15,批評
……と、
いうのが桐筺羊羹によるいわば「秘密実験バージョン完結編」のあらすじで…、
あらすじを説明するだけでもたいへんな代物だった。
面白い。
と、浩樹は思った。読んでいてかなり興奮したし、謎も一通り説明されている。
なかなか見事な解決編だ。
が、
なんだか面白すぎて、もう一つ別の小説を読まされた気分だ。
これはこれで面白いけれど、それまで具体的なフリのない「驚くべき事実」がバンバン出てきて、「そうである必然性」には薄い気がする。
それまでリアルな警察系ホラーだった物が、「テレパシー発生装置」に「サイコキネシス」と、SFマンガの小道具が出てきて、ちょっとそれまでの面白さとは異質に感じる。
面白いけれど……
75点
というのがあくまで「無形人間・完結編」としての浩樹の採点だ。まあ浩樹的には一応合格点だと思うが。
他のファンはどう見るのだろう?
翌日、さっそく大介に感想を聞いてみた。
「面白いんじゃねえか?」
辛口の大介にしては珍しく素直な褒め言葉だ。
「まさに意外な結論だったよな? ミステリーじゃなくホラーだもんな、ちょっとぶっ飛んでるくらいが面白いよな? 決着の付け方もきれいで、あれなら一般のホラーファンにもウケがいいんじゃないか?」
とまあ、浩樹が驚くくらいのべた褒めだ。
呆れたような浩樹の顔に大介が意外そうに訊いてきた。
「浩樹君はどうなんだ? 面白くなかったか?」
「面白かったよ」
「そうだろう?」
「でもさ」
「でも?」
「あんまり「無形人間」としての必然性は感じなかったな」
と、浩樹は昨夜読んで感じたことを素直に言った。
大介は、ちょっとムッとしたような顔になった。
「でもさ、俺だってあれ以上の完結編なんて思いつかないぜ?」
「そうなんだけどさ。バリエーションの一つとしてありだと思うけど、絶対、っていう決定力はないように思うんだよ?」
なんだか向きになっている大介になんだか言い訳するみたいになってしまった。
「そうかなあ?……」
と、大介は不満そうに口の中でぶつぶつ言った。よっぽどお気に入りのようだ。
浩樹はちょっと話題の方向を変えた。
「作者は誰だろうねえ? けっこう書き慣れている人だよねえ?」
「そうだな。誰だろうな? 俺は案外桐山容堂本人が変名で書いたんじゃないかと睨んでるんだけど?」
まだそんなことを言うのか?と浩樹は内心ちょっと呆れた。
「それはないと思うけれど……。僕は案外、倉岳拍子辺りなんかどうかと思うんだけど?」
「倉岳拍子い〜〜〜?」
大介は不満そうに思いっきり顔をしかめた。
「違うかな?」
「違う違う。あの作者にあんな完結編は書けやしないよ」
「そうかな? だって前に「霊能力者姫宮魅智シリーズ」でテレパシーで人を殺す不死身の新人類が出てきたじゃないか?」
「あんなのは「スキャナーズ」と「バイオハザード」のパクリだ」
「そう? それを言うならあの完結編だって「キャリー」じゃないか?」
「サイコキネシスってだけだろう? 「キャリー」はもう古典だからいいんだよ」
なんだかむちゃくちゃな論理になっている。らしくないなあと思う。
「そうだね。倉岳拍子ではないか。倉岳拍子って安っぽいホラー的表現ってしないもんね?」
「安っぽいホラー的表現?」
「うん。ほら、「異形」とか「漆黒の闇」とか「猟奇的」とか「非日常」とか、ホラー独特の決め言葉みたいなのって使わないじゃない? 「怪物」とか「真っ黒」とかいう普通の言葉で済ませちゃってさ。きのうの「完結編」はそういうホラー言葉のオンパレードだったもんね? あれは倉岳拍子の文章ではないね」
「倉岳拍子なんて、八方美人の、一般文学を気取った、いけ好かねえスカシ野郎じゃねえか」
すっかり怒らせてしまった。もはや個人的悪口だ。確かにやたら早書きらしい倉岳拍子の文章は、ストーリーを追う気持ちが先走りしすぎて、ポキポキして、ホラーファンが大好きなねっとりしたホラー独特のセクシーさがない。それに、確かに倉岳拍子があんな自信満々の前口上なんてするとは思えない。
すっかり怒ってむくれている大介に、
「あのさあ……」
と浩樹は恐る恐る訊いた。
「もしかして、あの完結編書いたのって、………大介君なんじゃないか?」
大介はギョッとした顔で固まった。
「……お、俺のわけねえじゃん。俺、あんなすげえの書けねえよ…」
と、ぎゅっと口をつぐんでしまった。
「そう」
と、浩樹は一応納得した顔をして、大介のご機嫌を取るように言った。
「面白かったよね。あれ以上の物は、やっぱり出ないだろうね?」
「そう……思うぜ?」
と、大介は照れたように、ようやく機嫌を直してくれた。