第六話 熱を放てば灼炎種が二体……もうひとつ放てば……
―――灼炎種にとって“熱”は血筋そのものを表すと言われている。
体に纏う熱量が高ければ高いほどその血筋は尊く、強者の証となるため、ゲーム内でも位階が上がるほどに、出せる火力は比例して高くなっていた。
そして、フレリーは初め、この周囲に満ちた圧倒的な熱量はサラマンダーから出ていると勘違いをしていた。
しかし、それもそのはず。
普段はお調子者で噛ませ犬のような雰囲気すら漂わせているサラマンダーだが、それは彼が圧倒的な力を持つ“種族王”と行動を共にしているせいであり、本来の彼は灼炎種の中でも高位に位置する存在―――“炎の精霊”と称されるほどで、並大抵のプレイヤーならば返り討ちに遭うことも少なくない。
故に、その身に宿す熱量は、最下級の灼炎種である炎蜥蜴戦士からすれば到底測りきれないほど強大であるのだから。
しかし今、熱を放つ真の存在を直視したことで感じたのは、畏怖を超えた敬愛だった。
これはまさに、かつて感じた王の血を持つ者だけが纏う特別な熱量。
フレリーはその絶対に間違えようのない熱を、 目の前のゴラクZから確かに感じ取っていた。
そしてその動揺を見て、サラマンダーは満面の笑みで胸を張った。
「ふふふ……ようやく気が付きましたか! その反応、待っておりましたとも!!」
尻尾を誇らしげに掲げ、サラマンダーは声を張り上げる。
「そうです! この方こそ――我ら灼炎種が敬愛する新たな灼炎種の王!! ゴラクZ様でございます!!!」
「お、お……お……お……王……さ……、お、おおお、おおおおおおおお!!!?」
フレリーは狂乱のごとく叫びながら尻尾を振り回し、まるで火山が噴き上がるかのように荒れ狂った。
その姿にゴラクZさんは頬を掻きながら静かに頷き、獅子の如き首冠から火の粉を散らす。
「ウム、事情は分からんが……よろしく頼む」
その一言が落ちた瞬間――。
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!? お、王が……!? 王が来ましたぞぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」
フレリーの絶叫は火山の岩壁に反響し、まるで噴火の前触れのように轟いた。
すると―――なんと、その声に呼応するように、岩陰や裂け目、溶岩の冷え固まった影からは次々と灼炎種たちが姿を現し始めた。
「お……王……!? 本当に……王が……いや、この熱はまさに!」
「あぁ、間違いない……! この熱……この圧……かつて感じた王の熱……!」
「信じられん……! だが、疑う余地もない……!」
「王が……王が帰還なされたぁぁぁ!!」
そう叫びながら現れた彼らは皆、戦士の姿をしていた。
赤黒い鱗を震わせて尻尾の炎を揺らし、それぞれが槍や剣を構えていたはずなのに、ゴラクZさんの姿を認識した瞬間―――歓喜に震えたその手から武器を次々に取り落とす。
ガランッ! ガシャッ! カランカランッ! という、火山の斜面に武器が転がり落ちる音が連続して響く。
しかしそんなことなど気にも留めずに灼炎種たちは膝から崩れ落ち、まるで神を前にした信徒のように震えながら頭を垂れた。
「お、おお……王よ……!」
「まさか……再びお姿を拝める日が来ようとは……!」
「熱が……熱が満ちていく……! ここが……! 王がいる場所こそ我らが火山……!」
中には感極まって尻尾の炎が暴走し、背中から火花を散らしている者までいる。
気づけば、先までの火山の静けさは完全に消え失せ、灼炎種たちの歓喜と混乱の声が、まるで火山そのものを揺らすかのように響き渡っていた。
「うわわっ、こんなにいたの~!? ていうか、みんな出てくるの早っ!」
その光景に猫バイトさんが岩の隙間から覗く光をパチパチと瞬かせて叫び、一方、サクラノヴァさんは呆れたように、しかしどこか感心したように呟いた。
「……ふん、騒がしい種族だ。……だが、種族王への忠誠は興味深い……これほどまで王の影響があるとは……」
そしてそんな光景を見届けたサラマンダーは、仲間がこれだけ生き残っていたことに感涙し、目元をぐしぐしと拭いながら満足げに頷いた。
「うぅ……なんと……! こんなにも我らが種族が生き残っているとは……! わたくし嬉しい限りで……っ! それならば、こちらも驚くことでしょうとも!」
そうしてサラマンダーは再び尻尾をピンと立てながら、今度は俺を示し―――。
「――なんと、こちらは竜の支配者であるマスター様です!」
「あ! おい、そんな……!」
――と、俺が止める間もなく、サラマンダーは誇らしげにそう紹介した。
かつてサクラノヴァさんに“竜種であることは軽々しく口にするな”と釘を刺されたばかりなのに、しかしそんなことは知らないが故に口にしたサラマンダーに対して俺は思わず顔に手を当てた。
……けれど。
灼炎種の王の紹介であれだけの歓声が上がったんだから、もしかしたら、竜種の俺にも何かしらの反応があるんじゃないのか!?
……そんな淡い期待を抱くのは悪いことだったのだろうか……?
サラマンダーが俺の正体を告げたその瞬間――――。
「………………え?」
灼炎種たちの視線が、一斉に俺へと向いた。
そしてそれは―――――――明確な"敵意"だった。
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