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20/27

20,危機!

花園スターレッドの活動報告


※ ※ ※ ※ ※


・なんで!? 06/0× 19:37


 皆さん、なんでですの? なんでどなたも「ディープ・レッド」を攻撃してくださらないの!?

 わたくしはこの男にこんなにも辱められて、こんなにも恨みに思っていますのに! どうしてどなたもわたくしの援護をしてくださいませんの!?

 それどころか、

 どうしてわたくしの作品を読んでくれなくなりましたの!? 「後宮の麗人たち」第138話「レイシの告白」アップいたしましたのよ!? レイシがヨンスウに秘めたる思いを伝えるクライマックスですわよ!!?? 皆さん心待ちになさっていたでしょう? なんでですの?????????????

 桜紅 さん、南四条 さん、くるみ嬢 さん、ホワイトアスパラ さん、Yucco さん、大和なすび さん、綺羅綺羅 さん、オハナ さん、彩美 さん、ケチャ猫 さん。

 どうして!? どうして!? どうして!? どうして!?

 どうして!?わたくしを「お気に入りユーザ」から外してしまわれたのですか!?どうしてですか!?わたくしは皆様をちゃんとお気に入りしていますよ!?わたくしがお気に入りを外してもいいんですか!?

 ねえ、どうしてですの? わたくしは皆様を、皆様だけを、こんなにも愛しているのに、皆様はわたくしを愛してくれていないのですか?

 わたくしは寛容な人間のつもりです。まだ間に合いますわよ? どうか考え直して、にっくき「ディープ・レッド」のブタを潰してください!

 お願いです、

 皆様、仲直りいたしましょう? 前のように楽しくおしゃべりいたしましょう?

 わたくしを、

 独りにしないでくださいませ。

 お願いいたします。

 お願いいたします。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


※ ※ ※ ※ ※





 風呂に入っている間に携帯に大介から電話が入っていた。

 なんだろうな?と浩樹は大介にリダイアルした。


『…浩樹君………』

「大介君。今晩は。なに? 電話なんか珍しいね?」

『俺……、駄目かも知れない…………』

「駄目って、何が?」

『「真・無形人間」の完結編を……消された…………』

「ええっ!?」

 浩樹は驚いた。

「ちょっと待って、今見てみる」

 浩樹は机に向かって、スリープしていたディスプレーを起こし、開いていた自分のユーザページから「真・無形人間」にアクセスした。

「あっ。……………………………本当だ、消されている……。いったい誰が?」

『「感想」を見てみろよ』

 「感想」を開いて、浩樹はまた驚いた。投稿者の名前が黒字になって……つまりログイン無しの匿名で、「天使」なる名前で感想が書き込まれていた。



▼良い点

 無し。ナッシング。


▼悪い点

 全部。オール!


▼一言

 死ね。くっだらねえ。おまえなんか存在そのものが犯罪だ。人様に迷惑掛けてはいけません。法的犯罪者になる前に死んでください。



「…………………なんだよ、これ……」

 あまりにひどい言いように浩樹は胸がムカムカした。

『浩樹君……』

「大介君。こんなの無視しろよ。テキストはあるんだろう? もう一度投稿し直せよ? 真面目なホラーファンはちゃんと支持していたじゃないか? 味方の方がずっと多いんだ、こんなくだらない嫌がらせなんかに負けるなよな?」

『俺…、もう駄目だ……』

「駄目じゃないって! 負けるなよ、しっかりしろよ!」

『俺さ、今、眠くてしょうがねえんだ。浩樹君に言われたようにちょっとジョギングしてみたんだ。そしたらすぐへばって、シャワー浴びて飯食ったら、もう…、眠くて眠くて……。なんかさ、変な眠気なんだ。意識を失っちまいそうな強烈な奴がぐわって襲って来るんだ……………… ………………………』

「だっ、大介君!?」

『う、うん……、まだ大丈夫………。でも…、いつまでも保ちそうにない……………。眠っちゃったらさ……、あいつが出てきそうな気がするんだ……』

「あいつって、誰?」

『テレパシーのモンスターだよ』

「そんなわけないって! 妄想だよ! ね、ねえ、そんなに心配なら、俺、そっち行こうか?」

『…今、雨降ってるぜ……』

「え……、あ、ほんとだ…」

『いいよ……。浩樹君を巻き込みたくない……』

「なに深刻に落ち込んでるんだよお? しっかりしろよ?」

『浩樹君……、俺の唯一のリアルフレンドだもんな。その浩樹君を……、殺したくないよ…………』

 浩樹は「友だち」と呼ばれて感動した。

「だからあ、冷静になって考えてみろよ? そんなこと、起きるわけないだろう?」

『もういいよ。これまで、ありがとうな。楽しかったよ』

「まっ、待てっ! 待てよお。えーと、うーんと、そうだなあ………」

 浩樹は必死に考えた。大介は本当に自分の書いた「無形人間」の世界に「精神」を取り込まれているのだ。小説の中からテレパシーが発せられて作者を操ったり、本物の殺人エスパーモンスターが現れるなんて起こりっこないが、夢遊病になった大介が何か恐ろしい事件を引き起こしてしまう恐れは十分ある。

 何か、大介を納得させる方法はないか………………

『「真犯人」はさあ……』

「………えっ? な、なに?」

『「真犯人」はさあ、フランケンシュタインのモンスターと同じなんだ。奴は創造主フランケンシュタイン博士にこの世に生み出されながら、名前も与えられず、自分が何物なのか分からず、相容れない世の中を憎んで、創造主である博士を恨んで、殺人を犯して行くんだ……。寂しい、愛を求める哀れな奴なんだよ………』

「えーと……、どういうことかな?」

『奴はちゃんとした「自分」になりたいんだ。でもそれを否定されたから……』

「それじゃあつまり、「真犯人」はただ作者を殺したわけじゃなく、せっかく得た自分の「正体」を「削除」されて、それで恨んで作者を殺したって言うのか?」

『うん………。今、そんな気がしてる……』

「いや、違うよ。ジェイソンXYZの完結編はそのまま残ってるじゃないか? なのにあいつは真っ二つにされて殺されちゃったよ?」

 それが事実かどうか分からないが、今は大介の精神に合わせて考えてやらなくてはならない。

『ジェイソンXYZは……、全然まともな正体なんか書いてないじゃないか? でたらめだよ。だから最初から自分の「正体」なんて認めなかったのさ』

「そ、そうなのかな?」

 なんだかこじつけの屁理屈に思えるが、大介がそう考えているんじゃ仕方ない。大介が実に残念そうに言った。

『俺のは……、かなりいい線行っていたと思うんだけどなあ………。ひょっとしたらこのまま、俺がモンスターになることはあっても、「真犯人」に殺されることはなかったんじゃないかなあ?…………』

 大介が自分に何か期待しているように思えた。

「……分かった。じゃあ、僕が大介君の書いた完結編を修復してみるよ。多分まだGoogleの取得したページがそのまま残っていると思うから」

『多分、それじゃもう駄目だ。いったん否定された「正体」はもう受け付けない』

「そんなあ。じゃあ…、どうすればいい?」

『もし…、もし、浩樹君が本気で俺を助けてくれるつもりなら……、浩樹君が新しい「正体」を「真犯人」に与えてやってくれないか?』

「ええっ!? そんなの……、僕には無理だ。いや、無理だったんだよ?」

『じゃあ……、多分これでお別れだ。さようなら』

「待て待て!はやまるな! 分かった、書くよ、書いてみるよ! ……えーーーと………、でも、どうしよう? 僕、本当にろくな正体が思いつかなかったんだけど………」

『誰か助けてくれる人がいるといいんだけどな。俺はもう………、限界………………』

「わあ〜〜〜〜っ!! まだ寝るな!!

 えーと、えーと、誰がいる!? 誰がみんなの納得する「真犯人」の「正体」を知っている!?」

『書けそうなのは…』

 浩樹もハッと思いついた。

「倉岳拍子!…………」

『かもな。……じゃ、頼んだぜ? 生きていたら、また明日学校で会おうぜ…』

「大介君? 大介君!?」

 大介は通話を切っていた。浩樹はもう一度かけ直そうかと思ったが……

「時間がない……」

 本当に新たな「真・無形人間完結編」を書くことで大介が助かるのかどうか分からないが、なんだか浩樹までそうしなければならないような気になってしまっていた。

「倉岳拍子。頼む、答えてくれ!」

 浩樹は急ぎ、「倉岳拍子」宛の「メッセージ」を打って送った。

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