第97話 恋のキューピッド大作戦~この後の話~
~前回までのゼユウ~
色々あった男爵の依頼は終了した。
資金問題も、ビッケが私財を投げ打って解決の目処が立った。
ようやく一段落。俺は泥のように寝た。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇ドットテカ男爵:ルフロンの町周辺の領主
〇カナミア:アイーホルの勇者。ドットテカ男爵が一目惚れした
〇ギリュウ:カナミアの仲間
「やあ、ゼユウさん。いい夢は見れたかな?」
同じ部屋だから、ビッケがいてもおかしくはない。
それでも、目覚めて、いきなりは、きつい。
「…夢は、見てないな、たぶん…。」
時刻は夜の八時。
「ホーメナさんが、夕飯を取っておいてくれているよ。
お腹が減っているなら、食べてくるといい。
それともこのまま休むかい?消灯してほしいなら、言ってくれ。」
「夕飯は、その内、食べにいく。消灯は、しなくていい。」
とりあえず水でも飲もうかと、起き上がる。
「ねえゼユウさん。四日前の話、覚えているかい?」
「四日前?」
昨日はギリュウと戦って、二日前は、カナミアと話したな。
三日前は、酒場で茶番をした。四日前は、パーティーだ。
(いや、パーティーの前か?)
サダキとビッケと、かくれんぼをした。その、終わりの方で。
「王女様の、話か?」
「覚えていてくれて嬉しいよ。」
ビッケは三冊の雑誌と、ニュースペーパーの切り抜きみたいのを持ってきた。
「王女様が、すでに死んでいる。王宮はその事を隠している。
そこに僕は陰謀があるんじゃないかと疑っている。
その件で、いいのを見せてあげる約束をした訳だけど、今日まで立て込んでいて、それどころじゃなかった。
ようやく披露できるよ。」
…まあ、見せてもらうか。
「まずは、これ。月刊アンカバーズのバックナンバー。
秘密を暴く事をテーマに、強引な取材で有名だった月刊誌だよ。
最後は捏造がバレて廃刊に。六年前だね。」
何でそんなのを持っているのか疑問だが、聞くと長くなりそうだ。
ビッケは独自ルートを持っている。それでいい。
「そして、このページ。」
三冊の月刊誌、それぞれページを開いて見せてくる。
曰く、王女死亡の瞬間を目撃した男、蒸発!
曰く、女王は王女の死を否定!王国の闇の片鱗か!?
曰く、王女の墓!ついに発見!!
「最後に、これさ。」
ニュースペーパーの切り抜きは、花火大会の記事だった。
女王と手を繋ぐ王女の姿が映った写真。
最近王女の体調がよいようで喜ばしいと書かれてある。
(…。)
それぞれの発行年月日を確認する。一番新しいのが、ニュース記事。
そして、ビッケの発言を思い出す。
「六年前、アンカバーズという雑誌が、王女が死んだと騒ぎ立てた。
それを否定するように、王女の姿が載ったニュースペーパーが出回って、アンカバーズは廃刊になった。
それをビッケは、王国の隠蔽工作だと思っている、という訳か?」
ビッケは頷く。
「記事が出た時、真に受ける人は少なかった。
すでに雑誌の評判は悪かったからね。
続報が続いても、受けているのは一部のマニアぐらいだよ。
三流ゴシップ記事なんて、放っておけばいい。
なのに、廃刊にまで追い込んだ。
ついに決定的な証拠を掴まれた、なんて噂まで立つほど強引に。
花火大会の写真もさ、白黒で遠めだろ?
偽物説を、否定できないのさ。」
ニュースペーパーの写真を、まじまじと見た。
手配書のビッケの写真と比べると、かなり出来が悪い。
しかし六年前なら、仕方ない気もする。
「…花火大会で、王女の姿を確認した人もいるみたいだけど?」
「王女様は病弱で滅多に人前に出てこない。
本物を見た事がない人が大半。偽物でも、気づかないのさ。」
「…。」
王女生存を証明する為、王女を連れてきた。
でも、その人は王女ではないと言われたら?
(関係者に確認する…。でも、関係者全員が、嘘をついたら?)
隠蔽は、可能。
しかし、隠蔽する必要が普通はない。
それでも隠したという事は、よからぬ考えがある。そう考えるべきなのか?
「最近、王女様の姿を見たものはいない。病弱だからで、通っている。」
ビッケは、にやにやしている。
君も怪しいと思うだろう?そんな顔だ。
「なあビッケ。天上の国は圧倒的な力を持っているんだろ?
なら、親子関係を証明する方法とかあるんじゃないか?
クーノに、頼んでみるのはどうだろう?」
ビッケの説を、否定する事が出来ないのも事実。
王国滅亡に関係している可能性は、潰していったほうがいい。
「いい着眼点だよ、ゼユウさん。」
ビッケがケラケラ笑った。
「だからこそ、王宮が黒なら、クーノさんはグルなんだ。」
「ん?」
何の、話だ?
「クーノさんは11年前に召喚されてから、ずっと王宮側さ。
王宮が敵なら、クーノさんも敵。
王宮が何かを隠しているなら、クーノさんも隠すのに手を貸しているって訳。」
「いや、それは…。」
仲間を疑うのか?そう言おうとして。
コーホの目的を、思い出した。
「いい顔するなあ、ゼユウさんは。
そう僕達は、容疑者候補なんだよ。王国滅亡という大事件のね。」
「ビッケは、クーノが怪しいと?」
「そうだねぇ…。」
ビッケは、俺を探るように見て、言った。
「ハッキリ言おうかな。
僕が一番、怪しいと思っているのは、ホーメナさんだよ。」
「!?」
こいつは、何を言い出すんだ?
「クーノさんも怪しいっちゃ、怪しい。
でもホーメナさんは、その比じゃない。分かりやすい動機がある。」
「動機は、誰にでも考えられるから、考えないって話だろ?」
そう、ホーメナが言った。
「半年前のテロ。」
「…。」
「10年間、一緒だった師匠が亡くなったんだろ?
勿論、テロを起こした奴等が悪い。でも、王宮の対応も悪かった。
上手くやれば、彼女は死ななかったんじゃないか。
そう思っていてもおかしくない。」
「ハンネが亡くなって悲しいのは、俺も同じだ。
それでもホーメナは、ハンネの意思を継いで、王国を守る為に動いている。
あいつが、王国を滅ぼすなんて事、絶対にない。」
数秒だが、ビッケと睨み合う。
先に崩したのは、ビッケだ。
「まあ、いいさ。」
雑誌とかを、片付け始める。
「まだ情報が少ないんだ。確かに判断するのは早い。
でも、ゼユウさんも覚えておいてよ。
僕達の目的には、相互監視があるという事を。」
席を立つ。腹が減ったんだ。夕食を食べてくる。
「誰が、どんな時、どう動くのかを。
しっかり見極めて、いこうじゃないか。」
背後から、言葉が飛んでくる。
「そうだな。」
呟いて、部屋を出た。
逃げるように見えた事だろう。
(ホーメナが?国を?)
ある訳がない。そう思う。
なのに考えてしまうのは、疑う心があるからなのか?
ハンネの葬式の時の、ホーメナの顔が蘇る。
(…もし、そうなら…。)
なんだ?一緒に国を滅ぼすのか?
ハナ先輩を、町の人達を殺すのか?
「はあ~…。」
「悩み事?」
「はあ!?」
驚きすぎて、変な声が出た。
クーノに、声を掛けられた。
「あ、夕飯なんだね。お勧めは、エビフライだよ。
その白いソース、やばいよ?飛ぶよ?」
クーノの言う通りだ。ここは居間で、俺は夕食を食べている。
考え事をしていて、進んでいないが。
「なんなら、食べていいぞ。」
正直、あまり食欲はない。
「最近、皆が私の事を、食いしん坊キャラだと思っている節があるよ。
確かに、私は食べるのが好き。
でも昨日の事があって、反省したんだよ。
何でもかんでも口に入れてはいけないと。」
言いながら、視線はエビフライに釘付けだ。
「得体のしれないものじゃない。
ホーメナが用意してくれて、俺が上げると言った物だ。
安心して食べるといい。」
小皿に乗せて、渡す。勿論、白いソースも添えた。
「ゼユウの事は、信じているよ。」
そう言って、彼女は食べた。
「ありがとうね。」
「これぐらい、いいさ。」
「男爵の件。」
それは、返答に困る。
結果的に見れば、俺はクーノとの約束を守った。
でも俺は、約束を破ろうとしたのだ。
「ギリュウが、強かったんだよ。」
だから、お礼は言わなくていい。
「それでも、ありがとう。」
俺は無言でご飯を食べた。しばしの沈黙。
そして。
「ゼユウは信じられる。少なくとも、今のゼユウは。」
『今の』。つまり、未来や、過去は、分からない。
それは、同意見かもしれない。
「ゼユウは、私を信じられる?」
『王宮が黒なら、クーノさんはグルなんだ。』
さっきのビッケの言葉が、よぎる。
「…正直、わからない。」
クーノの顔は、見れない。
「それでいいと思うよ。」
彼女の声は、優しく感じた。
「繰り返しになるけど、私はゼユウを信じている。
だから、一つ、聞いてほしい事がある。」
クーノを見た。その声が、震えている気がして。
「私は、王国を滅亡させる犯人じゃない。
でも、滅亡の原因は、私だと思う。」
「…何を、知っているんだ?」
「心当たりがあるだけ。
犯人は、本当に分からない。」
クーノは俺を見て、ほほ笑む。
「その時は、また私に、協力してほしいよ。」
そう言って、俺が返事をする前に。
彼女は去って行った。
こんなに頑張ったのに、結局、何も進んでいない。
皆の事が分かってきたと思ったのに、何も知らないのかもしれない。
確かなのは。
まだ王国は滅亡していなくて。
俺達の戦いは、続いている。
怪しさを出しつつ、物語は次へ。




