第八話 裏切りの代償
かくして……ゴラクZさんのあまりにも稚拙な大根役者ともいえる演技ではあったものの、結果から言えば、広場を埋め尽くす灼炎種たちの疑念は完全に消え失せていった。
王の初めての英断、あるいは冷徹なまでの合理的判断だとかなんとか、彼らは勝手な解釈を付け加えながら熱気と歓声を振り撒いて騒いでいるが……当の俺たちからすれば、これは身内だけで作り出した自作自演なワケで……。
「なんか……詐欺に加担してる人ってこんな気持ちなのかな~……?」
俺の隣で創造種にして岩の巨人――猫バイトさんが、硬い岩頭をゴリゴリと掻きながら独り言を漏らした。
……そして、当事者でもある俺も、そう言いたくなる気持ちは理解できる。
無論、俺たちのは犯罪ではないし、目的も妥当ではあるけれど、それでも彼らの純粋な信頼や善意を利用して強制的に行動を制限させるというのは些か気持ちがいいものではないことは確かだからね……。
「……情報を得るための必要悪と割り切ろう……ウン……」
――と、そんな俺たちのやり取りを遮るように、一匹の火炎蜥蜴人の戦士が重々しい金属音を響かせながら歩み寄ってきた。
「オイ、手、上ゲロ」
「……?」
こいつは単純に人語に慣れていない個体なのだろうか。
先の個体があえてやっていた、片言のような口調で俺に話しかけてきた一体の炎蜥蜴戦士は、そう言いながらぎこちないジェスチャーで俺に手を掲げるよう促してくる……んだけれども……。
「あの……もしかしてその鎖で腕を縛ろうとしてます?」
俺は、彼の手に握られた不気味な物体を二度見して指を指す。
それはドス黒く、それでいて中心部が赤く発光しているかのような、禍々しい色の鎖。
周囲の空気がその熱に焼かれて歪んでいるのはまだいいとして、彼がその鎖を揺らすたびに、擦れ合いながら火花を飛ばしているのはなんですか??
百年前の遺録で見た千度の鉄球ならぬ千度の鎖ですか???
「イイカラ、早クシロ」
早くしろ、と言われても……。
それ、見た目からして熱そうなんですケド……?
いや、そりゃあ、竜種の俺には全状態異常耐性があるからこれぐらいの熱なんてこれっぽっちも感じないよ?
でも、もし俺がただの人間種としてここに立っていたなら、触れた瞬間に腕がお亡くなりなんですけど、それは本当に正しい拘束具と言えるのかい???
拷問器具の間違いじゃなくて???
大体、俺って一応献上品なんだよね??
もっと大切にしたほうがいいんじゃな―――――。
――――というツッコミを心の中で連発している間に、しかし炎蜥蜴戦士は一切の躊躇なく、その赤黒い鎖を俺の腕へと巻き付けた。
……しかしまぁ見立て通りというか、それはそうというか……。
触れた瞬間に、ジュゥ~ッという不穏な音が上がり、俺が着ていた服の袖に鎖が触れた瞬間、焼き焦げた。
「……」
俺は思わず鎖を付けた彼へ引き攣った視線を向ける。
ただ、当の本人は自分の仕事ぶりに納得したのか、見るからに満足げに頷き、尻尾の炎を揺らしながら俺の背後へと立ち位置を変えた。
……いやぁ、怖ぇ種族だこと。
なんていうか、悪意があるわけじゃないのが余計に怖いというか……。
あくまで自分たちの常識の範囲内で考えているんだろうけれど、だからこそ。
(やっぱ、多種族の共存なんて普通は無理な話なんだよな~……)
俺は、もう届くことのない思いを抱えながら洞窟の反対にある綺麗な地平線を見て目を閉じた。
――――こうして、灼熱を放つ鎖に縛られた俺を中心に、奇妙な列が組まれ、俺たちはついにこの灼熱の迷宮――火山の奥深くへと、ゆっくりと歩みを進め始めたのだった――――。
―――。
―――。
「―――あ、あの……さ、さっきのは私も演技ですからねっ!?」
―――と、歩き始めて数分も経たず、少しだけ場の空気が落ち着いた直後にふと足元に小さな声が響いた。
あまりにも聞き慣れたその声の方を渋々見やると、周囲の護衛たちの目を盗むように、いつの間にか俺の足元まで這い寄っていた大蜥蜴のサラマンダーが見るに堪えないほどに焦った顔で俺を見上げていた。
必死に尻尾をバタバタと左右に振り乱し、全身の赤黒い鱗を細かく震わせながら必死に弁明を並べ立てているが……その姿は、先ほどまでの失態をなかったことにしようとすべく縋ってくる子犬のようで。
……とはいえ子犬よりも圧倒的に愛着の湧かないこの存在に対し、俺は灼熱の鎖に両腕を拘束された不自由な姿勢のまま――――。
―――満面の笑みを浮かべた。
その笑みに、サラマンダーはというと……。
「……ピィ!?」
「サラマンダー様!?」
「大変だ! 竜にサラマンダー様が気絶させられた!」
「くっ、恐ろしい竜め! 睨みだけでサラマンダー様を……!」
まるで心臓を掴まれたかのように固まりながら後ろに倒れた哀れな姿を俺は視界の端に追いやり、勝手に歩みを再開した。
カチリ、カチリと鳴る鎖の音。
肌を刺す熱気は、迷宮の奥へ進むほどにその密度を増していく。
俺たちは、そんなアホらしい騒ぎを背に受けながら、灼炎種たちが住まう巨大な横穴へと、”今度こそ”深く、その足を踏み入れて行くのだった―――――――――――。
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