第三話 双璧を成す存在
「ふふふ! 皆さんどうかご照覧下さいませ!! こここそがわたくしの故郷、カディオール火山でございます! いやはやここはですね、かつては炎が絶えず噴き上がり、灼炎種の力を象徴する聖域として有名でしてね! 灼熱纏う大地は他種族を寄せ付けぬ自然の要塞となり、そこを悠然と闊歩するわたくしのような選ばれし強者だけがこの噴煙を肺に満たすことを許されたものでございます! あっ、ほらあそこを見てください! あの岩肌! いや~、あの鋭角な反り具合こそが、わたくしが幼少期に爪を研ぎ、己の牙を試し、時には恋に破れて夕日に向かって咆哮した思い出の場所で……! くぅ~っ、懐かしさが身に沁みますなぁ! あっ、ちなみにあちらの三番目の亀裂は、わたくしが空腹のあまり幻覚として見た虫を噛み砕こうとして岩を齧ってしまったものでしてね? お恥ずかしながら見事に前歯を欠けさせたという伝説の地でもありまして……! ―――おっと、そんなわたくしの武勇伝を聞きたいという皆さんの心の声が、この地熱に乗ってビシバシと伝わってまいりますぞ! ふっふっふ、良いでしょう、貴方様方ならば特別に無料でお教えいたしましょう! この火山の地脈がどのようにわたくしの美しき鱗を育んだか、そしてわたくしがこの種族の中で『燃える彗星の貴公子』と呼ばれ、同時に『稀炎の大精霊』とまで敬意を込めて称されるに至ったか! その波乱万丈なる歴史を、第一章・誕生編から順を追って説明―――――」
―――……などと。
山を登り始める前から今の今まで延々と話しているのは、赤い鱗を陽光に煌めかせ、妙に誇らしげに尻尾を振り、隆起した火山の斜面を慣れた動きで一歩ずつ登っている火山の案内人……もとい案内蜥蜴―――サラマンダーだ。
「―――時は遡ること二千年前! このカディオール火山が、今よりも万倍は激しく怒り狂っていたある夜のことです! 忘れもしない、山頂から溢れ出した濁流のような溶岩が―――」
まぁ、サクさんとの間でなんやかんやあったものの、この鬱陶しさよりもゲーマーらしく最高効率を取った俺たちはこのサラマンダーの案内に従って、かつての灼炎種の居住区があったという場所へと足を進めることにした。
「―――天を裂く轟音に地を割る震動! 渦巻く火柱の中から産声を上げたのは並の蜥蜴戦士ではございません! 真っ赤に焼けた岩を産湯代わりに浴びていたのは何を隠そう―――!」
火山の地面は先ほどの麓とは打って変わり、鋭利に砕けた黒い岩が足元にごろごろと転がり、一歩踏みしめるたびに乾いた不吉な音を響かせていた。
……ただ、やはりというか、俺たちがここに来た時に感じていた感覚は、この山を登れば登るほどに確かなものとなっていた。
それは、サラマンダーも言っていたような―――火山の停止。
周囲に漂う空気は熱いし、その熱によって景色を揺らめかせてはいるけれど、どこか囲炉裏の残り火のような寂寥感に近い何かを肌で強く感じる。
……それに―――。
「―――そう! その者こそが、このわたく―――」
「なぁ! お前の話じゃ、ここにはまだ一応、他の灼炎種はいるんだよな? でも……登り始めてから一匹もいないのはおかしくないか?」
「―――しぇっ!? ……あ、あの……僭越ながら今のがわたくしの人生の頂点……いわば全灼炎種が涙する感動のクライマックスだったのですが…!?」
俺の疑問によって、一世一代の独演会を無惨にぶった切られたサラマンダーが漫画のようにひっくり返りそうな勢いで言葉を詰まらせ、真っ赤な尻尾をビクンと跳ねさせながらこちらを振り返る。
……が。
「あぁ……まぁそれはいいとしてさ お前の話だとまだここに仲間は居たはずだよな?」
当然気にするようなことでもないから、そう軽く口にしながら俺は足元の岩を軽く蹴飛ばした。
カラン、と虚ろな音を立てて転がっていく石は、そのまま火山の斜面に沿って遥か下方へと落ちていく。
――既に俺たちがこの山を登り始めてから数十分が経つ。
落とした石の音が聞こえないほどには標高はかなり稼いだはずだが……しかし未だに原生生物の羽音一つ、地を這う虫の影一つ見ていない。
いくら火山の噴火が止まったとはいえ、灼炎種の聖域を自称するにしてはあまりに死に体が過ぎる。
そんな俺の問いかけに、それまでお調子者の仮面を被っていたサラマンダーの双眸が、ふと戸惑いに揺れた。
「そ、それがですねぇ……こればかりはわたくしにもさっぱりでして……。わ、わたくしがいたときはまだ多くがこの地に残っていたのですが……居なくなったのでしょうか……?」
自信満々だったその声が一転して湿り気を帯び、彼は落ち着かない様子で周囲を見渡しながら自身の長い面を撫で回す。
その様子を見て俺は後方を歩く……というか浮いているサクさんに目配せすると、彼もまたこちらの意図に気づいて言葉を発した。
「……ふん、そもそも灼炎種の"根源"である火山が停止するなど、本来あり得んことのはず……貴様、まさか嘘は吐いていないだろうな……?」
「ひ、ひぃっ!? け、決して嘘なんて吐いておりませんとも!! 私が吐けるのは炎だけですからぁ!!!」
彼の発する冷たい問いにサラマンダーは全身をビクッと震わせ、尻尾を丸めながら慌てて両手を振った。
必死の弁明……にしては、どさくさに紛れて上手いこと言った気がしなくもないけども。
ただ、そんな奴の裏返った情けない声に、サクさんは今度は俺に視線を向けながら骨の指先で自身の顎をトントンと叩きながら不承不承といった様子で鼻を鳴らした。
……しっかしまぁ、これが嘘じゃないってなると、正直少し面倒なことが起きたことが推測できる。
それは、サクさんの投げかけた疑念と、サラマンダーの答えが示した、ある事実。
と、いうのも―――。
まず、サクラノヴァさんが今しがた言葉にした"根源"というのは、俺たちがやっていたゲーム【ユグ:ドライアス】にもあった、『各種族の領域』のこと。
……いや、正確に言えば、『各種族の魂としての核がある領域』のことだ。
そもそも【ユグ:ドライアス】は十種族に分かれた世界で他種族を倒し、世界を統一するという目的を持ったゲームなのだが、その統一条件こそが『領域にあるコアを破壊すること』だった。
例えば、灼炎種なら火山や砂漠要塞、焦熱島という三つの領域。
海獣種なら海中神殿に環礁都市、氷海沈没船の三つの領域など、基本的に各種族に所縁のある地が領域として設定されているが、その中の一か所にだけ、種族全体の魂とも同義である巨大なエネルギー体―――通称『コア』が鎮座している。
一見して、これを壊すだけなら簡単じゃん、と思う人もいるだろうけど、実際のところそう簡単な話ではない……。
これはあくまで自論だけど、多分『コア』っていう名称だから簡単に思えてしまうのであって、じゃあ『超巨大な種族専用最強バフてんこ盛り盛り自動発生地 (制限時間なしだよ)』なんて名前だったのなら、決して気軽に簡単でしょとは言えないと思わないか?
このシステムを考えたのってサクラノヴァさんですか?????
……そんな冗談はさておき。
まぁゲーム的には大切なものをそう簡単に壊されては困るから、という理由で強力な効果にしたのは実際、理解ができる。
そんな簡単に壊せるようなものなら、様々な天下人も驚きの速度で天下統一が成されていることだろうしな。
ただ……先ほども言ったように、この根源ってのは、該当種族に対して最強レベルのバフを制限時間なく付与するという特徴があるんだけども、このバフってのもま~~~~~じでトチ狂ってんだよね。
例えば対象が灼炎種ならばどのレベルだろうが纏う火力は一律で太陽の温度を超え、魔眼種ならば思考の読み取り精度が異次元に達して実質的に対象を操ることも可能になり、守蟲種に至っては物理法則を無視して硬くなって何人もダメージが与えられなくなる。
……いや、これ理解はしてても納得できるわけなくない?????
まぁでも、正直この後に示す事実に比べればこんなものは、どっちの靴から履くべきなのかってぐらいどうだっていい話だ。
【ユグ:ドライアス】のゲームの目的を示す、派手なキャッチコピーにこう書かれているのを覚えているだろうか?
"十の大陸に分かれた種族は、それぞれの思惑を抱え、世界を掌握すべく今―――――戦いの火蓋を切った――――ッ!"
という一文。
これを見れば、じゃあ一度ぐらいは無理ゲーに近い根源破壊を成し遂げたい!と考えるようなゲーム中毒者も当然現れるというのも自然の摂理だろう?
そして【ユグ:ドライアス】のサービス終了より三年ほど前。
そんな馬鹿なことを考える頭のイカレたメンバーが、七人集まった。
狙われたのは、コアによる種族特性のバフが最も攻略し易いことから、ここならコアを破壊出来る可能性があるとされた、樹霊種の根源―――霊峰森。
そして、彼らの準備が整ったある日―――サクラノヴァさんを筆頭にした、種族王七名による『【ユグ:ドライアス】史上最悪の攻城戦』とも呼ばれる大戦争が開戦した。
参加者は、俺とサクさんに猫バイトさんとゴラクZさんの四名に加えて、タツミさん、ダオさん、マックスの七人から成る種族王の大連合。
しかし、それに対するも樹霊種の王であるヨハンナさんと、その親友のシェリーさん、そしてまぁ色々あってあっち側につくことになった休日さんを含めた三人の種族王。
すべての種族王が揃った伝説の一戦。
―――結果から言えば、当然人数が多い俺たちが勝利を収め、樹霊種の領域の一つである《霊峰森》を陥落させることに成功することになるのだが……問題はこの先だった。
俺たちは長年のゲームキャリアにおいて大切なことを忘れていたのだ。
そもそも、これはゲームだということを。
いくらリアリティが高くとも、システムに守られ、システムとともに生きる世界だということを。
考えてもみてほしい。
根源が破壊されるということは、種族が滅びるということ。
であるのなら、今現在その種族で遊んでいるプレイヤーはどうなるのか?
ゲームを開始しているプレイヤーの種族が滅んだとして、「はい、君たちの種族はデータ消去です」なんて言われたら、当たり前にプレイヤーは全員引退するだろう。
……そんなこと、運営が許すと思いますか……?
えぇ、お察しの通りですとも。
俺たちは彼女らとの戦いを制した後、根源の元である『コア』に対して盛大な総攻撃を与えたさ。
竜種、不死種、創造種、灼炎種、海獣種、守蟲種、そして人間種の七名による最高峰の攻撃。
それこそ、単体でさえ並みのレイドボスならば即死級の一撃を、それぞれに、ね。
――――しかし、『コア』にはたった一つの傷も負わせることはできなかった……。
システム的な『種族絶滅防止保護』。
それが、俺たちが結論づけた結末。
……じゃあどうやって世界を掌握するんだという、ゲームシステムそもそもの欠陥に気づいてしまった俺たち種族王は、この大規模な戦争を単純な力試しだったと世間に公表し、真相を闇に葬ることで新規プレイヤーのやる気を削がないようにすることと、継続プレイヤーのやる気を持たせたという経緯がある……というのは懐かしい話で。
っと、話は逸れたものの。
とはいえ、それほどまでに"根源"とは絶対的な存在として扱われているものなわけなんだが……。
―――かつてのゲームで『火山』は灼炎種の根源であった、と言えば今の現状が如何に驚くべきことなのかが理解できるだろうか。
ゲームと違うこの世界にはシステム的保護がないとはいえ、噴火の停止―――ひいては、灼炎種の根源が機能を失っているという事実はそれだけで俺たちにとって衝撃的な事実であり……故に、それらが起こる原因を、俺たちは何となく察してしまう。
そうして、この場におけるサラマンダーを除く誰もがたどり着いた結論を、猫バイトさんが重厚な石同士が擦れ合う鈍い音を鳴らしながら口にした。
「……灼炎種の根源である火山を止めるほどって……それこそ種族王か、それ相応の力……っていうと~……え~っ、いやいや、流石にない……」
そして、そこでようやく事態の"本当の深刻さ"に気が付いた猫バイトさんが俺とサクラノヴァさん、そしてゴラクZさんの表情を順に見比べて―――。
「あ~、マジなんだ~……」
―――岩の巨体をこれ以上ないほど情けなく折って、分かりやすいほどに肩を落とした。
普段なら思わず吹き出してしまうような落胆ぶりだったけれど……正直、今の俺たちに笑う余裕はなかった。
その場に漂う空気は一気に密度を増し、まるで粘り気のある重油を肺に流し込んでいるような錯覚さえ覚える。
猫バイトさんをはじめ、俺たちがこれほどまでに緊迫した空気を纏っているのは、ある"存在"の可能性が示されてしまったからだ。
―――――各種族の頂点に立つ王である種族王とは、紛うことなき最強のプレイヤーたちだ。
血の滲むようなレベル上げや、コンマ数秒を競う対人戦を勝ち抜いた実力者、果てはあらゆる努力を無に帰すほどの圧倒的な才能を持つ者が手にすることができる、栄えある称号。
まさに、種族最強のゲームプレイヤーであり、根源のコアを破壊するための十全な力も持っている。
ただ……根源を破壊出来うるほどの力を秘めた存在は、何も種族王だけに限らない。
実は俺たちはあくまで種族最強の"ゲームプレイヤー"であって、種族最強ではない。
先にも言ったけれど、これはあくまで運営が存在するゲームだ。
故に、俺らが如何に人間離れした芸当をしようが、想定を超える知略を思いついたところで、運営側に対策をされてしまってはどうしようもない。
……ここまで来れば、もう理解できただろうか?
おっと、もちろん運営こそが種族最強だなんて、そんな無粋なことは言わないよ。
ただまぁ、実質というか間接的にはそうなってしまうワケなんだけれども……。
本当の意味での種族最強の存在。
それは、運営が種族王である俺たちに対抗するため、能力値を初期構想からやけくそ気味に上方修正し続けた結果、バグかと思うほどの力を持つことになった"果ての産物"。
ゲームを始めたばかりの俺たち各種族に対して"種族専用クエスト"を依頼しつつ、根源を守護すべく領域で鎮座し続ける、"最初にして最後の砦"。
俺たちと同等……いや、それ以上の能力値を持たされた、"種族最強のNPC"。
それらはまとめてこう呼ばれている。
種族主、と―――――。
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