第三十話 VS王都守護三番隊長
それは、一人の……いや、一体の骸骨の言葉から始まった。
「では行くぞ―――【雷撃】」
サクラノヴァがその言葉を紡いだ瞬間、先にサヴァンが放った爆炎魔法の比ではないほどに異空間が軋み、震える。
灰と紫が混ざり合う歪んだ世界の輪郭が波打ち、空気そのものが雷鳴を孕んで弾ける。
そして、彼の指先が軽く弾かれると同時―――そこから奔流のような魔力が解き放たれた。
迸った雷撃はただの電流と呼ぶにはあまりにも速すぎた。
まさに光の矢と呼ぶにふさわしい鋭さを持ち、空間を裂いて一直線にサヴァンへと突き進む。
その速度は通常であれば視認すら困難なほど。
「――ッ!」
サヴァンの瞳が瞬時に見開かれる。
彼にとって重要なのはその威力でも速度でもなく、“対応できるか否か”という一点のみ。
それのみに特化させた彼の瞳は、辛うじてその雷撃の起こりを確認する。
そして彼はその起こりに合わせ、即座に自身の固有魔法を展開した。
銀髪が宙に舞い、彼の周囲に淡い光の紋章が浮かび上がる。
それは王都守護三番隊長として幾度も死線を潜り抜けてきた彼の象徴――防御と反撃を兼ね備えた固有の術式。
「―――【鏡返の盾】!」
雷撃をも上回る速度で瞬時に展開された、"魔法を跳ね返す盾"が、サクラノヴァの雷撃を跳ね返すために直線上に配置される。
幾度も戦場で彼を救ってきた絶対魔法防壁――その力をもって、賭けに勝つはずだった。
……だが。
雷撃は寸前で紫紺の歪みに呑まれ、音もなく消えた。
「……なっ……!? 消え……転移だとっ!? ~~~~ここかッ!?」
驚愕の声を上げるサヴァンの視界に、次の瞬間、別方向から雷撃が姿を現す。
しかしサヴァンはこれを直感で察知し再び盾を構える―――だがそれを嘲笑うかのように再度雷撃は消え、別の場所へ―――。
それを何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も―――。
何度も繰り返す。
雷撃は空間を幾度も跳ね回り、まるで意思を持つかのようにサヴァンを翻弄する。
その度に彼は予測して盾を展開するが、なおも雷撃は寸前で消え去り、次の瞬間には別の方向から襲いかかる。
側面、背後、頭上、股下――――四方八方から現れる雷撃に、徐々にサヴァンの息が上がっていく。
(くそっ! くそくそくそくそっ!! ……こんなはずではッ……なぜ私が! 【領主】の私がこんな無様な姿を晒さなければならないッ!? たかが一般魔法だぞ!?)
彼の心は徐々に焦燥に支配されていった。
一般魔法――それは本来、彼のような実力者にとっては恐れるに足らぬ術のはずである。
……しかし神速の雷撃を予測し続ける彼の優れた直感が、けたたましい程の警鐘を鳴らしていた。
―――喰らえば。ただでは済まない、と。
すでにサヴァンの綺麗に整えられていた銀髪は乱れ、呼吸は荒くなり、額には汗が滲んでいた。
彼の予測はサクラノヴァの予測を大幅に超えていた。
命がけの経験から来る凄まじい生存本能が魅せた奇跡。
ただ、惜しむらくは彼が先に放った爆炎魔法だろうか。
サヴァン自身が放った爆炎魔法は周囲に凄まじい程の熱気を残していた。
故に、サヴァンは通常の動きですら汗を流すこととなり、それがなければ額から流れる汗によって視界が滲むことはなかったかもしれない。
そして―――。
「っ……!? 目がっ!?」
額から流れる汗が目に滲み、咄嗟にそれを拭った時―――頭上からそれは現れた。
その瞬間、まるで世界がスローになる感覚をサヴァンは生まれて初めて感じていた。
(あぁ、これは……話に聞く走馬灯、というものか……? あぁそうだ、思えば私がこうなったのは―――)
――しかし、迫る雷撃は彼の走馬灯をも追い去る速度で落ち――――サヴァンの体を貫いた。
「ぐあぁああああああッ―――!」
そのままサヴァンは膝をつき――――たった一撃で意識を失い、口から黒煙が立ち上る。
サクラノヴァはその哀れな姿に静かに歩み寄り、冷ややかに言い放った。
「ふん……貴族だとは思えん"哀れなダンス"だったな……。……だが命までは奪わん。……領主なりに、今後の身の振り方を考えるんだな」
そう言い残し、サヴァンが倒れこむと同時に空間が崩れ――猫バイトと同様に街中へと戻る。
倒れた銀髪の男を見下ろしていると、少しスリムになった岩の巨人――猫バイトが駆け寄ってきた。
「あっ、サクラノヴァさんも終わったんだ~!」
「……あぁ、俺がこんな雑魚に負けることなど、生涯一度もあり得ん。……それで、収穫は?」
猫バイトはサクラノヴァの問いに、大きな岩の拳から二本の指を出し、嬉しそうに答えた。
「よていどぉ~り!」
その様子を見て、サクラノヴァは静かに息を吐いた。
眼窩の奥の青い光がわずかに揺れ、ローブの裾を整えながら言葉を紡ぐ。
「……疑似空間持ちの守護隊長と出会えるかは運だったが……。しかしこれで、市街地でも被害なく猫バイトとゴラクZが戦うことができる疑似空間魔法を手に入れたわけだな……よくやった」
サクラノヴァのその言葉に、猫バイトは岩の頬に両腕を当てて照れるような仕草を見せながら笑った―――が、少しして違和感を感じたサクラノヴァは猫バイトに問いかける。
「……だが、そのイアンとやらは見えないが……殺したのか?」
その問いに、僅かに重い空気が周囲を包み込んだがしかし猫バイトはあっけらかんとして答えた。
「うん! あんな奴は死んで当然だよ~!」
そのあっけらかんとした声は、重苦しい空気を切り裂くように響いた。
その答えに何を思ったか、サクラノヴァはしばし黙したものの、やがて短く返す。
「……そうか」
それ以上は何も言わず、ただ歩みを進める。
猫バイトもまた、軽い足取りで彼の隣に並んだ。
そしてそのまま彼らもまた王城へと歩き出す。
「……さて、俺たちが三番と四番……とすればマスターのところは二番か五番か? ……くくっ……」
「…サクラノヴァさん? なんで笑ってるの~? 何か面白いことでもあった?」
「ん? あぁ……少しお楽しみをな」
そうして、彼のその笑みとともに二人の影は王城へと伸びていった―――――。
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