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最強ギルドごと異世界に転移した最強種たち、暇なので世界を滅ぼしてみた  作者: 朝雨 さめ
第一章

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新年記念番外編 休日さんの休日


進歩した技術が人類の生活を塗り替えてから、もう何年が経っただろうか。


かつて人の手で成しえていたありとあらゆる物事が機械化され、今や農業や養殖、そして販売から宅配までもを自動化したこの世界では食糧不足が解決し、飢えに苦しむ人が一人もいなくなった。

果ては健康食の提案や、自身で何もせずとも脂肪を燃焼させてくれる健康機具、VR技術を応用した医師監修ソフトによる遠隔診療に薬の配達、加えて高精度機器による手術の自動化さえ可能になったことで、外に出るという行為をする人が必然的に減少したお陰か、それに連なる犯罪率も大幅に減少していった。


とはいえ、そういった便利なものに囲まれていく生活の中でも人間は常に何かに飢えている。

飽くなき探求心というものは圧倒的なもので、ついに人類は最高の世界を創り出した。

それが、リアルを超えるリアル――そう呼ばれるVR世界。

機械を体に装着するだけで、そこがまるで現実世界のように感じられるように五感を没入させた世界を再現したVR世界では、誰しもが最高のスポーツ選手になることだって、どんな異性にもモテる人生を歩むことだって、魔法使いになって世界を征服することだって可能になり、今では現実世界よりもVRで過ごしている時間が多いという人も少なくない。


一方で、外部との関係を遮断したことによる少子化の懸念は、かつて囁かれていた。

だがそれも、技術の進歩が打ち消した。

VR技術だけでなく、人工授精や人工孵卵、そして出産時の痛みの低減などの技術が発展した結果、誰しもが自分の子供を授かれるようになったこと。

さらに、多くのことを自動化したことにより浮いた予算で育児環境や最適な幼児食品においても無償で提供されることにより、人口推移はかつてないほどに上昇している。

さらに言えばVR世界においても結婚、そして出産体験をすることも可能になっているため、現実世界でも子を持ちたいと考えるような仕組みも行われたことで徐々に世間、および政府はこれらの技術の発展を積極的に支援することになった、


―――結果。

今ではVR世界は、人類の夢を叶える理想郷として謳われるようになった。


でもその理想郷の中で、一つだけどうしようもなく残された課題があった。

それは、すべてを自動化させるこの世界自体を創るために、誰もが忘れた“労働”を続ける存在について。


人々が夢見た理想郷は、機械がすべてを担うことで完成した。

だが、その機械を生み出すための根幹だけは、どうしても人間の手でなければならなかった。

かつて発展したAI技術というもので自動化技術を作成した企業もあったと言われているが、そのいずれもが後にAIに制御権を奪われ、企業としての対応に追われることになったこと、そして何より人類においての繁栄を阻害し、AI自体の国を創ったことで起きた"電子大戦"の惨劇を経て、人類はひとつの結論に至ったのだ。

――自動化技術は、人間の手で創り上げるべきだ、と。


ただ、働かなくても生活できる世界で働きたいと考える人はそう多くない。

食事も医療も娯楽も、すべて機械とVRが提供してくれるこの時代において、わざわざ労働を選ぶ人間は奇特な存在だからだ。

そのため、働こうと考える人間の労働時間は必然的に増え、実生活に余裕のある暮らしを送れている者はほとんどいない。

とはいえそれでもなお、彼らは働きたいと考える――まるで労働そのものに魅了された生き物のように。


そして。

その頭のおかしな生き物の内の一人が私―――内藤(ないとう) 舞心愛(まりあ)だ。

二十四歳、独身、彼氏なし、子供なし、仕事あり。

数百年前ならば何の変哲もないステータスだったというこれは、しかし今や化石のように珍しい。

周囲で働く人間は三十代から四十代がほとんどで、我が子の幸せな未来を創るために働く夫婦や、VRなどという技術を使用することに対して恐怖心を抱く高齢者が多い中、私はただ一人、若さを抱えたまま働いている。


同期は一人も残らず、毎日何時間も拘束されることが常態化している中、それでも私はこの仕事を苦痛だと感じたことはない。

むしろ、働くことに逆に意味を見出していると言っていいだろう。

なぜなら――。


「ぐぁ~~~~、つっかれた~~~……っでも! 何とか最終日に間に合った~!! 明日は休みを勝ち取ったから最後までみんなと語らうぞ~~~!!」


私が人生の中で最も愛し、愛されたものを、我慢して我慢し、我慢しきった末にやることが、私にとっての至上の快楽なのだから!!!!!


かつて、一世を風靡した大人気VRMMORPGゲーム。

『世界初の全感覚没入型(フルダイブ)VRMMORPG』として華々しいスタートを切ったゲームの名は――【ユグ:ドライアス】。


専用のカプセル型ゲーム機に入り、付属の装置を体に装着することで脳神経に直接アクセスし、医学と技術の最高峰である感覚再現システムを駆使して五感すべてを仮想空間に転送するという、まさにゲームとしての最高傑作ともいえる夢のようなゲームだ。


一度ゲームに入り込めばそこはまるで現実と見紛うほどの風景に加え、肌に感じる風をも感じることができる。

それどころか、焼きたてのパンの香りに味。一度剣を振るえば筋肉が軋む感覚まで再現されるという、まさに第二の世界と言える機能に、世界は瞬く間に虜になり、公式発売からわずか二日で同時接続者数は一千万を突破したという。


でも――それも今では昔話。


技術は常に進化していく。

それを私は間近で見ているどころか、関わっているからよく理解できる。

そして、その進化の果てに残る過去の栄光が静かに幕を閉じていく様を何度も見てきた。


【ユグ:ドライアス】の終焉は、あまりにもあっけなく、しかし納得がいくものだった。


当然、最初期に出た最新鋭の装置のゲームとしては評価が高くあったものの、時間が経ち、続々と後発の全感覚没入型ゲームが登場すればユーザーは雪崩のようにそちらへと流れていき、ついには同時接続数は数千、いや、数百になることなんてのはどのゲームでもよくある話。


全てが後発に劣っているとは言わないが、やはり、より高精度な感覚投影に、より広大な世界。より自由なプレイスタイルを前にすれば、流石にかつての王者も時代遅れの遺物となってしまった。


そしてつい三か月前。

【ユグ:ドライアス】発売からゆうに十年の月日が流れたとき――運営からの最後の告知が届いた。


《【ユグ:ドライアス】は三か月後の今日をもって、サービスを終了いたします》と。


……私はこのゲームで、とりあえず頭に浮かんだ"休日"というハンドルネームで、ゲーム内における最高峰であることを示す、種族王(ルーラー)という称号を得ていた人間の一人で、最強のギルドに所属するメンバーの一人でもあった。


このゲーム、【ユグ:ドライアス】では、ゲーム開始時に十種類の種族から一種類だけを選んで自分自身を投影することができる。

数ある種族の中で、ビジュアルがとても可愛かっただけで選んだ"巫狐種"という種族はどうやら未来を見通すことが可能らしく、それもまた新しいシステムでとても新鮮な気持ちで楽しく遊ぶことができた。


そして、私自身はあまりゲームに詳しくはなかったから無意識ではあったのだけど、どうやら私はこのゲームにとても愛されていたらしい。


ゲームを始めたタイミングが、【ユグ:ドライアス】がサービス開始してからちょうど七百七十七万人目ということで、大量の経験値上昇アイテムや金貨の他にも様々な特典をもらったこと。

継続ログインボーナスによって得られた無料ガチャで、巫狐種の昇級クエストにおいて必須級と言われる超大当たり装備品を出したこと。

PVPでは仕掛けてきた側がチートを使うような人だったみたいで運営からその補填として大量のPVPポイントをもらったこと。

適当にいろいろな人の未来を見てアドバイスをする占い師みたいなことをして楽しんでいたらそれが実は巫狐種の王へのクエストに繋がるものだったこと。


傍から見ればそのどれもが魅力的なもので、みんなが口を揃えて"運がいい"と言っていた。

……でも、私にとってはそんなものはどうでもよかった。


私がこのゲームを最も愛することができたのは、決してこんなことがあったからじゃない。

私にとって最も幸運だったこと、それは。


右も左もわからない中、それでも仲間に誘ってくれた、クールだけど思いやりがある人。

私のために色々なことをしてくれてたのに、それを決して表に出さないようにしてくれる、男らしくて優しい人。

いつも元気で、仕事で疲れた心に癒しと笑顔をくれる、可愛くてお茶目な人。

そして、困ったことがあったらすぐに気が付いてくれて、私がこのメンバーに溶け込めるようにいろいろ動いてくれていた、温かく、親しみやすい人。


そんな素敵で大切な四人と出会い、ギルド【ネクサス・レグリア】という居場所に出会えたこと。


会社員としてあまりゲームには行けなかったけれど、それでも姿を見せれば前と変わらずに明るく優しく接してくれる、心地いい場所。

だからこそ、このゲームの最終日だけはみんなに感謝を伝えるために、今まで必死で働いてきたのだ。


「ん~~~!! みんなとは連絡は取ってたけど、やるのは久しぶりだからなー! みんな元気にしてるかな~~~??  連絡では行けないって言ったけど……サプライズで登場したらみんな驚くかな~~? あっ、そうだ! それでどうせならみんなで思い出にガチャとか引きたいな~~~!!」


そう楽しみにしながら、専用のカプセルの中に入ろうとした―――その時。


Piriiiiiiiiiiiii――――と、耳障りな電子音が、まるで地獄からの招待状のように部屋中に鳴り響いた。

壁に設置された通信端末が赤く点滅しているそれは、今、私が何よりも忌避している物……。


「い、いやいやいや……きょ、今日は最終日だから! で、出ないよ私は!!」


必死に自分へ言い聞かせる。

今日は私の愛したゲームの最終日。

何日も続く仕事をようやく終え、私は仲間と語り合うための休暇を勝ち取ったのだ。

この呼び出しに応じる必要なんて、どこにもない……はずだった。


染みついた習慣は裏切らない。


基本的に前向きな意味で語られることの多い言葉はしかし、私にとっては呪いのようなものだった。

未だ鳴り止まぬ電子音を遮断するように、自然と私はカプセルの蓋を閉じ――――指は勝手に通信ボタンを押していた。


「……はい、内藤です。……はい。……はい……あ~、そう、ですね、はい……はい……っとそちらに関してはですね……えぇ……はい……あ~、そうですそうです! ……はい……あ~、わっかりました……はい……まぁあの、今回はですね、そちらのほうで……はい……はい~、失礼いたします~……はい~……」


口から流れるのは、長年の労働で染みついた定型句。

自分でも呆れるほど自然に、機械的に、相手の言葉に応じてしまう。

まるで自分の身体そのものでさえ働くことを優先するようにプログラムされている機械のようになってしまったのかと自虐を交えながらも悔しさを押し殺し、私は再び急いでカプセルへと身を滑り込ませる。

いざ! 夢の世界に!!

―――そうして私はカプセルに入り起動ボタンを押して……しかし動かないという事実に思い出す。


「あぁ主電源切ってたんだった!! 早く起動しなきゃ!!!」


久しぶりのログインは、思いのほか手間がかかってしまった。

ゲームに詳しくない私はすぐにでもできるものだと思ってしまっていたのだが、どうやら時間が経つとデータ更新というものがあるらしく、さらにその後には再起動をしなくてはならず、ついにようやくできるかと思えば今度は本体の更新通知に苛立ち、挙げ句の果てにはログインIDでさえ初めから入力し直し。

なんとか思い出しながらIDを打ち込むも何度も弾かれ、そのたびに「ピッ」という冷たい電子音が鳴り響き、焦りばかりが募っていく。


「ぐぅ~~……っ、早く……早く入らせてよ……!」


そうして何度目かのIDとパスワードでようやく認証が通り、視界が切り替わった瞬間――。


「うわぁ~~~!! なっつかし~~~!! 」


視界いっぱいに広がるログイン画面には、かつての荘厳なタイトルロゴが静かに揺れ、その世界観を示すかのように、溶岩に囲まれた火山地帯、大森林に包まれた大陸、深海に沈む神殿、そして最大級の都市国家などといった、十に分かたれた世界を一望できた。


胸が熱くなる。

懐かしさに心が震え、指先が自然と画面に伸びる。

あの日々の記憶が鮮やかに蘇る。

仲間と笑い合った夜、必死にボスを倒した瞬間、そして誰もが夢中になったあの冒険。


――だが。


そのあまりの懐かしさに酔いしれていた私は、右上に小さく表示されたタイマーに気づくことができなかった。


その残り時間は――――わずか数秒。


この世界がもうすぐ幕を閉じることを、私は知る由もなかった。


かつての仲間。

私が私でいられる空間に再び行くことができる。


そう思って私は画面を押し、それと同時に画面がブラックアウトする。

懐かしい感覚に身を任せていると――――――。


「……あれ? こんなんだったっけ……って、あれ? ログインできてな……」


違和感を覚えた。

何も変わらない景色、何も変わらない感覚。

そして目の前に浮かび上がったのは、冷たく無機質な文字列だった。


《長らくのご利用ありがとうございました 【ユグ:ドライアス】はサービス終了いたしました》。


「……え? いや……だって……そんな……」


声にならない声が漏れる。

心臓が冷たく締め付けられるような感覚。

信じていたものが、音もなく消えていく。


――そこから先の記憶はなかった。

おそらく私は、その場で力尽きるように倒れていたのだろう。


朝、目を覚ますと普段と何ら変わりない朝日がカーテンから差し込んでいた。


昨日の出来事が夢だったかのように、世界は何も変わらず続いている。

ふと携帯を手に取り、かつての仲間が集っていた連絡グループを開く。


だが……そこには一切の動きがなかった。

通知もなく、会話は途絶え、ただ静寂だけが画面に広がっていた。


……私たちは、こんな世界に生まれたばかりに、お互いの本当の顔を知らない。

知っているのはあくまでゲーム内の彼ら。

繋がりでさえ、ゲームの中でしか存在しなかった。


だからこそ、こうして繋がりが失われた途端に関係が切れる――それは珍しいことではない。

長く生きていればこういう別れは意外と多いものだ。


けれど。

それでも胸の奥に残る痛みは簡単に消えてはくれはしなかった。


私は再び、彼らとの最後の連絡を開く。

画面に並ぶのは、もう動くことのない文字列。

そこには、かつて笑い合い、励まし合い、夜を徹して戦った仲間たちの名前が並んでいる。


「……サクラノヴァさん……ゴラクZさん……猫ちゃん……マスター……本当に……これで終わりなの……?」


声に出した途端、胸の奥が締め付けられるように痛んだ。

頬を伝う涙で滲む世界の中、気が付けば指が勝手に動いていた。

震える手で携帯を握りしめ、何度も打ち間違えながらも必死に言葉を紡ぐ。

繋がりを失いたくないと願う心が私の身体を操っているかのように。


『みんな~! 昨日は行けなくてごめんね……このゲームは終わっちゃったけど……今度みんなで違うゲームやらない?』


――――あれから数日経った今でも、返事はない。


通知は一度も鳴らず、グループは沈黙を続けている。

まるで、あの世界と共に仲間たちの存在も消えてしまったかのように。


ゲームが終わっても、世界は変わらない。

毎日何事もなく回り、朝が来て、夜は過ぎる。

人々は日常を歩み、誰もが当たり前のように今日を生きている。


こういうことはよくある事だ。


……けれど、本当にそうだろうか?


私は、最後に彼らが私に送ってくれた言葉を、あの日から何度も見返している。


『そうか……だが、あまり無理はするな。みんないつでも待っている』

『休日さん……今度の休みには前に見たがっていた映画を一緒に見たりとか、どうだろうか?』

『え~! 来れないの~!? 久しぶりだから会いたかった~!! けど、仕事大変だと思うから無理しないで頑張ってね~!』

『全然気にしないでいいよ!? お仕事いつもお疲れ様! 俺もだけど、みんな休日さんと会いたいからみんなの予定を合わせてまた一緒に遊ぼう!』


……たとえゲームでの姿しか知らない人だとしても、こんな素晴らしい言葉をかけてくれる人たちが急に連絡を閉ざすだろうか?


私には、絶対に何かがおかしいという確信があった。


……けれど、それが何なのかは全くわからない。

だからこそ、私はみんなにいつか届くと信じて、毎日連絡を入れるようにしている。

いつか届くと信じて。

いつかまた……あの笑い声が戻ってくると信じて。


◇◇◇


「あら? 内藤さん、風邪はもう大丈夫なの~?」

「はい! 一週間もお休みいただいてすみませんでした……」

「いいのよ! 内藤さん、あんまり休まないからたまにはゆっくり休むのよ~?」

「はい……まぁ、会社が休ませてくれないんですけどね……はは……」


職場で交わされる何気ない会話。

それは現実の繋がりであり、確かに私を支えてくれるものだ。


けれど、私が愛したゲームがなくなった今もこんな世界で働いていけるのは――かつての仲間が最後に残した言葉があるからだ。

あの言葉さえあれば、私はこれからも頑張れる。

そして―――。


『みんな~! 今日も仕事だけど、頑張るね! 行ってきます!』


今は返事はなくてもいい。

いつか、みんなが笑顔で戻ってくるその時まで。


そして、みんなから貰った大きな幸せを、いつかちゃんと返せるように。


私は今日も、最強の一員でい続けるから―――――、

明けましておめでとうございます!


また、明日からは通常の話へと戻りますので、今年も応援よろしくお願いします!


更新は第一章は毎日【AM1時】更新予定です!

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