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23,夜明けの悪夢

 なんだこれえ!?

 この人の頭の中こそどうなってるんだ!?

 浩樹は思わず悲鳴を上げたくなった。こんな物いったいどうやって「作品」にしたらいいんだ!?

 生々しく人の頭の中を覗いたような気がして、気持ち悪くなった。きちんとした「あらすじ」にもなっていない「メモ」だからなおさら生々しい。

 こんなパラノイアのモノマニア、とても自分にはまともな文章にできないと思った。

 大介はどうしているだろう?

 電話してみようかと思ったが。

 妄想に取り憑かれて怯えきっている大介になんと言っていいか分からない。

 浩樹は嫌々ながら「メモ」に向き合った。

 「テレパシー」で操っているところなんか大介の書いた完結編と共通している。倉岳は大介の完結編を読んでこのメモを作ったのだろうか? いや、この考えが行ったり来たりしているところは、考え考え、いかにもそのまま記していったような感じだ。同じ材料から答えを求めているので似通った物になるのも自然かも知れない。大介のは完成した物語としてすっきりしているが、こちらはまだバラバラのメモの状態で、とっちらかって、理解しようとすると頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。

 浩樹はため息をつき、それでも

『やってみよう』

 と思った。


 とにかく大介を救うため、

 浩樹は学校の宿題も予習も放り出して完結編執筆に没頭した。

 どうまとめたらいいのか悩みながら、自分なりの想像を働かせてなんとか文章にしていった。

 時刻はとっくに真夜中を過ぎ、丑三つ時になったが、疲れて眠りたいのに、頭の芯が冴えて全然眠れそうにない。カタカタとキーボードを打つ音が響き、周りの静けさが際だつ。眠気覚ましにインスタントコーヒーを入れたが、いつの間にか忘れ去って半分以上冷たくなっていた。

 すっかりカーテンを透かして朝の光が射し、浩樹は、

「終わった……………」

 ENDマークを打ち込んだ。

 ふうーーーー………、と息をつき、大介に電話して教えてやろうかと思ったが、もうとっくに眠っているだろうと思ってやめた。まったくなんのためにこんなに苦労して他人のアイデアで途中からの小説なんか書いているんだろう?と思ったが、ま、これも友情の証だ。明日(とっくに今日か)大介がこれを読めば感動してくれるだろう。(それともすっかり元気になっていらぬ批評を加えてくれるかな?)

 浩樹は書き上げた文章を「更新」して、おっと危ない、と倉岳のアドバイスを思い出してログインのパスを「GOODDAY」に変更した。

 ふわあ〜〜〜あ……、と大あくびして、さてギリギリ7時過ぎまで2時間ばかり眠ろうかと思って、目覚まし時計をセットして、ベッドに入った。







 ジリリリリリリリ、

 とベルの音で目を覚ました。もう時間かと思ったが、なんだか目覚ましの音がいつもと違うように感じた。異様に響きが深くて、ビリビリ金属板に反響しているような感じだ。

 浩樹は急に嫌な感じがして目を開けた。目を開けた途端ギョッとした。

 部屋が赤かった。

 錆の赤で全体が汚れている感じだ。

 部屋が変貌していき、別の部屋になっていく。

 固いコンクリートに覆われた、冷たく、湿って、かび臭い部屋に。


「リリリリリリリリ」


 というベルの音が、遠く廊下の先から響いてきている。

 浩樹の心臓はドキンドキンドキンと外に音が漏れ聞こえるほど大きく速く打って、喉元にせり上がってくるように気持ち悪かった。

 浩樹は恐る恐るベッドの上に起き上がった。白い、汚れた薄い布団を掛けられている。

 どこなのだろうここは?と思って、その部屋を知っているように思った。

 カツ、カツ、カツ、と固い靴底が廊下を打って、近づいてきた。

 浩樹は目を見張って、グリーンの鉄のドアを凝視した。


「ギイーイイーーーーー」


 音を軋ませてドアが開かれた。

 浩樹は血走らせた目に涙を浮かべ、いやいやと首を振った。


 白い人間が立っていた。


 のっぺりしたまるで個性や、感情のない顔をして、色もなく、眉毛も、まつげもなく、ガラス玉のように見開いた目はまるでまぶたが付いてないようだった。男なのか女なのかも分からない。年齢は10代後半に思えるが、分からない、子どもっぽくもあるし、年寄りのようでもある。背はごく平均的で、無個性だ。

 髪の毛もなく、耳の付け根に赤い大きな手術跡があった。

 年齢性別不明の人形のような人物は、右手を伸ばして、浩樹に近づいてきた。その人差し指の先が赤くごにょごにょしているのを見て、浩輝は泣きながら引きつけを起こしそうになった。

「ちっ、違うんだ!」

 浩樹は指を目に近づけられて、必死に言った。逃げたくても座りながら腰が抜けてしまっている。

「ぼっ、僕じゃないんだ!君を作ったのは!

 きっ、

 君の生みの親はっ、

 倉岳拍子だ!

 ぼっ、僕は彼のアイデアをパクッっただけだ!」

 無表情の白い人間は、何か考えているのかどうかも分からないが、ストップし、人差し指を突き出していた右手をパーにすると、ペタッと浩樹の額に触った。

「ひいいいー…………」

 浩樹は震えて目をつぶった。冷たい汗をいっぱいかいているような感触が気色悪かった。

 手が離れた。まだ目をつぶって震えている浩樹の耳に、リリリリリリリ、とベルの音が響き、

 その音が変化していった。


「ジリリリリリリリリリリリリ!」


 ハッと目を覚ました浩樹は、

「わあっ!」

 と、ベッドから転げ落ちた。

 自分の部屋で、二度寝しないように本棚の上に置いた目覚まし時計がけたたましく鳴り続けていた。

「夢…………」

 浩樹は、は、はは、ははははは、と情けなく笑った。

「夢落ちなんて、最低じゃん………」

 ひどくだるくて、全身ぐっしょり寝汗をかいている。

 最低だ、と笑いながら、夢の中で「倉岳拍子」の名前を教えてしまったことに、ひどく罪悪感を覚えていた。

 夢の中のことだ、と思いながら、いわば恩人を売った自分の心が情けなくてしょうがなかった。

 うるさく鳴り続ける目覚まし時計を止めると、まるで世界が止まってしまったような気がした。

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