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命短し恋せよ、ヒーロー!!『レッドの場合』

防衛庁、特殊機関。WBC日本支部は侵略的地球外生命体。通称『怪獣』から市民を守る為に組織された、言わば日曜朝の特撮番組のような戦隊ヒーローだ。


青年、赤崎藜はWBC日本支部に所属する隊員。ようは正義の味方ってワケだが、正義の味方と言うほど善人でもなければ高尚な志があって防衛庁の特殊機関に所属したワケではない。


赤崎藜は怪獣を酷く個人的な理由から憎んでいる。故郷を怪獣に滅ぼされたのだ。


侵略的地球外生命体とあるように。怪獣はある日、宇宙(ソラ)から現れ、理由は未だに定かではないが日本を中心に襲撃を繰り返している。


赤崎藜の故郷、京都は怪獣によって壊滅した。


美しの国。古都、京都はたった一夜で無くなったのだ。赤崎藜は偶々。大阪に暮らす兄夫婦の下に遊びに行っていたことで難を逃れたが両親と祖父母は怪獣襲撃の際に命を落としている。


WBC日本支部の前身となる自衛隊の特殊部隊によって怪獣は辛くも倒されたが復興など不可能な程に故郷は壊滅状態。立ち入ることさえ許可されず、京都壊滅に前後して怪獣の襲撃は激化。


赤崎藜は兄夫婦の下に身を寄せ。二十歳の時、防衛大学に入り二十四歳の時に世界の主要国家が合同で立ち上げた特殊機関。WBC日本支部に入隊し怪獣と戦う日々を送っている。


怪獣への酷く個人的な恨みから特殊機関の隊員となった赤崎藜は、怪獣が現れたら嬉々として前線に飛び込んでいく。


一匹でも多く怪獣を倒す為に、普段は軟派でへらへらと緩く笑ってる赤崎藜は人格が変わったように冷徹で傲岸不遜な司令塔となる。


怪獣を倒す為なら仲間の遺体すら利用し、怪獣が死ぬまで攻撃を緩めることなく獰猛に戦い。誰よりも怪獣の血を浴びて戦場に君臨する。

そんな赤崎藜は派手な赤髪であることも相俟って世間からこう呼ばれている。血濡れ将軍。ジェネラル・ルージュと──。


そんな赤崎藜だけれども仕事が終わればただの人間だ。怪獣を倒したあとは官舎に一度帰ってシャワーを浴び。私服に着替えて、街に出る。


怪獣が襲撃を繰り返してもひとの営みは無くなることはない。高層ビルは壊されて。十数年前まで狭かった(ソラ)は広くなったけど、それ以外はなにも変わらぬひとの暮らしがある。


人間は案外逞しい生き物なのだ。大災害がある度に立ち直り、それまで以上の発展を繰り返して来たこの国の人間は怪獣の襲撃ぐらいじゃへこたれなかった。


そんな逞しく生きる人々の暮らしのなかに混ざるのが赤崎藜の数少ない癒しの時間だった。


ビル街の昼間から営業している飲み屋で安くてボリュームのある日替わり定食を食べ、特に目的もなく街をブラつくその様はどこか野良猫のような気儘さがあった。もうそろそろやなと。鳴り響く鐘の音に赤崎藜は足早に歩き出す。


相次ぐ怪獣襲撃にあっても倒壊しなかった復興と日常の象徴な老舗デパートの時計台から響く鐘の音が鳴り終わる頃、閑散とした駅前に制服を着た少女がギター片手に立っていた。


チューニングをして、音を確かめ。とんとんと足でリズムを取り。顔を上げ、ギターを鳴らしながら少女は歌い出す。赤崎藜は来る途中で手に入れたコーヒー片手に少女の歌声がよく聴こえる古ぼけたベンチに座り、少女を眺めながら口に弧を描く。


週に二回、月曜と木曜日。この駅前で制服を着た少女は歌う。歌が飛び抜けて上手いワケではない。下手ではないが素朴な感じだ。容姿が目を惹くほど整ってるワケでもない。


赤崎藜からすれば愛嬌があって可愛らしいが普通の少女だ。ならばなぜ赤崎藜はこの少女の歌をわざわざ聴いているのか。理由は少女の着る制服にある。


少女の着ている制服は赤崎藜が通っていた高校の制服なのだ。


今はもうどこにもない怪獣に破壊されて無くなってしまった高校の制服を少女は着ている。


私立の高校で。それ故に凝ったデザインの制服は一目見て、通っていた高校の制服だと赤崎藜に思い出させた。


制服を着た少女との出逢いは一年前。偶然、駅前の広場で酔っ払いに絡まれてたのを見かけ。仕事柄、見捨てるワケにもいかなくて助けようとしたら少女は意外に度胸があり。


酔っ払いからリクエストを聞き出し、ギターを掻き鳴らして歌い始めた。歌声は素朴。


テレビやラジオから流れてくる流行りの曲を歌う歌手と比べたら稚拙な歌い方であったけれども。制服を着た少女の歌は不思議と胸に深く染み込むような澄んだものだった。


制服を着た少女に絡んでいた酔っ払いも聞き惚れていた。ギターケースにお捻りを入れ、立ち去る酔っ払いにぺこっと頭を下げて制服を着た少女は赤崎藜に気付き。会釈をして、また歌い出す。


楽しげに、のびやかに。その姿に惹かれ、何曜日に来るか把握する程度に通い詰め。週に二回、月曜と木曜日。赤崎藜は少女の歌を聴くためにこの駅前に来る。少女が歌うのはオリジナルなこともあれば、古いポップスやロックだったり。流行りのアイドルグループの曲なこともある。


好きな歌を気儘に歌ってるらしい。少女は時々観客にリクエストを聞き、リクエストされた曲も歌う。見た限りリクエストされた曲はすべて応えられているようだから少女はかなりの曲を網羅してることになる。


古ぼけたベンチに座りながら。少女の歌を聴き、目を閉じる。穏やかな微睡みのように心地好い時間を過ごしていた赤崎藜は不意に歌声が途切れたことで目蓋を開く。


「下手な歌をずーっと聴かせやがって!!耳障りなんだよお前の歌は!」


「耳障りなのにずーっと聴いてたんですか!?」


「言葉の綾だ!!二度と歌えなくしてやる!!」


制服を着た少女に絡む男の肩を赤崎藜は叩く。気持ち、強めに。


振り返った男に赤崎藜はへらへらと笑い。俺からしたらアンタのわめき声の方が耳障りやと目を細め。


こんなちっこくて可愛い子にけったいな難癖つけて。アンタ、自分がどんだけ格好悪いかわかっとる?と呆れたように言い放つ。男は顔を赤くし赤崎藜に殴り掛かる。


だが男の拳をひょいと掴み、赤崎藜は珍しい菱形の瞳孔を開き。

この子の歌を聴いてええ気分やから今なら見逃したる。はよ、どこへなりと去ねと男にだけ分かる殺気を発して薄ら笑う。


「~~ッ!!」


「あんらら、根性なしな男やなァ。俺程度の殺気で逃げ出すんやから。お嬢ちゃん、怪我はしとらん?あの男にどっかぶたれたりしてへん?手首掴まれたん?よし、待っとき。そこの薬局で湿布買うてくるからさかい。」


「え、あの。そ、そこまでして貰う理由がないですよ!!」


「理由ならある。この場所で歌を続けて貰いたいんや。」


あんなけったいな輩のせいでお嬢ちゃんの歌を聴けなくなるのは俺が嫌や。···あー、あかん。俺もテンパッてるわ。絡まれて怖かったやろ。お嬢ちゃんが大丈夫なら俺と一緒に薬局行こか。


「俺は赤崎藜。八月二十日生まれの獅子座で趣味は街ブラ。そんでWBC日本支部。いや、公務員や。こんな派手な見た目やけどお堅いトコの人間やから安心してなァ。」


「公務員、ですか?」


「そうや。こんな見た目やし。そうは見えへんかもやけど。困ってる人を助けるのが俺の居る部署のお仕事なんや。」


「人を助けるのがお仕事ということは警察官?」


「んー。遠からずに近しからずやなァ。」


制服を着た少女がギターを仕舞い、控え目に後ろを着いてくるのを確認しながら薬局に行き。赤崎藜は湿布を買い、薬局の近くにあった自販機で缶コーヒーを手に入れ。


人目があり、閉塞感のない駅前の広場の古ぼけたベンチで。触られるのは嫌やもしれんけど勘弁してなと少女が不審者に掴まれていた手首に湿布を張り、テーピングで確り固定し。後から痛みが出てくることもあるから、そんときはちゃんと病院に行くこと。


そう笑って赤崎藜は缶コーヒーを制服を着た少女に渡す。保温されたそれは温かい。


両手で缶コーヒーを受け取った少女は身体の強張りを解き、ありがとうございますと眉を下げて笑い。赤崎さんは何時も私の歌を聴いてくれてますよねと確かめる。


赤崎藜は頬を掻き。目立たんよう、隅っこで聴いてたんやけど。俺、そないに目立ってたん?と問う。


制服を着た少女はくすくすと笑い、赤崎さんの髪は綺麗な林檎色ですから直ぐに分かりますとむふりと微笑む。


この赤は紅玉ですと語る制服を着た少女に赤崎藜は目を瞬かせて紅玉って。林檎の品種やな?と聞き返せば制服を着た少女は。


私、青森出身で。実家は林檎農家でしたと懐かしむように伏し目になり。実家も故郷の村も。今はもうないんですけどねと巻いていたマフラーに口許を埋め。


小さな呟きを口にして制服を着た少女はハッとしてベンチから立ち上がり。寄宿先の門限があるので私は帰りますとギターケースを肩に担ぐ。


あ、湿布のお代は次の日に持ってきますとハキハキ告げ。白い息を吐き出し、ぺこっと頭を下げて駆けていく。まっすぐ駅舎に向かったということは近辺に住んでは居ないのだろう。


豆粒程の大きさになった背中を見送って、赤崎藜も古ぼけたベンチから立ち。ゆっくりとひとの波に逆らいながら歩き、二世代前の古い機種のスマホで高校生ぐらいの女の子が好みそうな贈り物を考える。


(初対面やなくてもいきなり食べ物を渡されても怖いだけやろうし。装飾品もアカンな。なんや下心が見え透いてる気がするからな。うーん、推しに貢ぐって案外難しいな。)


赤崎藜の職場に二百年も前の無名に近い小説家を生涯の推しと胸に刻みこみ、推し活に励む敷島という後輩が居る。


小説家本人は既に鬼籍のひと。故に後輩は小説家に贈ったつもりで様々な貢ぎ物を官舎の自室の祭壇に捧げている。


その後輩が好きな相手が同じ時代に居て。贈り物を手渡し出来るのに贅沢な悩みですねェ!?と間違いなく憤慨するようなことを思いながらも赤崎藜は制服を着た少女がマフラーの位置を直した時の指先を思い出す。


「···手袋やったらお嬢ちゃんに受け取って貰えるやろか。高ぅても気後れするし安すぎんのもダメや。安いヤツはごわごわしとって大事な手が荒れてまう。ギター引く手は大事にせんとな。」


(あ、これ。ええな、デザインも可愛いらしいし値段も丁度ええ。届くんは三日後かー。三日後も生きてるかわからんけど。)


赤崎藜は読み込みが遅いスマホ画面に表示された通販サイトから視線を上に移す。鳴り響くサイレント。避難する人々の合間に立ち。破壊の限りを尽くす怪獣が作り出す巨影の下、獰猛に。己を奮い起たせるように笑う。


『─── 実家も故郷の村も。今はもうないんですけどね。···父さんも母さんも。この制服を着るはずだったおねえちゃんも。もう、居ない。 』


(俺はきっと正義の味方やない。ただの憎しみに凝り固まった復讐者や。そやけどお前らに人生を狂わされたヤツの為ならなんぼでも命を賭けたる!)


命短し恋せよ、ヒーロー!!(レッドの場合)

【···俺に次があるなら。あの子の名前を聞いてみよっか。なんて、死ねん理由を一個作ってもうたなァ。】 

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