第九話 再燃する根源
灼熱の鎖の音が仄暗い岩壁に反響し、複数の足音と僅かな息遣いが満ちる熱気溢れた洞穴の中。
――俺たちが今しがた歩いているここは、灼炎種が根源の一つ。
《カディオール火山》の内部だ。
……なんて、現実世界基準で考えれば火山の内部ってなんだよ! と思ってしまうかもしれないが……そもそも俺たちがゲームそのままの姿で異世界に転移している時点でこの程度の些細な問題にツッコむのは野暮ってもんだろう?
しかしまぁ実際に"火山の内部"を歩いてみた感覚としては、普通の洞窟と大差ないといったところだろうか。
ゴツゴツとした岩肌の合間には穿たれたような横穴がいくつも口を開けていて、奥には途方もない暗闇が広がっている。
そんな、一見して何事もない―――いやまぁ、大量の灼炎種に囲われながら歩いている時点で何事もなくはないのだが―――空間で、しかし俺は一つの違和感を覚えていた。
「なんか、ぱっと見は普通の洞窟なのに―――」
……が。
「―――コラッ、喋ルナッ!!!!」
「え、えぇ~……?」
俺が疑問を口にしようとしたと同時、俺の鎖を持って先導する灼炎種の一体が振り向き様に強く制止する。
いやはや……先の燃え滾る鎖に加えて、まさかの発言権すら奪われている事実に、灼炎種、厳しすぎない……? と思わず苦笑いを浮かべてしまうが、しかし俺の意図を汲んでくれた岩の巨人の猫バイトさんが俺の哀れな姿を見て可哀そうなものを見るような目で見ながら言葉を繋いでくれた。
「あはは……でも確かに。なんか話に聞いてたよりも全然普通の火山だよね~? 確か死んだ火山って言ってなかったっけ~?」
「……あぁ。俺達には直接感じることはできないが、この場に滞留する熱量も普通とは言い難い」
猫バイトさんの気まずそうな言葉に、やや前方を歩くサクラノヴァさんもまたその言葉に同意を示すように言葉を零した。
申し訳ありません。ご提示いただいたプロットの熱量と、キャラクター同士の絶妙な距離感をもっと丁寧に描写すべきでした。
「王の帰還」というシリアスな重厚感と、主人公の軽快な語り口、そして仲間たちの個性が際立つよう、情景描写を大幅に強化して書き直します。
灼熱の鎖が擦れ、鈍い金属音が仄暗い岩壁に反響する。
一歩踏み出すごとに鼻腔を突くのは、乾燥した硫黄の匂いと、肌を焼くような濃密な熱気。
――俺たちが今しがた歩いているここは、灼炎種が根源の一つ。《カディオール火山》の内部だ。
……なんて、現実世界基準で考えれば「火山の内部を歩く」なんて正気の沙汰じゃない。だが、そもそも俺たちがゲームそのままの姿で異世界に放り出されている時点で、今さら物理法則にツッコミを入れるのは野暮ってもんだろう。
視界に広がるのは、気の遠くなるような年月をかけて削り出されたであろう無骨な岩肌だ。その合間には、まるで巨大な怪物が口を開けているかのような横穴がいくつも点在し、その奥底からは逃げ場のない純然たる暗闇がこちらを覗いている。
「なんか、ぱっと見は普通の洞窟なのに――」
ふと、歩きながら抱いた些細な疑問を口にしようとした、その時だった。
「―――コラッ、喋ルナッ!!!!」
「え、えぇ~……?」
俺を繋ぐ鎖の端を握る炎蜥蜴が、烈火のごとき勢いで振り返り、俺の言葉を叩き潰した。
いやはや……燃え滾る鎖で縛り上げるだけじゃ飽き足らず、まさかの発言権すら剥奪。灼炎種、厳しすぎやしませんかね……?
俺が思わず苦笑いを浮かべて肩をすくめると、隣を歩く岩の巨人――猫バイトさんが、俺の哀れな姿を面白がるような、それでいて少しだけ同情するような目で見やりながら言葉を繋いでくれた。
「あはは……でも確かにぃ~。なんか話に聞いてたよりも、全然フツーの火山だよねぇ~? 確か、噴火が止まった死んだ山だって言ってなかったっけ~?」
「……あぁ。我らには直接的な熱の害はないが、この場に滞留する魔力の指向性は、休止状態のそれとは言い難いな」
猫バイトさんの緊張感のない煽り気味の声に、前方を行くサクラノヴァさんが応じる。発声器官のない彼の声は、涼やかな知性を伴って俺たちの脳内に直接響き渡る。
そう、それこそが俺の抱いた違和感の正体だ。
以前サラマンダーから聞いた話では、この《カディオール火山》は活動を休止した、死んだ山であるはずだった。
実際、外側の斜面を登っていた時は、冷え切って乾いた溶岩の残骸が転がるだけの、生命の鼓動を感じさせない場所だったのはこの目でも見ているし、確かではあったのだろう。
だが、今はどうだ。
俺は歩きながら、すぐ脇を流れる岩壁へと、好奇心のままに指先を這わせ――。
「オイ! 何シテル!? 動クナ!!!」
「あっ、これもダメなのね?」
―――今度は後ろに控える炎蜥蜴戦士からの鋭い叱責に、俺は肩をすくめて手を引っ込めた。
ハイハイ動きませんよと……。
しかしまぁ、好奇心ゆえに触れようとしただけで、触れずともその原因はなんとなく理解できる。
指先をかすめた空気は赤白い熱を孕んで爆ぜるように震え、黒ずんでいたはずの岩肌は内側からじわりと赤黒い輝きを宿していく。
その変化の源泉――いや、熱源と言うべき存在は最早一人しかいないのだから。
「……ム? どうしたマスター? 俺の背中に虫でも止まってたか?」
そんな俺の視線に気が付いた、最前列を歩くゴラクZさんがこちらに振り向いた。
(いやいや……ゴラクZさんの背中に止まれる虫なんていルワケないデショ……消し炭も残らないよ……?)
と内心で思いつつも、言葉を発することを禁じられている俺が仕方なく苦笑いで返すと、彼もまた俺の境遇に苦笑いを返しながら再び歩みを進めた。
そして、再度ゴラクZさんが一歩地面を踏みしめるたび、岩底からせり上がる熱気がその足に絡みつき、まるで消えかけていた焚き火にガソリンを注いだかのように火山の脈動が強まっていくのが分かる。
かつてのゲーム内でも、種族王が根源に影響を与えることはあったし、別に珍しいものではない。
ただ、ここが異世界だと仮定した中で、その世界での根源でも影響を与えられるということは即ち―――。
(……この世界そのものは、俺たちを異分子だと認識してない、ってことだよなぁ……)
俺は、そんな目の前の彼を見据えながら、ただ、後をゆっくりとついてくのだった―――。
◇◆◇
それからしばらく俺たちはただ黙々と、熱を孕んだ洞窟の奥へと歩みを進めていた。
次第に道幅は広がり、左右の壁は滑らかな曲線を帯びていき、まるで巨大な生物の体内――食道か何かを通り抜けているような錯覚を覚える頃。
入口からどれほど深く潜っただろうか。
当初はゴツゴツとしていた岩肌も、今では溶岩の熱に磨かれ、黒曜石のような光沢を放っている。
見上げれば天井は思ったより高く、ところどころに鍾乳石のような岩柱が垂れ下がっている。
そして、その光景を同じく見上げていたゴラクZさんが、ふと言葉を零した。
「……一つ聞きたいのだが……どうして住処をこんなにも奥深くに作ったのだ? これでは出入りにも時間がかかるだろう?」
ゴラクZさんの低く、だが芯の通った声が、熱気の籠もる空気を震わせる。
そして、その問いを投げかけられた案内役として先頭を歩く一体の炎蜥蜴戦士は、その言葉を聞くや否や立ち止まり、彼に深々と頭を下げた。
「……それは―――」
戦士が少しだけ言い難そうに言葉を濁し、わずかに俺へと視線を向ける。
その眼光に宿る複雑な感情は、それだけで誰の目にも明らかだった。
「――やはり、これも竜種の影響なのか?」
ゴラクZさんが再び問いかけると、戦士は苦渋に満ちた表情で頷いた。
「えぇ、仰る通りです……。本来、私共の集落は火山の頂上付近に位置していました。ですが……かの忌まわしき竜たちが我らを襲い、集落を潰し……。仕方なく、こうして竜の手の届かぬ火山の奥深くへと拠点を移したのです」
炎蜥蜴戦士は淡々と語りながらも、その声には確かな怒りと、屈辱を噛みしめるような悔しさが滲んでいた。
そしてその言葉の最後に、槍の穂先を向けるかのような鋭さで、俺を横目で鋭く睨みつける。
……いや、まぁ俺としても気持ちはわかる。
故郷を奪った種族の長がそこにいたら恨む気持ちも当然だろうけども……。
「……でも俺は関係な―――」
そう俺が反射的に弁明しようと言葉を紡ぎかけた、その瞬間だった。
「「「―――喋ルナッ!!!」」」
洞窟全体が揺れるほどの罵声が叩きつけられた。
「忌むべき竜の声など聞きたくもありません!」
「皆の者! 耳を塞げ! 彼の甘言に惑わされるな!」
「殺せ! 今すぐ殺せ!! ぶっ殺せ!!!」
後ろに控えていた炎蜥蜴戦士でさえ、親の仇でも見るかのような形相で俺の鎖をこれでもかと締め上げる。
案内役は慌てて耳を塞ぎ、まるで不浄の汚染から主を守るかのようにゴラクZさんを庇う位置へと滑り込んだ。
さらには周囲の戦士たちが一斉に抜剣し、あらゆる武器の先端が一点――俺の首元へと集中する。
……のはいいんだけども……。
いや、あの……過剰防衛すぎませんか……?
っていうか一人だけ殺意が極まってる奴いない!? 大丈夫かな!?
そんな俺の内心の叫びをよそに、猫耳の岩の巨人こと猫バイトさんは、面白がってその巨躯を揺らしながらニヤニヤと笑っている。
とはいえ何度も行われる理不尽さに流石に見かねたのか、軽薄な口調で助け舟を出してくれた。
「でもさ~、外敵っていっても竜だけじゃないんじゃなかった~? サラマンダーの話じゃ、他の種族とかも来たりしたって聞いたけど~?」
あぁ、確かに。
猫バイトさんの言う通り、竜種に対する敵対心だけが異様に突出している気がする。
サラマンダーの話では他種族の影もチラついていたはずなのに……一体なぜだ?
岩の巨人の言葉に、殺気立った炎蜥蜴戦士たちはしばらく沈黙を守っていたが、やがて忌々しげに、ぽつりと答えた。
「……確かに、他種族も来たことには来たのですが……。他は全て、我らが"主"と竜種の戦いに巻き込まれまいと、すぐさま撤退を……」
そう、案内役の戦士が何気なく、さも当然の事実としてそう口にした瞬間だった。
「「「―――っ今、なんて!?」」」
俺とゴラクZさん、そして猫バイトさんの三人の声が見事に重なり、反響となって洞窟の奥へと吸い込まれていった。
驚愕のあまり、俺を縛っていた鎖がジャラリと激しく音を立て、鎖を持つ戦士に叱責されるがそんなことは二の次だ。
「……おい、まさか―――」
普段は氷のように冷静なサクラノヴァさんでさえ、その言葉の意味を看過できなかった。
その眼窩の奥に蒼い燐光を宿し、有無を言わせぬ圧力を伴った冷たい声を、案内役の脳内へと直接叩き込む。
……だが、不運なことに案内役の戦士は、最強種の一角であるサクラノヴァさんの、手加減抜きの魔力圧に完全に呑まれてしまった。
「―――っと、もっ、もも申し訳ありません! こっ、ここここを下れば集落に着きますのでっ、く、詳しい話は後ほど……! わ、私めは外の警備がありますので……どどどどうぞ、お気をつけてぇぇ~!!」
「あ、おい――!」
止める間もなかった。
案内役の戦士は、まるで背後に深淵でも見たかのような形相で踵を返すと、転げるような勢いで来た道を戻り、文字通り逃げ去ってしまった。
あまりの豹変ぶりに呆気に取られたのは俺たちだけではない。
周囲を囲んでいた戦士たちも、顔を見合わせるや否や「ヒッ……!?」「撤収だ!」「不浄の風が吹いたぞ!」などと口々に叫び、クモの子を散らすように四散していく。
気が付けばいつの間にか、俺の鎖を親の仇同然に握っていた戦士でさえも、鎖の端を岩の突起に無理やり引っ掛けながらも足早に立ち去っていった。
そうして後に残されたのは、不気味なほどの静寂と、熱を孕んだ風の音。
そして俺たち四人だけだった。
「……サクさん……。聞きたい気持ちはわかるけどさ~? 流石に脅かすのは酷いわ~」
「ウム……。彼らには何の罪もないというのに……。些かやり過ぎだぞ、サクラノヴァ」
ようやく自由な発言権を手に入れた俺の言葉に、ゴラクZさんも同意するように頷き、燃え盛る鬣を揺らしながら困ったように溜息をついた。
って、何の罪もない……? いや、それは違――。
「あ~あ。ただでさえサクさんの顔は怖いのにさ~? あんな冷たい声を聞かされたら、そりゃチビって逃げ出しちゃうよ~?」
「……。―――チッ……あの程度で怯む奴が弱いだけだ……」
さらに猫バイトさんの遠慮のない煽りをまともに食らったサクラノヴァさんは、居心地が悪そうに顔を逸らし、脳内に苦い響きの声を残した。
表情筋のない骸骨の顔からは読み取れないが、あれは彼なりのやってしまったという反省のサインだ。
「……ま、予想はしてたことだし、そう焦らずにとりあえず先に行こうか。彼らの言う『主』ってのが俺たちの想定通りの存在なら……のんびりしてる暇はなさそうだしな」
俺の言葉に、仲間たちがそれぞれの意思を宿した瞳で頷く。
そうして俺たちは、戦士たちが逃げ去った先とは反対側――カディオール火山の最深部へと続く階段を、ゆっくりと降り始めた―――。
―――そして、開けた空間に一足先に降り立ったゴラクZさんの熱気が空間を震わせたその瞬間だった。
ドーム状に開けた集落を満たしていた喧騒が、まるで水を打ったように静まり返り、一人、また一人と、広場の様々な灼炎種たちが動きを止め、その視線が一斉に一点へと吸い寄せられていく。
誰かが呟いたわけではない。
だが、その場にいた数百、数千の同胞たちが、魂の根源に直接響く圧倒的な熱量を――真なる王の気配を、本能で察知したのだろう。
「王……?」
最前列にいた一人の戦士が、震えるような声で呟いた。
「王だ……あの燃え盛る鬣、あの威圧感……間違いねえ……!」
「王が……我らが真なる王が、帰還されたぞッ!!!」
「オォーーーーーーーッ!!!!」
その光景はさながら……。
「なんか、さっきも見た光景だな……?」
まるでデジャヴのような光景に、俺たちは全員、顔を見合わせて苦笑いを浮かべるのだった……。
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