01,無形人間「最終章 その1」
メッセージ:片桐さま。犯人教えてください。(http://ncode.syosetu.com/n4885k/)
遺体が運び出された後の霊安室に長身の男が入ってきた。一見ひょろ長く見えるが、肩幅は広く、鋼鉄の芯が入ったように硬くまっすぐな、黒いシルエットの主は、刑事の黒沢だ。
そぎ落としたようなシャープな細い輪郭の中に昆虫を思わせる真っ黒な瞳の目をぎょろつかせ、黒沢は室内を見渡し、天井の隅からこちらを見下ろす監視カメラのレンズをじっと見つめた。まるで、……レンズを通してモニターを見つめている人物を見ているように。
「おい」
黒沢は固い金属質の声でカメラに呼びかけた。
「マイクも仕掛けてあるんだろう? そのカメラの映像がそっちで差し替えられるように細工されてるのは分かってるんだよ。暗いモニターじゃ分からねえだろうがな、前に来たときに壁にちょっとしたイタズラ書きをしておいたんだよ。ほら」
黒沢は、監視カメラから見て奥の、入り口ドアの右側の端の柱のところへ行き、ここだ、と指さした。
「よーく見ろ。分かるか? 「ザマアみろ」って落書きしてあるんだよ」
モニターを、
わたし
はじいっと見た。黒沢の口の端を引きつらせた、ざまあみろ、と勝ち誇った笑いが癇にさわる。
たしかに、「ザマアみろ」と書かれているようだ。
モニターの中の黒沢が丁寧に解説してくれる。
「差し替えられた映像にはこのイタズラ書きが無い。ハードディスクに記録された監視映像を調べ、そこからあんたがそうやって監視カメラを盗み見している時間が割り出せる。いや、あんたがここを出入りした時間が特定できる。切り替えはリモコンで出来るんだろう? 既にあんたのスケジュールと照らし合わせて裏は取ってある。あんたは自分の部屋にいたと証言しているが、本当はここに来ていたんだろう?
だが、ここはただの玄関だ。
あんたのいる「地下」への出入り口があるんだろう?
おい、どこだよ? 教えろよ?」
わたしは、黙っている。
「ちっ、だんまりかよ。ま、わざわざこっちにスピーカーを付ける必要はねえだろうからな。ま、いいさ、見当はついている」
黒沢は薄暗い照明の中、手前に歩いてきて、「神棚」の中を探った。
スイッチがひねられ、奥のロックが外された。
「ビンゴ。カプセルホテルの中じゃなくて助かったぜ」
神棚全体が一段前に飛び出し、左を軸に回転して、「ドア」が開かれた。
「さあて、じゃ、そっちに行かせてもらうぜ」
黒沢はコートの内から真っ黒な拳銃を取り出してこちらに振って見せた。抵抗すれば痛い目を見るぞ?という脅しだ。
ふん、勝手にするがいい。
地獄へ、ようこそ、だ。
黒沢は銃を前に構え、慎重に、コンクリートの階段を下りだした。
意外に深い階段に灯りはなく、ずうっと下に、廊下の先から暗い明かりが差している。
それはまるで、地獄の監獄への入り口のようだった。