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最強ギルドごと異世界に転移した最強種たち、暇なので世界を滅ぼしてみた  作者: 朝雨 さめ
第一章

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第二十二話 全ての元凶




―――石造りの階段を降りると、そこには広大な円形の空間が広がっている。

天井は高く、魔力灯が浮遊して淡い光を落としており、周囲には段状の観客席がぐるりと取り囲み、中央には直径30メートルほどの円形フィールド――闘技場に今、俺たちはやってきていた。


俺が円形のフィールドに足を踏み入れると、砂がざりっと音を立てる。

この懐かしい感覚に目を閉じると、前とはまた違った、どこか神聖な緊張感が感じられる。


ここは、かつて俺たち【ネクサス・レガリア】のメンバー同士の決闘に使っていた、《オルディレスト城》の地下訓練場、兼闘技場。


普段は圧倒的な範囲火力を持つが故に、外で気軽にスキルの試し打ちができなかったゴラクZさんが特訓していることが多かった場所で、壁には未だにいくつか燃え焦げた跡のようなものが残っている。


そして―――俺は、観客席に不服そうに座るサクラノヴァさんに向かって小声で話しかけた。


「なぁサクさん……俺って舐められやすいのかなぁ?」


その言葉に対しサクラノヴァさんは静かに眼窩の奥の青い光をこちらに向ける。


「……ふん、そりゃ他が骸骨に岩の巨人に燃えるライオンだぞ? 大概消去法で貴様になるに決まってるだろう」

「いや貴様て……なぁサラマンダー。お前もそう思ってたか?」


明らかな敵意を向けるサクラノヴァさんに苦笑いしつつ、俺はその後ろにいる拾ってきた魔物―――サラマンダーに声をかけると、話しかけられるとは思ってなかったサラマンダーがビクッと跳ねた。


「へぇあっ!? い、いやいやいや!!! 私はそんな、そんなことは滅相も!!」

「いや、そこは滅相も"ない"まで言えよ、あるんかよ……」


俺が思わずツッコむと、サラマンダーは尻尾をぐるぐる巻きながら目を逸らした。

……いや、本当にあったんかい。


「まぁいいじゃん? あの剣聖様に選ばれたんだから~! 僕だって彼女と戦ってみたかったよ~~~!」


と、落胆する俺に猫バイトさんがフィールドの外で下を向いて何かをしながらそう言った。

その声は明るいが、どこか落ち着きがない。


「……猫バイトさん、何してるの?」


俺が身を乗り出して彼の足元を見ると、彼は何か金属のヤスリのようなもので、自分の岩の足をゴリゴリと削っていた。


「……え~? まぁ、ちょっと……イメチェンだけど……」

「……あっ、気にしてたんだ……」


俺が彼女の言動に関して呟くと、猫バイトは「ふん!」と鼻を鳴らして削る手を止めた。

削っていた足は……僅かにだが細くなっていた。


そのとき、その隣に座るゴラクZさんが炎の鬣を揺らしながら唸った。


「ウム。俺も戦ってみたかったが此度は彼女の指名の通り、マスターに譲ろう。……だが……マスターとまともにやり合ったら、あの女性は死んでしまうのではないか?」


その言葉に俺はこちらから少し離れた位置にいる彼女―――剣聖・ソフィア=グレイスさんを見据える。

彼女は既に銀の鎧に身を包み、剣を携え、瞳を真っ直ぐにこちらに向けている。

完全装備、という言葉が適切なほどに万全の準備をしている彼女だけど……正直な話、ガチな戦闘をすれば竜種の王の力で数秒もかからずに終わるだろう。

だからこその心配なわけだけど――。


「……そんなことは当然分かってる。だからほら、マスター。この腕輪と指輪をつけろ」


そう言ってサクラノヴァさんが差し出したのは……またも課金装備――《残光の腕輪(バングル・オブ・ラグ)》と《始原の輪(リセット・リング)》。


「うへぇ……マジ? これ付けたら逆に俺が死ぬんじゃない……?」


俺はそんな苦言を呈しながらも腕輪を嵌める。

瞬間、視界がふわりと揺れ、まるで夢の中にいるような感覚に包まれた。


今、俺が付けたのは、《残光の腕輪(バングル・オブ・ラグ)》。

かつての超高難易度イベント――『Chrono Swan: 白き時の審判』に併せて販売されたガチャの外れアイテムであるこの腕輪の効果は、"付けた者の視界情報を二秒遅らせる"というもの。

当然、イベント外で使用すればただただ周囲から二秒間遅れた視界でプレイさせられるという超絶縛りのクソ装備品。

……なのにも関わらず、未だに捨てずに持ってるこの骸骨はいったい何をするためにこれを残しておいたのか……。


まぁそれはさておき、現状で俺を最も不安にさせているのは、もう一方の装備である《始原の輪(リセット・リング)》。

これはその名の通り、”種族レベルを強制的に初期状態にリセットする"という、個人的ゴミオブザイヤー受賞装備だ。

入手条件は軽く、初期の街にいる人に話しかければもらえる装備品で、一応これはつけている間しかその効果は発生しないから別に外せば問題はないんだけど、使う理由がただの上位変態プレイヤーの縛りプレイでしかないので、入手難易度に対してこれを持ってる人を見つけるほうが難しいぐらいのゴミ装備。


そして、一回でも消滅したらデータも消える不死種、それもその中での最上位にも関わらずこんな装備を持っているという変態プレイヤーの王でもあるサクラノヴァさんが、観客席から冷ややかに言い放つ。


「……何を馬鹿なことを……これでも貴様には足りないぐらいだ」

「……馬鹿はアンタだよ絶対……ていうかなんか俺に恨み持ってない?」

「あるとも」

「即答かい……」


とまぁそんなやり取りに俺は苦笑しながらも、仕方なく指輪を装備する。

すると途端に体を流れていた魔力の流れが一気に細くなり、体が妙に軽くなったような、頼りないような感覚に変わる。

……言ってしまえば竜種ゆえに僅かに感覚が鋭いだけで、基本的な力や視力、体の動きは現実世界に戻ったような感じ。


「ふぅ……さて、ソフィアさん! 準備はどう?」


そう俺が声をかけると、闘技場の対岸に立つ彼女が静かに頷いた。

銀の鎧が魔力灯の光を受けて、鈍く輝いている。


「あぁ。いつでも構わん」


その声は落ち着いていて、迷いがなかった。

それは紛うことなき剣聖としての覚悟。


「おっけ~、じゃあ、俺が今からこのコインを上に投げるから、落ちたとこから勝負開始ってことでいいかな?」


そう言いながら俺は懐から一枚の銀貨を取り出し、指先でくるくると回す。

彼女は一歩前に出て、真っ直ぐに俺を見据えた。


「あぁ、理解した」


その構えはまさに一分の隙もないといったところで、流石剣聖だと感じる。

俺は彼女のその言葉をもって銀貨を指先に乗せ――。


「それじゃ、いくよ~」


――そして、銀貨を高く弾いた。


高速で回る硬貨は、天井の魔力灯の光を反射して、銀の軌跡を空中に描く。

地面に落ちる間、俺はここに来る前に話していたソフィアさんが俺を選んだ理由を思い出していた。


(……マスターとか関係なく、俺が一番強そうだったから……か……)


観客席の空気は異様なほどに静まり返っている。

猫バイトさんは岩の拳を握りしめ、ゴラクZさんは鬣を揺らし、サクラノヴァさんは静かに腕を組む。


やがて銀貨は頂上に達し、ゆっくりと回転しながら落ちていく。


(……ま、流石剣聖って呼ばれるだけあって、見る目はある、って感じかな~)


――そして、その硬貨が地面に触れた瞬間。





闘技場の空気が――――――爆ぜた。



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