03,未完のホラー小説
「無形人間」。
たぶん「むけいにんげん」と読むのだろう。
は、「小説を読もう!」に連載されていた長編ホラー小説だ。
およそ1年前だ、ほぼ毎日のように更新され、医学や警察捜査の確かな知識に裏打ちされたリアルな描写で不可解な連続殺人事件を、異様、と呼んでいい迫力で描いた、かなり恐いホラー小説だった。浩樹など同じ場で作品を発表している者としてその上手さに感服し、ひょっとしてプロなんじゃないか?と疑ってさえいた。
アクセス数も硬派のホラー小説としてはかなりあったと思う。
それだけの人気作が、いよいよ真犯人の正体が明らかになる、という最終章に取りかかった途端、突如、ぱったり更新が止まってしまった。
それまでも2、3日間が開いたことはあったので、いつ再開されるかと、真犯人はいったい誰なのかと、浩樹はじりじりした気持ちで更新を待っていた。
当時、まだ高校に入学して間もなく、別々の中学校で面識もなかったが同じホラー好きと分かって仲良くなったばかりの大介とも犯人は誰か?、とうてい人間業とは思えない殺人を成した犯人の秘密は何か?、かなり熱中して議論したものだ。
こうして更新を待っていた者はたくさんいたはずだ。
それなのに、
連載はストップしたまま、けっきょく、続きが更新されることはなかった。
多くの愛読者が失望し、怒りさえ感じたと思うが、作者からなんのコメントも発表されなかった。
浩樹は下手っぴいなホラー小説を書いては投稿し、たいした読者も獲得できず、評価もされず感想も送ってもらえず、がっかりしながら、今でもたまに「無形人間」のことを思い出した。あんなすごい、恐いホラーを書けたらいいのに、と目標にしながら、犯人は誰で、何物だったのだろう?と、明かされない答えに身悶えするような思いがした。
もし自分もあんなすごい作品を書けたら、その時は、大威張りで大介に自分の「リュウ・ライター」としての正体を明かし、作品を読んでもらおうと思った。……大介の批評はかなり辛口なので今はとても自分の作品の評価を聞く気にはならない。「小説を読もう!」の話をしていてたまに自分の作品が口にされるとドキリ!とする。幸いというかなんというか、まだまだ大介がまともに批評するレベルには達していないらしく、さらりとスルーされてしまう。
半年以上、もうほとんど1年近く放置されていた「無形人間」に、昨夜、突如動きがあった。
「小説家になろう」に登録すると自分のユーザページが持て、ログインして開くと、自分が「お気に入り登録」している作者が何か更新するとその情報が表示される。
昨夜風呂から上がって、自分の作品に感想でも送られていないか虚しい期待をしてログインすると、「お気に入りユーザ活動報告」に
・完結編を書いてください 04/×× 20:00(桐山容堂)
とあった。
「桐山容堂」は「無形人間」の作者の名前だ。
浩樹は驚いてその見出しをクリックした。
※ ※ ※ ※ ※
・完結編を書いてくださいー桐山容堂
どなたか「無形人間」の最終章=完結編を書いてください。
この作品にログインするためのIDとパスは
ID=Z◯◯◯◯U PASS=2012END
です。
どなたか、読者を驚愕させる事件の真相と真犯人を想造し、物語を完結させてください。
意欲ある作者の挑戦をお待ちします。
※ ※ ※ ※ ※
「どういうことだ?………」
浩樹は驚き、困惑した。