第五話 王都に揺らめく影
王都 《サルトルーク》。
三つの街道が交差する交易の中心にして、千年もの歴史を誇る王国の心臓部。
その中心で圧倒的な存在感を示すように聳え立つのは、王城 《グラン=マギステリア》。
白銀の尖塔と深紅の城壁が天を裂くように立ち、昼夜を問わず王国の威光を放ち続ける。
そしてその城の最上階には――玉座の間と呼ばれる、この国の王がいる間が存在する。
高くそびえる天井には、王家の紋章が刻まれた巨大なステンドグラスが嵌め込まれており、そこから陽光が差し込むたび、床に七色の光が広がり、まるで神々の祝福を受けているかのような神秘的な空間を演出している。
壁には歴代の王の肖像画が並び、その視線は訪れる者を静かに見下ろし、床は磨き上げられた黒曜石で敷き詰められ、歩くたびに靴音が重く響く。
その音は、まるでこの場に立つ者の覚悟を試すかのようだった。
さらに最奥に鎮座している、黄金と蒼鋼で造られたその玉座はただの座具ではなく。
王国の象徴であり、威厳そのものであるかのようにそこに在る。
そして、その玉座の両脇には儀礼用の剣を携えた近衛騎士が無言で立ち尽くしている。
彼らは普段動くことはない。
だが、その視線は常に鋭く、玉座を守る意志が全身から滲み出ていた。
この空間に足を踏み入れる者は、誰であれ―― 言葉を選び、姿勢を正し、心を整えなければならない。
それほどまでに王の存在が放つ圧力は強く。
即ち国の圧力であり、まるで王国そのものの歴史が積み重なった重厚さを醸し出している。
そして今―― その空気を切り裂くように、斥候の報告が始まろうとしていた―――。
「……陛下。報告がございます」
膝をついた斥候が、深く頭を垂れながら声を発する。
その背には長距離移動の痕跡が色濃く残っていた。
僅かに泥にまみれたマントを従者に渡しつつも、荒れた呼吸。
一国の王の前でさえ取り繕うことのできない状況が、この報告の緊急性を物語っていた。
「……よい。申せ」
王の声は低く、威厳に満ちていた。
その瞳は既にこれがただの報告ではないことを見抜いているのだろう。
「……《グレイヴミルの森》にて、先刻、謎の城が突如として出現したとの報告がございました」
斥候の報告に、王の視線が僅かに揺らいだ。
《グレイヴミルの森》――王国の北端に広がる、霧と魔獣に包まれた未開の森。
ただでさえ強力な魔獣が住まうと言われているその森に、城が現れたというのだ。
「……城、だと?」
王が眉をひそめる中、斥候はうなずき、続けた。
「はい……。これは我が王国の地図には存在しない構造物であり、出現の痕跡も確認されておりません。……しかし、位置的には間違いなく我が領地内でございます……一体どういう魔法なのか……」
「……うむ……城……か。放っておくには惜しいな……」
そして王は静かに腕を上げ、冷徹な瞳で斥候を射抜く。
「現在動員可能な《王都守護隊》をすべてそこに向かわせよ!」
その一言は重く、絶対的な命令として響き渡った。
しかし―――。
「っ、全部、ですか……!?」
思わぬ進言に斥候は思わず顔を上げ、声を震わせる。
だがその瞬間、王の瞳がわずかに細められたのを見て、斥候は息が詰まった。
王たる存在に言葉を返したこと。
それ即ち王に対する口答え――許されざる愚行であると斥候は遅れて悟り、慌てて口を閉じるも……しかしそれすらも遅く。
「……ふん……王たる余に質問で返すか……もうよい―――やれ」
王の言葉に、玉座の脇に控えていた近衛騎士の一人が動いた。
鎧の金属音がわずかに鳴り、彼の足取りは迷いなく斥候へと向かう。
「はっ、いやっ、ちがっ!?」
斥候は慌てて後ずさる。だが、騎士の歩みは止まらない。
――刹那。
躊躇など介在しない鋭い刃が空気を裂き、乾いた金属音が玉座の間に響いた。
僅かな抵抗をした斥候の短剣は弾かれ、次の瞬間、彼の身体は力なく床へと崩れ落ちる。
倒れた体から止めどなく赤い血が流れて大理石の床を染め、冷たい輝きの上に広がっていく。
玉座の間は再び沈黙に包まれ、ただ、近衛騎士の剣から血の滴る音だけが響いた。
それを見届けた王は眉一つ動かさずに立ち上がる。
そして、玉座の背後にある檻へと視線を向けた。
「……食わせろ」
その言葉にもう一人の近衛騎士がうなずき、檻の扉を開ける。
―――その時、玉座の間の空気がより一層重くなる。
この先に何がいるかを知っている近衛騎士でさえ、ここにいるモノの存在に体を震わせる。
……やがてゆっくりと暗い檻の中から現れたのは、黒い体毛に三つの眼を持つ獣だった。
その口は裂け、牙は濡れている異形の怪物は血の匂いに反応し、刹那の瞬間、斥候の死体へと這い寄る。
そして―――。
「……食え」
王の指示の元、肉を裂き、骨を砕き、静かに“食事”を始めた。
王はその様子を見届けると、今度は近衛騎士へと命じる。
「……動員可能な《王都守護隊》をすべて向かわせよ。……喰われる側ではなく、喰う側としてな」
騎士は無言でうなずき、玉座の間を後にする。
そして、王は静かに玉座へと戻った。
その瞳には、何の感情もない。
ただ――この世界の理を、己の手で塗り替える者の光だけが静かに灯っていた。
「ふん……どこの誰だか知らないが……余の領地で好き勝手したことを……後悔するがよい……」
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