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06,ファンメール

 大介は

「面白いことになったな?」

 と笑った。

「作者の桐山容堂って52歳のおっさんだってな?」

「えっ? 本人が分かってるの?」

「違うよ」

 大介は鈍いなあと呆れた顔で浩樹を見た。

「浩樹君、「桐山容堂」のユーザページにログインしてみなかったのか?」

「いや…、してないけど…?」

 浩樹もしてみようか迷ったが、なんだか悪い気がしてしなかった。

 ……代わりに………………。

 呆れた顔の大介は言う。

「俺はしてみたぞ。確かにユーザページにログインできちまったぜ? ユーザ情報登録もそっくり残っていてさ、メールアドレスも生年月日もばっちりでさ、律儀に職業まで書き込んであったぜ? 52歳の地方公務員だってさ。もしかして本当に警察官だったりしてな? あの捜査の描写なんてさ、テレビドラマで集めた情報にしちゃ詳しすぎたもんな? もしかして連載が打ちきりになったのって、職場で小説書いてるのがばれて、書くのを禁止されたのかもな? ひょっとして、本当の事件をモデルにしていたりしてな? そうだったら面白れえよな? いやひょっとすると本当にさ、本当の事件をモデルにしていて、捜査が行き詰まって未解決になってるんじゃないか? 世間的には知られてなくても警察内部では有名な未解決事件かも知れないぜ? 本当に事件が解決していなくて、犯人も分からないで、だから解決編が書けないのかもな?」

 しゃべりながら大介は興奮して頬を紅潮させた。本当に楽しそうだ。

「まさか」

 浩樹は暴走気味の大介の推理をやんわり否定した。

「そこまで迂闊なことはしないだろう? 生年月日とか職業なんて本当かどうか分からないじゃないか? きっと嘘を書いてるんだよ」

「でもさ」

 大介はちょっとムッとしたように反論した。

「メールアドレスはフリーメールじゃないぜ? 電話会社で契約したものだぞ?」

「そうなの?」

 浩樹は驚いた。そこまで迂闊に自分の個人情報を公開してしまって、「桐山容堂」は何を考えているんだろう?

 浩樹は考えた。

「1年近く経って、なんで今頃こんなことをしたんだろう?

 ……あれ、本当に「桐山容堂」本人が書いたものなのかな?」

「うん? どういうことだい? ログインするIDとパスを公開する前に他人が外部から書き込むことなんて出来ないだろう?」

「いや、他人じゃなくてさ。……例えば、本人はやっぱり重い病気に掛かって、ずうっと入院していて、それで続きが書けなかったんだけれど、いよいよ危ないって状態になって、奥さんとか家族に、実は俺はこういう物を書いていて、肝心のクライマックスで打ち切り状態になってしまっている、残念ながら俺にはもう書けそうにないから誰かに書いてもらえるようにしてくれないか?、って頼んだりしてさ?」

「ああ、なるほどなあーー…。浩樹君、冴えてるじゃん?」

 ホラーマニアの大介が浩輝の意見を褒めることはたまにしかない。こんなに感心されたのは初めてで、浩樹は嬉しくて照れてしまった。ごく当たり前の推理だと思うが、大介はあたら余計な知識がありすぎて考えが突飛に走り過ぎなのだ。なるほどなあと感心して大介は浩樹の推理を更に進める。

「じゃあその家族はインターネットなんかには詳しくないんだな。迂闊だもんなあ。桐山容堂自身それを確認できないくらい容態が悪いんだろうなあ。

 ……誰か完結編を書いてくれるのを、いまわの際のベッドで今か今かと待ちわびているのかもなあ………」

 大介はしんみり言って、じいっと浩樹の顔を覗き見た。

「浩樹君、君、書いてやれよ?」

「えっ、」

 浩樹はドキッとした。実は書けるものなら書いてみたい、とは思ったのだ。まあ今までさんざん推理して、さっぱり分からなくて、今さらこれだ!と思える答えが思いつけるわけないとすぐに諦めたが……。

 大介は真面目に悩む浩樹を笑った。

「わはは、脈ありだな? 本当に書いてみろよ?」

 大介の笑顔に先ほどの老作家?を思いやる暗い陰は微塵もなく、

「なんだよー、からかったな?」

 浩樹は苦笑いして、お返しに言ってやった。

「そう言う大介君が書けばいいじゃないか? ホラーマニアの名に懸けて、もう1度真剣に考えてみろよ?」

「さあな、どうしよっかな?」

 大介も案外その気があるようで、頭の後ろに手を組んでうそぶいた。

「ま、誰かがどの程度の物を書くか、まずは見てみないとな」




 休み時間、浩樹は急いでトイレに行って個室に入った。

 携帯電話で「小説家になろう」にアクセスし、「桐山容堂」のIDとパスでログインした。本当にログインできてしまい、浩樹はネット犯罪に手を染めているようにドキドキした。

「あった……」

 昨夜、「活動報告」を読んだ浩樹はその内容に驚き、「作者宛メッセージ」に桐山容堂宛ててメッセージを送ったのだ。今、ここに開いている。



 送信者 リュウ・ライター

 件名  一ファンです

 日付  201×年 04月 ××日(Wed)22時33分27秒


 はじめまして。僕もホラー小説を書いているリュウ・ライターと申します。

 あなたの熱烈なファンです。

「無形人間」の更新停止は本当に残念でした。

 活動報告のメッセージにも衝撃を受けました。

 僕は本当の犯人と真相が知りたいです。

 人任せになんかしないで、どうかご自分で完結させてください。

 待ってます。



 作者宛メッセージはログインした作者しか読むことが出来ない。それで浩樹は活動報告の記事へのコメントではなく、こちらにメッセージを送ったのだが……。

 浩樹のメッセージは既に誰かに開けられていた。

 どうもそれは桐山容堂ではないように思う。

 浩樹は何となく後ろめたく感じてログインをためらったが、きっとすぐに何人もがログインしたに違いない。

 知りたがりの大介も当然読んだだろう……。

 そうだ!、と思いついて浩樹はまたギクッと胸が痛くなった。

 大介には自分が「リュウ・ライター」であることを明かしていない。

 これまでの会話でお互いに「ユーザページ」を持っていることは察しがついていたが、そこは「君」付けで呼び合う仲、お互いのプライバシーは尊重してあえて訊かずにきたが、「桐山容堂」の「逆お気に入りユーザ」の中に浩樹のユーザ名があるのは容易に想像のつくところで、大介には浩樹の「リュウ・ライター」の正体がばれてしまった可能性が高い。………まったく、桐山容堂も罪なことをしてくれたものだ。今さら「お気に入りユーザ」を取り消しても自分が「リュウ・ライター」であったことを白状するようなものだし……。いや、考えてみれば自分の作者ページでお気に入り登録している作家は「非公開」にしていないから意識して見ればとっくにばれていたか………。

 浩樹は今さらながら大介がさりげなく「リュウ・ライター」の作品の批評をスルーしていた意味を思い知った。まったく迂闊だった。

 もう一度自分の送ったメッセージを読んだ。恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまう。

 削除した。

 「ユーザ情報編集」を開く。

 なるほど生年月日もアドレスも丸分かりだ。まあ生年月日は公開している作者もいるけれど。特に若い女性なんて不用心だなあと思う。ちなみに桐山容堂はAB型だ。

 浩樹はもっぱらパソコン派で携帯電話で文を打つのは苦手だ。時間を気にしながら桐山容堂のアドレスにメールを送った。



 送信者 コウキ

 件名  ファンです


 自分で完結させてください



 ふう、と息をつき、鳴り出したチャイムに慌ててトイレを出た。

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