14,「完結編」秘密実験バージョン
「真・無形人間」が開設されて3週間後、ついに新たな完結編が発表された。
満を持しただけあって今度の完結編はちょっとすごい物だった。
「最終章その2」
前書き:
「無形人間」ファンの皆さん今晩は。無謀な挑戦者の桐筺羊羹と申します。
全力で知恵を絞って僕なりの「答え」を見つけたつもりです。
これ以上に完璧な答えがあるなら是非見せてほしいものです。
皆さん、特にオリジナル作者様の判定をお待ちします。
と本家に勝るとも劣らない自信満々の前口上で始まる完結編は、「最終章その8」まであるかなりの大作だった。
作者名は「きりはこようかん」だろうか?
浩樹が興奮しながら読み進めていったストーリーはだいたい次のようなものだった。
犯人は院長一家の部屋に引きこもっている女子大生の妹だった。
彼女は心から信じ切っていた親友と恋人に裏切られすっかり人間不信になってしまっていた。
無気力に自分だけの世界に閉じこもっていた妹だったが、ある頃から不気味な地下通路を通って病院内をさまよう夢を見るようになっていた。しかも足の汚れなどからどうも本当に部屋から出てさまよい歩いていたらしい。
妹は自分が夢遊病になってしまったと怯え、医師の兄に相談する。兄は外科医で専門外であったが、友人の精神科医と共に催眠術を施し、夢遊病の発作が起こったら洗面所で顔を洗ってベッドに帰るよう暗示をかける。
ところがその夜、入院患者の若い女性が何者かに殺害されてしまう。
防犯カメラでその姿を見た兄はそれが妹であると分かり驚愕する。妹の精神に何が起こったのか? しかもか弱い娘にあるまじき怪力とはどのように発揮されたのか?
夜中、夢遊病の発作を起こして部屋をさまよい出た妹の後を付け、兄は屋敷の中の隠し扉を抜け、謎の地下室へ下りていく。本当に存在した地下室に驚きつつ、そこが何の施設だったのか調べてまた驚く。そこは………
妹の病院への進入経路を知った兄は、病院への出入り口である霊安室やその他の監視カメラが何者かに操作されて妹の姿を隠していたことを知る。
それを行っていたのは父である院長だった。
そもそも病院をこの地に建てたのは院長である父と、母の父親である理事長の強引とも言える強い要望によってだった。
理事長は若き日、軍の研究員として前身である精神病院で患者を使った人体実験を行っていた。長い潜伏期間を経て、社会的実力を付けた理事長が若き日の研究を再開させていたのだ。現在は院長が跡を継いで実際の実験を行っていた。
現在再開された軍の秘密実験とはどのような物なのか?
行われていた実験、それは人と人との精神の連結だった。
大戦中、敵に勝つため国民の強固な意思の統一が必要とされ、様々な分野でその研究が行われた。
精神病院で行われたのはその医学的アプローチの一つだった。
驚くべきことに実験は半ば成功していた。
複数の脳を電気的に連結し、強力なテレパシーを発生させることに成功したのだ。
しかしそのテレパシーの内容を操ることは出来ず、周囲に悪夢として撒き散らかされるだけだった。
しかしそれはそれで敵国で大規模に行えば精神兵器として利用できる。軍はさらなる研究、実験を推進した。
強力なテレパシーには副作用があった。
受信者を一人に絞ると、その者は強力な超能力を発揮するようになった。
その能力の発現は対象者の秘めたる素質によって様々だった。
しかし超能力を発揮する受信者も自由意識を持てず、でたらめに暴力的に能力を振るうのみだった。
軍はこれも人間兵器として使えると、さらなる研究を押し進めた。
軍は人体実験の患者たちを「装置」として固定することに成功した…………。
しかし実験のさなか、患者たちが暴動を起こし、病院は破壊され、多くの医師看護士たちは殺害され、火事が起き、病院は消失した……シェルターも兼ねた秘密の地下実験施設を除いて…………。
理事長はテレパシー発生装置の完成にこだわった。
今になって何をするつもりか?
人の精神を外部から強力に操ることが出来れば、世の中のあらゆることを自分の思いのままに操作することが出来る。
いささか痴ほうの差してきた理事長はマッドサイエンティストと化し、まだ若い院長はその成果に野望を抱いていた。
60年以上前の「装置」が今も生きていた。
テレパシー発生装置として人体実験された患者たちは、薬品の投与によってゆっくりと固まって樹脂化していき、プラスチックのミイラとなって、30体余りが、「装置」として整然と並び、連結されていた。
院長は実験体として精神のシンクロ率が高いと思われる母親を発信者に、娘を受信者にして実験を行っていた。娘の夢遊病はその実験によって引き起こされた現象だったのだ。
単純な行為から次第に高度な行為へ段階的に引き上げていく予定だったが、アクシデントが発生した。
兄が施した催眠術によって夢遊病中の妹が鏡で自分の姿を見て、母親や「装置」の記憶と混線し、すっかり自分という意識が分解してしまった。
妹は「自分」を捜して病院をさまよい、病室に「自分」(=若い女性の入院患者)を見つけるが、「自分」になることを拒否され、怒りにまかせて超能力…妹の場合は強力なサイコキネシス=物体を動かす物理的エネルギーの発生、を発動し、「自分」を拒否した女性を破壊してしまう。
「別の自分」を壊したことで落ち着きを取り戻した妹の精神は、休息をとるため自分の部屋に帰り、眠りにつくと、目覚めたときにはすっかり元の精神に戻って夢遊病中の記憶はなくしていた。
院長は警察の捜査が入ったこともあり実験を中止していたが、いったん強力に結びついてしまった娘と装置と母親の精神は、就寝中に同じ悪夢で結ばれ、娘は再び「精神分解」の発作を起こし、自分を治療するために新しい女性入院患者を破壊してしまう。
兄の外科医師にも父親の行っている実験のことが知られてしまい、兄は苦悩しながらも妹と家族、自分のキャリアを守るため、実験の事実を秘密にし、妹の犯行をかくまうことに同意する。
母親と妹は父と兄がそれぞれ監視し、テレパシーのシンクロを防ぐ努力をしていたが、兄は妹を救うため根本的な方法を探る。
しかしその努力の最中、一人の刑事に地下実験室のことを嗅ぎつけられ、侵入されしまう。
父は自らテレパシーの発信者となり、刑事に強力なテレパシーを送りつけ、脳を破壊しようとする。
刑事は苦しみながら武道で身につけた精神統一でテレパシー攻撃をしのぎ、逆に父は空回りした装置からのフィードバックでテレパシーに精神を蹂躙され、廃人になってしまう。
しかし院長もテレパシー発生装置と化し、病院中に凶暴な悪夢が蔓延する。
患者や医師たちが野獣と化して殴り合い、殺し合う。
刑事は「装置」を破壊するが、既に強力なテレパシーのネットワークが出来上がってしまっていて、被害者たちの暴動は収まらない。
責任を感じた兄は、妹と直接精神を連結させ、テレパシーの輪の中に割り込み、妹の精神を見つけ、妹への愛情を訴える。ようやく悪夢の中で「自分」を見つけた妹の精神は安定するが、そこへ暴力的なテレパシーのエネルギーが一気に押し寄せ、妹と兄は共に脳を破壊されて死んでしまうが、最期には目を開けお互いを認めた二人の表情は穏やかな物だった。
<完>