第96話 恋のキューピッド大作戦~選択~
~前回までのゼユウ~
クーノと二人で、男爵とビッケの作戦を阻止する為に動く。
クーノが罠にかかり離脱。俺はビッケと対峙する。
そして彼の用意した舞台の上で、俺とギリュウの戦いが始まった。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇ドットテカ男爵:ルフロンの町周辺の領主
〇カナミア:アイーホルの勇者。ドットテカ男爵が一目惚れした
〇ギリュウ:カナミアの仲間
ギリュウが突っ込んできた。
拳を振り上げ、振り下ろす。
それを俺は、二本の風剣で受け止める。
「ギリュウ、聞け!お前は騙されている!」
ビッケの言い分は、理解はした。
1、十分楽しんだから、男爵の依頼は終わりにしたい。
2、折角だから、ゼユウさんが終わらせてよ。
3、ゼユウさんの考えも知れて、依頼も終わるし、一石二鳥さ。
対する、俺の答え。
(納得、出来るか!)
こっちの都合で手伝い初めて、こっちの都合で打ち切るのは、責任がなさすぎる。
これよりは、マシな解決方法があるはずで、ビッケの思惑通りに動いてやる必要はない。
ギリュウの誤解を解いて、二人でビッケを拘束。
ギリュウを倒さず、宝石を壊さず、男爵にも、ギリュウにも、ここで告白はさせない。有耶無耶にして、仕切り直す。
それが、俺の出す答え。
「それが、不可能な時は?」
音制御。ビッケの声が聞こえた。
見てるみたいな事、言ってたしな。
「!?」
ギリュウの様子がおかしい。
血走った目に、荒い息。
理性が感じられない。正気とは思えない。
ビッケが何かしたのかと思った。
しかし、この状態に、心当たりがある。
(荒狂…!?魔法か!)
メリットとしては、攻撃力上昇や速度上昇。
デメリットとしては、制御が不可能な事と身体への負荷がデカい事だ。
(確か、自身の魔力が尽きるか、第三者に解除の魔法を使ってもらうか、対象が倒れるまで、効果が続くはず。)
この場合、対象は俺のはずだから。
(話が違うぞビッケ!これじゃあ、命の奪い合いじゃないか!)
思った所で、ビッケが動く事も、事態が好転するわけもなく。
「ぐっ…。」
堪えきれずに、後ろに飛ぶ。当然のように追撃される。
風壁を展開するが、ぶち破りながら近づいてくる。
(翼で全力で飛べば、逃げられるか?
対象の魔力反応を見失えば、魔法は解けるんじゃないか?
いや、分からない。そこまで詳しくない。解ける保証はない。
解けない場合、最終的にギリュウは魔力切れで倒れる。
倒した事になるのか?)
なりそうだと思う。
ただ、魔力が無くなるまで暴れ回るはずだから、賢者の森が無駄に破壊される。逃げるなら、しっかりと倒すべきだ。
(ええと、倒した場合、どうなるんだっけ?)
話し合いが出来ない以上、倒すか倒されるかだ。
ギリュウの攻撃を捌きながら、頭を回転させる。
脳内会議が始まった。
参加者は、俺と、イマジナリークーノと、イマジナリービッケ。
「ギリュウに勝利して倒した場合は、宝石が壊され、男爵が告白する。
そして、告白の成功、失敗で分岐するはずだ。」
俺が進めて、意義や補足があった時、クーノやビッケに発言してもらう。
「成功した場合。
1、コーホは支援をしてもらえる。作戦成功。
2、男爵も嬉しい。
こうなると思われるが?」
これだけだと何の問題もない。
しかし、クーノが挙手する。
「3、カナミアが男爵とくっついてギリュウが悲しい。
4、カナミアも贖罪から告白を受け入れた形となり、悲しい。
5、その事に気づいた男爵も悲しい。
だれも幸せになれないよ。」
「別によくね?」
ビッケが呟いた。
構わず、続ける。
「次に失敗した場合。
1、コーホは支援してもらえるか、微妙。
2、男爵は悲しい。
こんな感じか?」
クーノが挙手する。
「3、悲しみに暮れた男爵が、宝石の弁償を求めるかもしれない。
4、請求がコーホにきたら、コーホがやばい。
5、請求がカナミアにいったら、カナミアとギリュウがやばい。
ハイリスク過ぎるよ、中止するべき!」
「大丈夫、手は打ってある。コーホは支援してもらうし、宝石の弁償をする事もない。
ノープロブレム。」
ビッケが呟いた後、俺を見た。
「コーホにお金が入れば、ホーメナさんも喜ぶよ?」
とりあえず、無視しておく。
「ギリュウに負けて倒された場合は、ギリュウがカナミアの元へ行く。
ギリュウが告白するかしないかは分からないが、結果は同じはず。」
二人は沈黙している。続けよう。
「1、男爵は告白する前に、恋に破れ、悲しい。
2、コーホは支援してもらえない。作戦失敗。
こうだよな。」
クーノが挙手する。
「カナミアとギリュウにとっては一番いいルートだよ。」
ビッケが挙手した。
「異議あり!カナミアがギリュウの事を好きではない場合、ギリュウの告白によって関係が悪化。ギクシャクしてしまい、二人共、悲しい。これを否定する材料がない。」
「大丈夫だよ!何度も死線を乗り越えてきた仲間同士!この絆は壊れない!」
「そこまで絆が強いなら、男爵が告白しても壊れないよ!大人しく、ギリュウを倒せ!」
「壊れなくても、傷ついたら痛いんだよ!二人の、いえ、三人の関係をボロボロにするだけの価値があるの!?お金は、別のやり方で稼げばいいじゃん!!」
クーノとビッケが取っ組み合いを始めた。
(なるほど、つまり…。)
コーホの利益を、魔法塔建築を考えるなら、ギリュウに勝てばいい。
…金を稼ぐ方法は他にもあるかもしれない。そもそも魔法塔を建てる事も手段の一つでしかない。
それで、確実に王国を守れる訳ではない。
それでも。
王国を守れる確率が少しでも上がるならと思うなら、こちらだ。
カナミアとギリュウの事を考えるなら、ギリュウに負ければいい。
男爵はどのルートでも笑顔になれないが、ダメージが少ないのは、こちらだ。
宝石が壊れていないのがデカい。
それにだ。
誤解が解ければ、再度、チャレンジする可能性は残るんじゃないか?
ここで変な感じで告白するより、未来に希望が残る可能性はある。
王国を守る方法は別に探し、一先ず、この件に関わった人達の事を考えるなら、こちらか。
(…全部は守れないんだ。)
選択しなければならないなら。
俺はコーホを、コーホの利益を選ぶ。
元々、そういう話だった。それが王国を救う道だと信じる。
(?)
クーノが、俺をじっと見ている事に気づく。
瞬間、俺は思い出す。
『ゼユウ。お願いだよ。私は男爵の作戦を止める。協力してほしいよ。』
『クーノ。俺は、男爵に告白させないとか、ギリュウに告白させるとか。それには協力できない。
でも今回の作戦は、失敗のリスクが大きい。だから、作戦を止めるのには、協力するよ。』
確かに、作戦を止めるとは言った。
でも、状況は変わった。ビッケが上手だった。
(叶うなら、俺だって皆が笑顔になれればいい。
でも、皆が笑顔になれる話ではなかった。クーノも、分かっていたから、悩んだんだろう?)
「俺は、ギリュウを倒す。」
結論は出した。なら、実行だ。
ギリュウの回し蹴りを、屈んで躱す。
強く、一歩を踏み出して、すれ違いざまに風剣を振りぬく。
左わき腹を強打。確かな手ごたえ。
しかし、ギリュウは止まらない。
反撃の右ストレートが飛んでくる。
後ろに飛んで避け、風刃を発射。
それはギリュウの両肩に突き刺さる。
それでも、ギリュウは向かってきた。
(こいつ…!?)
普通に、勝つのが困難なのだが?
風壁、消費魔力を上げ、強度を、可能な限り、硬く。
ギリュウはそれに体当たりした後、両手を叩きつけ始める。壁を無理やり壊す気だ。
耐えれて一分だろう。
その間に、俺は音制御で、ビッケと会話を試みる。
「ビッケ!俺はギリュウを倒すと決めた!だから、手を貸してくれ!」
ギリュウは、全身傷だらけだ。俺の風魔法と、自身の攻撃の反動の所為で。
「このままだと、ギリュウが死ぬ!」
しかし、ビッケからの返答はない。
やばくなったら、止めてくれるんじゃなかったのか?
壁が砕かれ、ギリュウが飛び出す。
「くそ!」
竜巻。これで止まれという思いで放つ。
両手を交差させて、ギリュウは耐えた。
ダメージもデカいはず、魔力の消耗も激しいはず。なのに。
諦めるような瞳ではない。
(そこまで、カナミアを…。)
この男は、生半可な攻撃では止められない。
止めるには、輝刃が必要だ。
しかし、リスクがある。
精度も制御も安定しないこの魔法は、ギリュウを殺してしまうかもしれない。
(まさか、それも含めて、選択、なんて言う気か、あいつは!?)
俺の考えが、まとまらない内に、ギリュウの突撃が開始された。
(どうする!?)
俺は再び頭をフル回転させる。
させようとした。
でも、もう頭が回らない。こちらもかなりの消耗だ。
ホーメナの顔が浮かび、ギリュウの顔を見て。
俺は。
「気分はどうだい?」
ビッケが現れた。
「最悪だな。」
心からの感想。
「そうかい。
…向こうは、大分、いい雰囲気だよ。」
「…告白、したのか?」
「いや、彼女の顔を見たら、安心した顔をして倒れた。
回復魔法してもらって、気持ちよさそうに膝の上さ。」
「…それは、羨ましい。」
俺は、大の字で倒れている。
ギリュウに殴り飛ばされて、そのままだ。
気を失った訳ではないが、起き上がらずに、星空を見ていた。
追撃される事も、無かったし。
「男爵は、肩を落としながら町へ戻って行ったね。
あそこには入り込めないと、痛感した事だろう。
僕達コーホは、作戦に失敗した訳さ。」
ムカっときた。
(お前もコーホの一員だろう。何を他人事のように言っている…。)
俺は身体を起こす。もう少し元気があれば、ビッケに殴りかかれたのだが。
「あの時ゼユウさんは、輝刃が使えた。
でも使わなかった。ギリュウさんに負ける事を選んだんだ。」
「命を奪ってでも止めろって?流石にお断りだ。」
「そういう選択をしたんだ。」
大きく深呼吸をする。少し、冷静になろう。
ビッケに文句はあるが、ビッケ一人の所為でもない。
それにもう、終わった話だ。
「それで、俺の事は分かったのか?」
「まさか。これだけで知ったかぶる気はないさ。」
「…。」
「こういうのを積み重ねる事で、解っていくんだよ。人となりってやつを。」
「…こんなのを続ける気か?」
「チャンスがあればね。今回のは、中々、貴重な体験だっただろ?」
ビッケが手を差し出してきた。
「いつも正しい情報を得られるとは限らない。どれが最善の結果か、なんて、分からない。
それでも選ばなければならないなら、どこまで考えるか。
もしくは、考えてあげられるか、さ。」
俺の目を見て、彼は言った。
「いい感じふうに、まとめようとしているかもしれないが、今回の話は終わっていない。
後始末は、手伝ってもらうからな。」
差し出された手を、思い切り引っ張って立つ。
「へ~い。」
殴りたくなる程、いい笑顔だった。
翌日。戻ってきたホーメナ達に事情を説明した。
皆で、ギリュウの誤解を解きにいく。彼は渋い顔をした。
でも、カナミアが許してくれたから、一応納得してくれた。
それから、男爵に詫びを入れにいった。
宝石は返してもらったらしい。明日の妹の誕生日パーティーで渡すそうだ。
当然、支援はしてもらえなかった。
『作戦を練ったり、実行したり、楽しかったよ。皆で騒ぐのは、やっぱりいいな!』
そう言って、笑ってもらえたのが、せめてもの救いだ。
それらが一通り片付いて。
俺は、ベッドに倒れこむ。
昨日の疲れが残っているんだ。
別に、ビッケが持っていた宝石が高く売れて、防衛費が潤い、ホーメナが、ビッケ凄いと喜んでいるのが気に喰わず、不貞寝する訳ではない。
『いやいや、これでも悪いと思っているのさ。だから、私財を投げ打ったんじゃないか。』そう言われれば、文句も言えない。
(あ~、大変だったぁ…。)
数秒で、俺は眠りに落ちた。
いきなり始まった脳内会議。
ゼユウが考えるビッケであったり、クーノです。
要は、ビッケならこういう時、こんなこと言うよな。こういう態度だよな。
ならクーノなら、こうだよな。
というのを、簡略化した結果です。




