26,笑えないオチ
「ちょっと怖えーよ。一瞬マジかと思ってビビっちまったじゃんか?」
大介は笑いながら、まだちょっと疑った引きつった顔をした。浩輝はすまして、
「ふん。作品で騙された恨みは作品で晴らしてやったんだ。フェアだろう? 少しは反省したか、友だち甲斐のない薄情者め」
と言ってやった。大介は手を合わせて浩樹を拝む。
「悪い。悪かった。純粋な君の心をもてあそんだ俺を、どうか許してくれたまえ!」
「もてあそぶって、なんか気持ち悪いなあ」
「へへへへ。機嫌直してくれよお〜〜?我が親友よ!」
「うざったいよ」
と言いながら、本心ではけっこう悪く思っているらしい様子に満足して大介を許してやることにした。
「まあいいや。考えてみればけっこうドキドキして楽しかったもんな。本当にホラー小説の主人公になった気分になれたし。ところで倉岳拍子が…さ…………」
浩樹は朝登校してきてから大介を無視して自分の席でつんとすましていたのだが、大介がニヤニヤご機嫌を取るような顔でやってきて、浩樹の前の席を拝借してこちらを向いて話し出したのだが………。
「うん? 倉岳拍子がどうした?」
浩樹は大介の頭の上を見て、口を半開きにしている。
「え? なんだよ?」
シュッ、と腕が振るわれた。
「え? 何?」
ギョッとしたまま固まっている浩樹の様子に大介はまだニヤニヤ笑っている。どうせまだ俺を脅かそうって言うんだろう?と。
あちこちで異変に気づいて、教室中から急速に話し声や笑い声がフェードアウトしていく。
「なんだよう? いつまでそんな顔してんだよお?」
「だ、だ、だ、大介……くん………………」
「ええ? なに?」
ニヤニヤ笑う大介の額に、生え際から、つーーーっと、太く、真っ赤な線が垂れた。
「い、…………痛く……ないの……?……………」
「ええ? 痛い? 何が?」
と言いながら、ようやく大介は鼻の先からぼたっと落ちた血液に気づいて、
「なんだあ?」
と、指で押さえ、後から後からぼたぼた滴ってくる真っ赤な液体に次第に恐怖し、頭の違和感に気づいた。
「あ………、な、なに……、い、イテ…………」
さっきからずうっと蒼白の顔で固まって上を見続けている浩樹の視線に、恐る恐る振り返った。
「う、うわわわわわわああ〜〜っ」
大介は椅子をガタンと鳴らしてひっくり返りそうになった。
大介の後ろに、ものすごい顔をしたクラスメートの女子が立っていた。
その手にカッターナイフが握られ、大介の頭から床に、ぼたぼたと、大量の血液が流れ落ちている。
「うっ、うわああああ〜〜〜〜〜っ!!」
「キイイイイイイイイーーーーー」
と、その女子は食いしばった歯の間から奇声を発し、再びカッターナイフを振り上げた。
教室中に一斉に恐怖の悲鳴が上がった。
大介は悲鳴を上げて床に転げ落ちて這いずり、浩樹はもう、恐ろしさに固まって何も出来なかった。
その女子は奇声を上げて更に大介に斬りかかろうとし、
周りの男子が慌てて女子を羽交い締めにし、その手から危険なカッターナイフを取り上げようとした。
「放せええええーーーーーっ!! うわあああああーーーーーっ!! 殺してやるうううーーーーーっ!!
この、
ブタ野郎おおおおおーーーーー、
うわああ、ぎゃあああああああああっっ!!!!!!!」
女子はものすごい顔でわめいて、暴れた。
浩樹は、その狂気の据わった目が恐ろしくてならなかった。
教室は阿鼻叫喚の騒ぎになり、
大介は床で泡を食いながら、ようやくズキンッズキンッと切られた頭が痛み、
「し、死ぬう、お、俺、出血多量でショック死するう〜〜〜〜」
と、およそ死にそうにはない顔でぐずぐず泣いた。
騒ぎに教師が駆けつけ、怒鳴り声がやかましくがなられた。
切られた大介も、浩樹も、そのクラスメートの女子が何故突然このような凶行に及んだのか、さっぱり分からなかった。