一
【マッチングされましたお相手様からお断りのご連絡。今回はご縁がなかったということですが……】
通知が届いたメールを開いて、全て読み終える前に画面を閉じた。浅くため息を吐くと、白い息となって夜空に溶けていく。
私の心を曇らせたのは、婚活サイトから届いたお祈りメール。機械的な文章は、擦り傷をつついてくる。
「またか……」
同じ文面を見たのは、初めてのことではなかった。
数えてみるとそれは片手では数える指が足りないほどだ。
はじまりは34歳を迎えたときのこと。
久しぶりに実家に帰ると、一回り背中が小さくなった母にまだ独り身であることを心配された。
「今は結婚しない人も増えてて……」必死に説明したけれど。
昭和の価値観を引きずったままの母には、結婚できない人間の戯言に聞こえたのかもしれない。
「結婚しなかったら、幸せになれないじゃない! 綾は独りで生きてて幸せなの!?」
強い語気で放たれた言葉は、弾丸のように胸に突き刺さった。
さすがにムっとして、反論しようと息を紡いだ。
だけど、泣きながら婚活をしてほしいと心配する母を目の前にして、反論する意志はもろく砕けてしまう。
それに、ここで自分の意見を言ったとして。また泣かれるだけだろう。
正直、めんどくさい。
また言い合いになるくらいなら、意志を飲み込んだ方が幾分楽だ。そう思った私は、言われるがまま婚活サイトに登録した。
婚活サイトに登録した後も、結婚には興味が湧かなかった。
【私は結婚ができないんじゃない。本当にしたいと思わない】
心の片隅に残るのは偽らざる思い。
だけど、脳裏にこびりついた母の泣き顔が、私の本音に上書きする。
【――結婚をすれば幸せになれる】
こうして、私の日常に「婚活」が加わったのだ。