
「まるで自分が選ばれるとわかってる口振りだな」
トナカイAが赤鼻の発言に額に青筋を立てながらも、あくまで冷静に対応する。
「当たり前じゃないか。里で唯一の『赤鼻』である僕を選ばないで誰を選ぶというんだい。ああ、どうしても選ばれたいと言うなら君達の冴えない鼻を蛍光色で塗ったらどうだい?もしかしたら選ばれる可能性が上がるかもしれないよ!」
「……変わったな、お前」
高らかに笑い出す赤鼻のトナカイを見て、トナカイBは悲しそうな表情をする。昔の赤鼻は確かに笑い者で泣き虫なトナカイだったけど、優しく温厚で誰かを馬鹿にするようなトナカイではなかった。願うなら昔の赤鼻に戻って………、と思ったところでトナカイBは考えを放棄する。
……赤鼻をこんなふうにしてしまったのは俺達だ。過去にさんざん笑って馬鹿にした俺達に赤鼻を責める資格なんてない。きっとAや他のトナカイも同じ考えなのだろう。でなければ、とっくに仲間内で争いが起こっているハズだ。
「Ho Ho Ho。こんな場所におったか、トナカイ達よ」
「サンタさん!」
三匹の間に沈黙が続くと、ざくざくと雪の道を踏み進む音が聞こえてきた。音の発生源に首を向けると、そこには白のトリミングのある赤い服・赤いナイトキャップ姿で、白髭を生やした太り気味で常に笑顔の老人の男―サンタさんがいた。
「どうかしたんですかサンタさん?」
「実はお主達にクリスマスの事で伝えなければならない事があっての。それで捜しておったのじゃ」
きた―!と思ったのは、ここにいるトナカイ全員であろう。クリスマスの事でトナカイ達に伝えなければならない事など一つしかない。決まったのだ。今年のクリスマスで、どのトナカイをパートナーに選んだか。
トナカイ達はサンタさんの言葉に息を呑む。あの自信満々であった赤鼻でさえ、今は緊張してサンタさんの言葉を待っている。
そして、伝えられた。
「今年はシロネコヤマトに配送を頼んだから、お主はクリスマス休んでていいぞい!」
「「「ええええええええええええっ!?」」」
ハモった。見事なまでに三匹の叫びがハモった。
「ど、どういうことなんですかサンタさん!?なんで宅急便なんかに……!?」
「サンタとして、夢を運ぶ仕事としての誇りはどうなるんですか!?」
トナカイ達は、そう言われて、「はい、そうですか」と納得出来るわけがない。慌てながらもサンタに反論するが、サンタは溜め息を吐いて真顔になり―
「刑法130条。これ何だかわかるか?」
「…………はい?」
「不法侵入だよ、不 法 侵 入。正確に言えば住居不法侵入罪」
突然の話の切り替わりように三匹はついていけない。
「そ、それが何か?」
「はあ?馬鹿か、お前?トナカイのくせに馬鹿かお前は」
「す、すみません……」
話が変わったのと同時に、サンタの話し方から雰囲気まで変わった。少なくともトナカイ達が知ってるサンタは、自分達に馬鹿だなんて言わなかった。
「プレゼント配るためとはいえ、わし達サンタにも法律は適用されんの。つまりわしサンタであると同時に不法侵入者なの。住居不法侵入罪の刑罰知ってるかお前ら?3年以下の懲役、または10万以下の罰金だぞ、罰金。プレゼント配って罰金までされたら、赤字もいいとこだよ。それとも何か?お前らは老い先短いジジイは赤字で生活出来なくなっても構わないって言いたいのか?」
「「「……………」」」
目の前にいる老人は本当にサンタさんなのか?次第には懐からタバコを取り出して、すーはー吸っている人が今まで夢を運んでいた人なのか?トナカイ達は何も言えない。てか何も言いたくない。
「そして、赤鼻ぁっ!お前ちょっとこっちこい!!」
「は、はい!?」
「お前さ、ここ数年わしのパートナー務めてるからって調子乗ってんだって?」
「い、いえ……そんなことは」
さっきまでの赤鼻の自信は目の前にいるサンタの前では意味をなさない。今、目の前にいるサンタは普通ではないのだ。下手な事を言わないよう気をつけようと決意する赤鼻を、トナカイA・Bは不安そうに黙って見つめる。
「そもそもさあ、何なのその赤い鼻は?」
「ぼ、僕の鼻は暗い道を照らすピカピカな「ああ?」ゴホゴホッ!な、なんでもないです、はい」
サンタは、赤鼻の答えが気に入らなかったのか、吸っていた煙を赤鼻の顔面に思い切り吐き出す。赤鼻は煙をモロに受け涙目。
「いいか?シロネコヤマトに頼る原因は、お前のそのご自慢のピカピカな赤い鼻のせいなんだぞ?」
「えっ?」
サンタの言葉に赤鼻は頭の中が真っ白になる。それもそうだろう。夜道で役に立つ赤鼻が、何故宅急便を頼る原因になるのかわからないのだから。
「わし達サンタは基本的に一般人に姿見られたらアウトなんだよ?だから眠たいのを我慢して夜中に家を駆け巡ってるっていうのに、そのピカピカな赤い鼻のおかげで一般人からバレバレだからね?わしの担当地域じゃクリスマスに不審者が出没するからって夜間警備が実施されるようになったんだからね?」
「さ、サンタさんが、お前の鼻は役に立つって……」
「それでも限度ってもんがあるだろうが。せめて街中では光抑えるとか自重しろよマジで」
絶句するトナカイ達を置いて、サンタは2本目になるタバコを吸い出す。
「おかげで最長老からは減給くらうしよー。馬鹿なトナカイのせいでこっちは散々だわ。なにその鼻?個性のつもり?自分だけ特別だとか自惚れてる?だとしたら、その赤鼻絵の具かなんかで塗り潰して、そこの冴えないトナカイ2匹と見分けがつかないようにしてやろうか、ああ?」
「う、自惚れていて申し訳ありません……」
酷い、酷すぎる。誰がどう見ようが、このサンタは酷すぎる。
「ンなわけで今年、つーか数年間はこのやり方でいくから。文句ある奴は毛皮剥いで毛布にすっからな」
「「「…………」」」
そう言って、サンタは去っていった。赤鼻は涙を流しながらトナカイA・Bに謝罪する。
「ご、ごめ゛ん……僕のせうで……ぐすっ」
「……いや、赤鼻は悪くないよ」
「……ああ、悪いのは時代だって」
赤鼻の背中を擦り、慰める二匹。極寒の中で、二匹の存在は赤鼻にとって何よりも温かく感じた。
「……他のトナカイ達も誘って野生に戻ろう。それで皆仲良く暮らそうぜ」
「うん……」
この日、東アジアを担当するサンタが住む村から全てのトナカイがいなくなったとサンタの最長老に報告があったとさ。
めでたし、めでたし。
続かない。
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