第二話 灼炎種の住処に、いざ……?
―――俺とサクさんがそんな不毛なやりとりを繰り広げている時、件の馬鹿車の後方座席の天井がシュルシュルと音を立てて豪快に開き始めた。
思わず俺たちがそちらに視線を向けると、そこには案の定、無残な姿を晒すもう一人の被害者と、無意識の加害者がいた。
一方は、やけに萎れきった燃える鬣を持つライオン姿の人獣。
そして一方は超巨大な岩の塊。
明らかに異質な存在たちだけど……まぁ、動く骸骨に比べれば些細なものだろう……。
――と、そんな風に思っていながら眺めていると、なんとか崩れ落ちるようにして地面へと這い出した威厳ある……はずの武骨なライオン姿の人獣が、隣に座っている岩の巨人へと何やら恨み言のような、独り言を呟いた。
「グゥ……ようやく着いたのか……? 話には聞いていたが、これほどまでとは……」
苦しそうに車から這い出るその姿はまるで数分前の俺を見ているかのような既視感たっぷりの光景で……。
しかし、隣に座る岩塊はそれに答えることはなく、ゴツゴツとした巨体を僅かに縮こませて沈黙を守っていた。
ん? 岩の塊なんだから当然話せるわけがないだろって?
あ~、そうだよな。普通はそう思うよな。
まぁ……普通は、ね。
君にとって、皮膚に鱗がついた竜や動く骸骨、ライオンの顔をした燃える鬣を持つ人獣が普通なのだとしたら何も言うまいが、そうでないなら当然……。
そうして俺が彼について話そうとした矢先、当事者の彼―――つまり、超巨大な岩の塊がむくりと立ち上がったかと思えば、大きな声でこう言い放った。
「うっは~~!! た~~~のしかった~~~~!!!」
……言いたいことは沢山あるだろうが、まずは先にこのあまりにキャラの濃すぎる仲間を紹介しよう。
岩でできた巨腕を強引にしならせ、両腕を広げて豪快に伸びをしているこの岩の巨塊。
彼もまた、俺やサクさんと同様にこの異世界へと転移してしまったうちの一人―――猫バイトさんだ。
変な名前だと思うかもしれないが、姿を見ればその疑問も少しだけ晴れるだろう。
なぜならば、彼の岩の巨体の頭部に位置する箇所には、同様に岩で造られた猫耳があるのだから。
……って、いや、これで納得できるか……?
――ま、まぁ、名前も姿もインパクトの強い猫バイトさんだけど、実は彼もまた種族の王たる称号を冠する人物でもある。
それが―――創造種の王。
創造種という、自身が想像したものをそのまま現実に創り出すという、技術職も驚きの種族の王である彼は、自身の体をも自在に造れるが故に今は何かと便利な岩の体にしているらしく、聞けば今や実体はなく、精霊という存在に近いのだとか。
そんな猫バイトさんは、この威圧感溢れる巨体に似合わず、実は中身は驚くほど明るくて元気な人だ。
少し天然が入った愛されキャラで、殺伐としがちな俺たちの旅に癒しをくれる……存在なのだが、その無邪気さゆえに、時折とんでもない実害を俺たちに振り撒くことがある。
……既に察していると思うが、今回の加速域無し420km/hの馬鹿車はサクラノヴァさんだけの成果物ではなく、彼のマッドな設計案に、猫バイトさんの"面白そう!"という純粋無垢な創造力が合わさって爆誕した悪魔の産物だ。
この二人が組むとロクなことが起きない、というのはもはや俺たちの中では常識になっていて、これまでも、"超高圧縮食糧"や"強制就寝ベッド"、"爆風ドライヤー"なんてのが作られたけど、そのどれもが例に違わず世の中の法則を無視した馬鹿グッズである。
先のを正しく言い換えれば、"強制吐瀉物生成玉"に"臨死体験装置"、"周囲一帯消し飛ばし砲"なのだから……。
―――それはさておき。
車の前で依然として死に体となって地面にひれ伏しているライオン姿の彼は、ゴラクZさん。
彼こそが俺たちとここに来た最後の仲間の一人で、燃え盛る鬣が示す通り、彼は灼炎種の王という肩書きを持つ、威厳と強さを併せ持った頼れる漢である。
……普段はね?
彼の燃え盛る鬣はまるで生きた炎のように火花を散らし、武人のように鍛え上げられた体躯は見る者を委縮させる。
……普段はね?
性格は武骨で、ひたすらに真面目。
そして誰よりも仲間思いで情に厚い、まさに王の器を体現したような人物。
……ふだ……いや、これは今の状態でも変わらないか。
と、とにかく。
今現在はこの車のせいでその圧倒的な良さが隠れてしまっているが、こう見えてもやはり灼炎種の王だけあって、存在感と放つ圧力は凄まじいものがある。
瞬間火力最強とまで言わしめるほどの力を秘めた熱量のせいなのか、彼が倒れている地面だけが赤白く発光しているほどだしな。
……まあ、そんな王の威厳も、隣で無邪気に跳ねる岩の巨塊と、それを見て満足げに顎を鳴らす骸骨のせいで、だいぶ台無しにされている感はあるけれどね……。
―――と、俺はそんな騒がしい光景から一度視線を切り、歪んで見える陽炎の向こう―――異世界に高く広がる見慣れない空を見つめながら、ぼんやりと思索に耽る。
俺はこの三人、そしてかつて俺たちが誇りを持って掲げていたギルド【ネクサス・レグリア】の象徴であり拠点でもある《オルディレスト城》と共に、つい最近、この異世界へと放り出された。
原因もわからなければ、元の世界へ帰る方法もまるで見当がつかない。
……正直に言えば、あまりに唐突で理不尽な出来事に、目の前が真っ暗になるような不安に飲まれそうになることもあったし、今朝みたいな悪夢を見ることだってある。
けれど……それでも、今こうして俺は独りではなく、楽しい仲間たちと一緒にここにいる。
ただそれだけで、どんな理不尽が襲いかかろうとも、最後には何とかなるような気がしてくるような……そんな風に思えるのはきっと、この場所がどこであろうと、彼らが俺にとって何よりも代えがたい居場所そのものだからなのだろう。
そんな柄にもない感傷と、確かな安心感を胸の奥に覚えていた、その時――。
「……あ」
脳裏を掠めた小さな違和感に、俺は思わず声を漏らしてみんなに問いかけた。
「あれ? そういえば火山地帯に来たのにサラマンダーは連れてこなかったのか?」
サラマンダー。
以前、王都近郊の村で出会った野良の灼炎種の一体にして、俺たちがこの火山に来るきっかけを作った騒がしいお調子者なのだが、しかしその姿が見当たらず、置いてきたのかと俺は首を傾げる。
なんだかんだ騒がしくとも、彼の故郷でもある火山に行くのだから連れてきても良かったんじゃないかと、そう思ったその時、サクラノヴァさんが何も言わず、すっと視線だけで俺を制した。
「……?」
疑問に思った俺が彼に視線を向けると、彼はそのまま音もなく滑るような足取りで深紅の機体の後部――荷台へと回り込み、カチリと無機質な音を立てて荷台のドアを開放した――その瞬間だった。
―――暗い庫内の奥から、まるで生気を吸い取られたかのような赤い鱗の塊が、重力に従ってずるりと地面へ転がり落ちてきて……って、あ。
「グ。グェ~……頭がグルグルと……い、いったいなにが……っはっ!? ここはもしや!? おぉ~~~~!! ここは我が故郷!! 《カディオール火山》ではないですか!!! ハッ!? なるほど!! これをわたくしに見せるために気絶させてここまで来てくれたという訳で―――」
「―――煩い」
……もはやここまで来ると、ウザいを超えてすごいと言いたくなるような精神力とトーク力だったが、サクさんにとってはそうではないようで……。
全てを語り終えるサラマンダーの言葉を、サクラノヴァさんの冷徹な一言が断ち切り、即座にガンッ! という重厚な金属音と共に荷台のドアが力いっぱい閉められ、彼の姿は再び虚空へと消え去っていった。
……言うなれば、完璧なシャットアウトである。
というか、彼のためによほど防音性能と気配遮断にこだわった造りなのか、つい先ほどまで響き渡っていた騒々しい絶叫は気配とともに一瞬でかき消され、そこには再び火山の静寂が戻ってきた。
……いや、もうちょっとだけ喋らせてあげても良かったのでは……?
とも思わないでもない……でもないか、別に。
そうして俺は特に先の哀れなトカゲの顛末には触れず、改めて目の前に広がる景色を見据えた。
視界の先に広がるのは、赤黒く焼け焦げた大地。
地表にはかつて流れていたであろう溶岩が冷え固まり、黒曜のような光沢を放っている。
地下に眠る熱気だけは残されているのか、ところどころからはまだ白い煙が立ち上り、空気が焼ける匂いが鼻を突く。
そしてそこからさらに奥に見える―――巨大な山。
悠然と聳え立つ山の峰は、まるで世界を睨みつける巨獣のように不気味な威圧感を放っており、情報によると噴火が止まったはずなのに山肌には赤い亀裂が所々走っていて、そこから微かな熱が漏れ出しているのが遠目でも理解できるほどに空気が揺らめいていた。
「……これが灼炎種の住処かぁ」
思わず呟いた声はすぐに熱気に溶けて消えていったが、その隣でゴラクZさんがゆっくりと立ち上がりながら深く息を吐き、低い声で言葉を零した。
「かつての、だがな。……しかし……これは俺が灼炎種だからかもしれないが、この火山にはどこか不思議な感覚を感じる……まるで以前から知っていたかのような、な……」
その声音には、懐かしさと違和感が入り混じっていた。
来たことはないはずなのに知っていた感覚はあるというのは、灼炎種の王である彼にとって、灼炎種の領域でもあるこの火山にはどこか思うところがあるのだろうか。
にしても……遠くで見ても思ったけど、やっぱ火山でっかいな……。
周辺を探索するだけでも時間がかかりそうだし……。
俺は少し考え、視線を岩の裂け目に潜む赤い光へと向けながら口を開いた。
「ま、とりあえずまたサラマンダーを呼び出して、住処まで案内してもらうのがよさそうじゃない?」
サラマンダーはこの中で唯一この火山を知っている存在。
まぁ少しばかり騒がしいところもあるけど、少なくとも灼炎種の住処に関しては他の誰よりも詳しいし。
そう思った俺と同意見だったのか、すでにサクラノヴァさんは再び荷台に手をかけ、不服そうに呟いた。
「……ちっ、気は進まないが……確かにそれが最適な判断だな」
サクさんがその言葉と共に再びドアを跳ね上げた、その瞬間――。
今度は学習したのか、例の問題児が先ほどとは打って変わったロケットスタートで勢いよく飛び出してき―――。
「やややっ! 呼びましたねぇ!? そうだと思ってましたとも!! そろそろわたくしの力が必要なのではないかとわたくし思っておりましてですねぇ! なにとぞ―――――」
――ガァンッ!!!!!
……サクラノヴァさんが再び無言で荷台を閉める音が響いた。
みんなの視線が注目する中、骸骨の顎をカタカタと鳴らしながら、冷ややかな声を落とす。
「……やっぱこいつなしで行くか?」
その言葉に俺たちは顔を見合わせ、思わず苦笑する。
「……まぁ、アリかもね……」
熱気と灰が舞う火山の麓。
俺たちの新たな旅路は、なんともいえないヌルっとした空気と共に、静かに幕を開けたのだった――――。
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