第98話 サダキと幻獣~ニードル~
~前回までのゼユウ~
ホーメナは、半年前のテロで、王宮の対応に不満があるかもしれない。
サダキは、自分を実験体として扱った王宮に不満があるかもしれない。
クーノは、王宮と繋がっていて、その王宮は何かを隠している。
ビッケは、利があれば王国の滅亡くらい実行しそうだ。
そして俺は、記憶がない。失った記憶に、動機があるかもしれない。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇チゴマ:王宮の偉い人〇ハナ先輩:職場の先輩
〇レンちゃん&シン君:サダキの友達。ふれあい教室にも来ていた。
目の前に、高そうな料理が運ばれてきて、おもわず生唾を飲み込む。
男爵の件から、およそ一か月。フレン王国は、未だ健在。
ここは高級料理店。その個室。
メンバーは、俺と、ホーメナと、チゴマさん。
所謂、調査報告会。
少人数なのは、途中経過だったり、内々に相談したい事があったりするから。だと思う。
(コーホの全体会議以外は初めてだ。ホーメナだけに押し付けている訳ではないという事をアピールしないと。)
わざわざ呼ばれたのだから、きっと、俺に関係ある話のはずだ。
…暇そうだったから、連れてこられた可能性もあるが。
「ゼユウに簡単に説明すると。」
食事が終わる頃、ホーメナが口を開く。
「稼働中の魔法塔は38基。間もなく完成する予定の物が2基。
更に増やす予定もある。
個々の出力増強も出来てるし、外からの攻撃にはかなり強い。」
この辺は、聞いている。
最近では、コーホの皆も積極的に協力している感じだ。
特にビッケ。普段あんなだけど、やはり魔王。
魔法の知識は本物。
世界中が業火に焼かれても、フレン王国は生き残るのではないか。
そんな気すらする。
「でも、壁の内側からの攻撃は防げない。」
それは、まあ、そうだ。
「古の魔導超兵器ってあるじゃない。」
一瞬、サダキの顔が浮かんだ。
でも、彼の今の立場は、天使だから。
「巨大ロボットみたいな見た目の、バクー王国とかが研究しているやつね。
あれ、元々は地面に埋まってたりするらしいのよ。
それを掘り起こした感じね。
だから例えば、この王国の地下にも埋まっていたとするじゃない?
しかも、10体くらいあったりして。
それが、一斉に暴走して、爆発とかしたら?
きっと、フレン王国の領土内全てが、光に包まれて消えるわ。」
「…。」
(今、ひょっとして、一番有力で、致命的な事実が発覚したりした?)
「だから、地中に変なのが埋まってないかの調査を依頼しているの。
どう?チゴマさん。」
方法は、土魔法とか使えば調べられるんだろうな。
王国領土全域となれば、地道な人海戦術になるに違いない。
「見つけました。」
「「あったの!?」」
ホーメナとハモってしまう。
「見つけたのは、巨大なパイプです。」
「パイプ?」
「ええ。長い筒、とでもいいましょうか。これの、底をとって伸ばした感じですね。」
チゴマは、コップを横にしてみせた。
「信じられない硬度です。
現在の技術では、再現不能でしょう。
魔法の形跡は、現在は発見できていません。」
魔王の言っていた定義だと、古の魔導超兵器になるのか。
「場所は?具体的にどの辺り?」
「王国の真下。蛇行し、森にも平原にも伸びています。」
「もしかして、王族の脱出路?」
「私もそう思います。」
「把握してない物なの?」
「はい。今回の調査で、初めて分かった物です。
気づかなかった理由としては、かなり深い所にあったから。
そして、出入口がないからですね。」
ホーメナと顔を見合わせてしまう。
王都の地下に、把握していない脱出路が見つかった?
しかもそれが、古の魔導超兵器?
「調査チームと私の考えをお伝えします。少なからず、想像が入ってしまいますが。」
「ええ、お願いするわ。」
「あのパイプを見つけたから国を作ったのか、今は失われてしまった技術でパイプを作ったのかは分かりません。
どちらにしろ、使う予定だったのでしょう。実際、使っていたかもしれません。
硬いパイプは籠城も出来ますし、出入口が多ければ容易く逃げられたでしょう。
しかし、敵が人間だった場合、一度情報が洩れれば終わりです。」
人同士の争い。…まあ、ない訳ないよな。
「敵にとって、絶好の侵入経路となりますから。
広すぎて、こちら側でも把握が困難。敵からしたら、奇襲に持ってこいです。
頑丈過ぎるパイプは形を変えられない。精々封鎖するくらいしか出来ないでしょう。
逆手にとって罠も張れない事もないですが、突破されるリスクが高すぎます。
出入口は、自ら潰して回った事でしょう。
破壊出来ないパイプは、そのままに。」
魔物相手には便利だったけど、今は寧ろ弱点になるから放棄した、って事か。
把握はしててもらいたいと思うけど、放棄したのは数百年も前かもしれないし、言っても仕方ないか。
ふと、思った事がある。
「その放棄された脱出路って、今、使えないか?
緊急時に、国民全員逃げ込むシェルターとして。」
魔法聖域以外の手段も、用意しておくに損はないだろう。
「残念だけど、それは賛成できないわ。」
答えたのは、ホーメナだった。
「チゴマさん。その滅茶苦茶硬いパイプは、ニードルに耐えられる?」
(ニードル?何処かで聞いた事があるような?)
「私見ですが、無理ですね。」
「そうよね。」
「すまない、ニードルって何だ?」
ホーメナに睨まれた。気がする。
「ニードルというのは、数年前に開発された魔法爆弾です。
起動前は球体なのですが、そこから針を伸ばします。
その針から無数の棘が伸びまして。分子の結合を解除していくんです。」
「?」
「硬い壁を、魔法の力で柔らかい壁に変えてから、爆破するんです。
ニードルの前では、硬度など関係ありません。
魔法で対抗するしかないんです。」
なるほど。パイプは硬いけど、魔法的防御は使われていないから特殊爆弾は防げない。
なら、パイプに魔法的防御を施せば?
いや、魔法聖域の維持で手一杯か。
「開発者は、闇天法使いらしいわ。」
ホーメナの補足が入る。
「つまり、天上の国の技術。納得のイカレ具合よ。
しかも、ボタンを押すだけで起爆可能。時限式にも対応。
爆発の威力も低くないわ。
ざっくりだけど、1000個もあれば、王国領土を光に包める。」
しかも、魔法聖域の内側で爆発する訳か。
「けど、そんな高性能爆弾、きっと安くないだろ?1000個も集められる訳が…。」
「半年前、コア王国の残党から、未使用のニードル100個を押収したわ。」
さっき睨まれた理由がわかった。
ハンネの最後の戦いの詳細くらい、把握しておけと、そういう感じか。
「安くはない。けど、金持ちならどうにかなる額って訳ね。」
「…。」
「話を戻すわ。
ゼユウが頑丈なパイプを、避難所として使えないかと意見を出してくれたけど、私が否定したのよね。
敵が大量のニードルを用意できたとする。
パイプに出入口を作ってしまえば、ニードルを仕掛けられるリスクが生じる。
パイプは深い所にある、だからその爆発自体では、王国は滅ばないかもしれない。
でも巨大パイプは潰れる。王国領土中で、大規模な地盤沈下が起きる。
混乱は避けられない。防衛体勢に穴が出来る。
そこを突かれたら、きっと負ける。」
考えたくはないが。
王国兵何人かを寝返らせればニードルを仕掛けるのは可能なんだろうな。
金と国外への逃亡援助。額によっては、ありえるはずだ。
「パイプ内は、土魔法で塞ぎましょうか。時間はかかると思いますが。」
「お願いするわ。」
どことなく、ホーメナの元気がない。
自分で言ってて、想像して、疲れたんだろう。
俺も、聞いてて疲れた。
「ちなみに、パイプ以外に何か見つかった?」
「今の所、見つかっていませんね。引き続き、地下の捜索は行う予定です。
封鎖作業を行いながら。」
とりあえず、それで話は終わりだ。
チゴマさんとは、料理店で別れた。
ホーメナと二人で帰路につく。
二人だけで歩くなんて、随分久しぶりな気がする。
それこそ、初日、病院から家に向かったのが最後じゃなかったか?
(…どんな会話をしていたっけ?)
ホーメナとは、二年のつきあいだ。
一年半、同じ家で暮らし、現在、再び同じ家に住んでいる。
考えて会話をした事も、話題に困った事だってない。
でも、今。
思った事をそのまま喋ると、「お前が犯人だったりする?」何て聞きかねない。
(いや、それでいいじゃないか。)
「何、下らない事いってんのよ。そんなのある訳ないじゃない。」そんな感じで、雑談が始まるんだ。そういう関係だったじゃないか。
(本当、何を恐れているんだ、俺は。)
突然、通信機が鳴って、驚きのあまり跳ね上がる。
しかも俺のではなく、ホーメナのだ。
「はい、ホーメナ。」
俺のコミカルな動きは、見られなかったようで、一安心。
「…平気なのね?…うん、一緒。今から行くわ。」
不穏な雰囲気を感じる。何事だ?
「サダキが病院に運ばれたわ。今から会いに行くわよ。」
俺は頷いた。
町で一番大きな総合病院。俺が入院したのも、ここだ。
ホーメナと一緒に、サダキの病室へ。
入ろうとした時だ。
扉が開いて、二人の子供が出てきた。
「あ、どうも…。」
「失礼しました。」
「いえ、こちらこそ。」
よく見ると、見覚えがある。
ふれあい教室の時の、フラワーボールの少女と、石を暴投した少年だ。
「最近、サダキとよく遊んでいる子達よ。」
「へ~。」
サダキは10歳で、あの子達は5歳くらいだろう。
弟、妹みたいな感じかもしれないが、友達が出来たみたいで何よりだ。
ともあれ、ホーメナに続いて部屋の中へ。
ベッドで横になっているサダキと、イスに座っているクーノがいた。
「ごめんなさい、心配かけて。」
「それは構わない。無事でよかった。」
「謝るのはこちらの方よ。本当にごめんなさい。」
俺はここにくるまで、詳しい事情は聞いていない。
だから、ホーメナの謝罪の意味も分かっていない。
クーノを見る。説明してくれる事を期待して。
「一応、最初から説明するよ。」
ありがとう、クーノ。
「サダキは、レンちゃんと、シン君と一緒に、賢者の森のバーベキュー大会に参加したよ。」
そういえばハナ先輩が、あるって言ってた気がする。
レンちゃんと、シン君は、さっきの二人の事だろうな。
「そこが、魔物に襲撃されたよ。」
絶句。大事件じゃないか。
「護衛の兵士が、すぐに魔物を倒したから被害はなし。
だったんだけど、パニックになったシン君は逃げ出してしまい、運悪く、別の魔物に遭遇してしまったよ。
そこにサダキが駆けつけた。」
サダキは強い。俺とビッケとホーメナの三人がかりでも止められなかった。
しかし、あの時のサダキは、言わば暴走状態。
力の制御が上手く出来ず、自身を傷つけながら戦い続けた。
彼は、あれから制御の訓練をやっている。俺も、つきあう時がある。
いつかの、かくれんぼの時は、いい感じだったと思う。
でも、たまに危うくなる時があって。
だから、今、サダキは腕輪をしている。
暴走を抑える効果のある物だ。徐々に力に慣れていく為に。
つまり、サダキの戦闘力は激減している。
魔物と戦うには、辛いだろう。
そして腕輪を外せるのは、クーノだけ。
天力、天法が関係していているらしいから。
本当に、無事でよかった。
「サダキは魔物を食い止め、シン君を逃がした。
シン君は逃げた先で、レンちゃんを見つけた。
レンちゃんは、大人を呼びに行こうとした。
そして。」
クーノが言いよどむ。
大人をつれて来て、事なきを得たんじゃないのか?
「不思議な存在に遭遇したよ。
魔物か、動物かは分からない。
微かに発光もしていたようで、恐怖を感じる前に、見惚れたそう。
『それ』は、こちらを攻撃してこない、敵意がない。まるで、ついて来いとでも言うように、歩き出した。
レンちゃんは、よく本を見ているから、一応、心当たりがあって、だから後を追いかけて。
倒れているサダキを発見できたらしいよ。
魔物の姿は無かったみたい。」
「…。」
少し、飲み込むのに時間がほしい。
魔物の襲撃だけでショックなのに、今の賢者の森には、そんな得体の知れないのがいるのか?
クーノが画用紙を渡してきた。
レンちゃんが描いたんだろう。
四足歩行する、馬みたいな形状に、角を生やして、体色は金色…。
「クオマトリベ?」
ホーメナが、謎の呪文を呟いた。
クーノに絵本を渡される。
タイトルは、【森の幻獣】。その表紙には、レンちゃんが描いたのと同じモノが。
「その昔、王女様が傷ついた馬を助けた。王女様と馬は、仲良しになった。
怪我が完治した馬は、賢者の森に帰っていく。
ある時、王女様は魔物に襲われる。そのピンチに駆けつけたのが、友達になった馬。
魔物の攻撃から王女様を庇い、命を落とす馬。
しかし、王女様の愛で蘇り、魔物を粉砕。再び森へ帰っていく。
こうして、森の守り神、幻獣クオマトリベは誕生したのだった。
っていう話だよ。」
創作、だよな?
でも、トリドの件もあるから、事実かもしれないのか。
(こんなのがいるなんて、ハンネから聞いた事はない。
ホーメナの反応からして、彼女も知らなかったはずだ。
そんなのが、何でこのタイミングで現れた?)
「ゼユウ、ついて来て。」
ホーメナが、俺を見る。
「賢者の森の、調査に行くわ。」
混乱しつつも、俺は頷いた。
王国地下の謎のパイプ、特殊爆弾ニードルの情報も出たりしつつ。
物語は賢者の森の異変の調査へ。




