第95話 恋のキューピッド大作戦~宝石よりも君が~
~前回までのゼユウ~
クーノは、ギリュウの応援をすると決めた。
が、男爵の笑顔に押し切られ、『宝石よりも君が好きだ作戦』が開始。
ビッケは男爵についていき、俺とクーノは取り残された。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇ドットテカ男爵:ルフロンの町周辺の領主
〇カナミア:アイーホルの勇者。ドットテカ男爵が一目惚れした
〇ギリュウ:カナミアの仲間
「ダメだよ男爵…。」
とりあえず、クーノをイスに座り直させた。
その彼女が、呟く。
「芝居はもうダメ。
折角、好印象なんだから、もうやる必要ないんだよ。」
ここにいない男爵へ向けての言葉。
「繰り返したら、怪しまれる。
あんな長いシナリオじゃあ、尚更。」
そこは、まあ、同意見かな。
男爵、テンション上がっちゃって、勢いで考えたんだろう。
「嘘は誠実じゃない。
男爵は誠実な所も、長所なんだから。」
俺は、そこまで男爵を知らない。だから、なんとも言えない。
「財力のアピールはもうやった…。
これ以上は蛇足で、嫌味っぽいし。
男爵はお金以外にも、いい所があるのに…。」
きっとクーノの中で、続きの作戦があったんだろうな。
「宝石っていくらなの…?笑えない額じゃないよね?
前回よりパワーアップなんてしてたら、負担にしかならないよ。」
…まあ、俺は酒の時点で嫌だったし。
「彼女は断りづらくなるかもしれない。でも、それは違うよ。
男爵は、縛りたい訳じゃないじゃん。」
少し、勘違いしていたかもしれない。
彼女がここまで落ち込んでいる理由を。
作戦を聞いて、これはダメだと彼女は思った。失敗する、と。
しかし、自分はギリュウの応援をすると決めていた。
だから、実行を許可したんだ。
反対して、男爵がガッカリする事が嫌だった訳ではない。
逆に、男爵を応援するスタンスのままだったら、きっぱりダメだと言っただろう。
そして、冷静になって。
これは、男爵を傷つける結果になると気づいた。
名誉も、心も、だ。
それは、彼女の望んでいない事。
「ゼユウ。お願いだよ。」
クーノに、見つめられる。
「私は男爵の作戦を止める。協力してほしいよ。」
協力する、とも、協力しない、とも。
即答は出来なかった。
俺は責任を感じている。昨日、クーノと話をしたにも関わらず、こんな結果になってしまったから。
(…信用、か。)
どこまで本気か分からないビッケの発言の中で、『引き受けたからには、やり切らなければならない。』というのは、その通りだと思った。
(…そもそも目的は、最初からあやふやだった。おそらく、意図的に。)
ドットテカ男爵が、カナミアに告白するのをサポート。
それが目的。
告白するまでをサポートするのだとすれば、今回の作戦の最後に、男爵が勢いのまま告白すれば、目的達成となる。
俺もビッケもこの考えで、だからビッケは男爵について行った。
対してクーノは初めから、告白成功までをサポートするつもりだったのだ。
(男爵は、どっちの気でいる?普通に考えれば、クーノの方だと思うけど。
これ、契約書とかあるのかな?ありそうだな。
『でも、男爵、告白しましたよね?』恋敗れた男爵に、報酬を要求するビッケが想像できる。…やっぱり詐欺じゃないか?)
楽しくない。
「クーノ。俺は、男爵に告白させないとか、ギリュウに告白させるとか。
それには協力できない。」
クーノの目を見て、伝える。
「でも今回の作戦は、失敗のリスクが大きい。だから、作戦を止めるのには、協力するよ。」
こうして俺とクーノは、男爵とビッケを止めるべく、行動を開始した。
そしてそれは、難航した。
「いない、ここでもない。宝石店じゃないのか?」
フレン王国は、断海より溢れ出る、高濃度な魔力の影響を受けている。
賢者の森の木々は、大地に染み込むそれを、大気へ逃がす為に植えられたという話もある。
身体が融けるほどの魔力は、毒だ。
でも、悪い事だけではない。
高純度の魔力を有する鉱物。美しく、希少で、耐久性がある魔力結晶ができるのだ。
昔は賢者の森の洞窟でも採れたらしい。
採りつくされた今では、ラゼン山脈、海底採掘が主流だ。
宝石の原石、それを得るという事は、魔物と自然の脅威との戦いに勝つという事。
だからこその、高い価値。
それこそ、数十年周期で断海の勢いが弱まった時、フレン王国の北に浮かぶ『魔鉱島』に一攫千金を夢見る者達が大挙するなんて話まで聞いた事がある。
採れた鉱物は、宝石となり、魔装具や魔道具となったりだ。
つまり王都には宝石店が、そこそこあって。
そこを、地図を片手に片っ端から覗いているが、男爵は見当たらない。
音制御で探すには範囲が広すぎるし、通信機でビッケと連絡を取ろうとしているが、繋がらない。
ビッケは、俺がクーノと組んで作戦を阻止しようとしている事に気づいている。
「ゼ、ゼユウ…。」
クーノから、通信だ。
「どうした?」
「や、やられたよ…。」
「何があった!?」
「い、家に…。」
俺は急いで家へと戻った。クーノが、倒れている。キッチンで。
「カナミアは…。」
クーノは、最後の力を振り絞るように伝えてくる。
「ルフロンにいる。」
ルフロン。男爵の町だ。
(そうか、カナミアは調査にきているんだ。王都より、ラゼン山脈に近い町に向かっても、おかしくない。)
王都じゃなくて、ルフロンの宝石店か!
「い、行って…。」
「でも、クーノが。」
情報を得たから、攻撃を受けたのか?
なら、まだ刺客が潜んでいるのかもしれない。放っておけない。
(まさかビッケが、ここまでするなんて…。)
クーノが、震える手でテーブルを指さした。
だから、その上を見る。
(…?ブドウ?)
お皿の上にブドウが一房、乗っていて、半分くらい食べられている。
(違う!これは…。)
魔吸の実。ブドウに似た見た目の実。賢者の森でも採れる。
食べると魔力が失われる。まるで吸収されたかのように。
しかし栄養価は高く、隠し味に一粒入れると、美味しいんだこれが。
当然、未調理や食べすぎは危険だ。魔力欠乏症になって動けなくなる事だってある。
(…。)
一応、重度の魔力欠乏症は危険な状態だ。
でも、クーノは、まあ、意識もあるし、休めば大丈夫だろう。
クーノをベッドまで運び、家を飛び出す。
ビッケの策略だ。腹の減ったクーノの動きを読んで仕込んだトラップだ。
俺達は、してやられた。
ビッケ一人なら、俺とクーノで抑えられると思う。
しかし、タイマンなら、おそらく俺は勝てない。
(間に合うか!?)
男爵が宝石を置き忘れる前に到着できれば、なんとかなる。
門をくぐり町の外まで走った俺は、翼で飛んだ。
ルフロンを目指して。
「!?」
賢者の森、上空。
間もなくルフロンといった場所で、飛んできた風刃を弾く。
やはり、この男を何とかしないと、いけない。
音制御で、位置は特定できている。
俺は着地して、彼の元へ。
「待っていたよ。」
岩に腰掛ける、ビッケが言った。
「作戦は、12工程目。勇者カナミアは魔物を討伐する為、森に入った。
勿論、高級宝石を持ったままだ。
僕達、一昨日の酔っ払いは、それを壊す。」
「よく、そこまで進められたな。」
普通に凄いと思ってしまう。
「大変だったさ。
カナミアさんは、何か、陰謀みたいのがある事には気づいている。
流石に、告白作戦だとは思ってないだろうけど。」
強引に進めたらしい。お疲れ様。
…でもそうか。そこまで進んでしまったか。
(となると、落としどころは…。)
作戦自体に気づかれない事が一番よかった。
でも、もう気づかれている。
なら、黒幕は酔っ払いにするしかない。
目的は一昨日の逆恨み。よくも恥をかかせてくれたな、と。
宝石を壊せず、カナミアに撃退される。
男爵には、勇者が強くて失敗したと報告。
騙す結果になるし、作戦は中止ではなく、失敗。
コーホの信用は下がる事にはなってしまう。
(それでも作戦継続よりは、ダメージが低いはずだし、信用回復のチャンスはあるはずだ。)
だとして。
一番の障害は、目の前の男か。
ビッケは、いつものポーズ(頬杖つき脚組み)で話し出す。
「その様子じゃあ、ゼユウさんは作戦に反対みたいだね。」
「ああ、リスクが高いと判断して、止めに来た。」
「ねえゼユウさん。止めた後、どうする気?」
「…止めた後?」
それは、次の作戦を考えるんじゃないか?
まずはクーノともう一度、話し合い…。
(…ホーメナも帰ってくる。皆で話し合えば…。)
納得のいく回答なんて、得られるのか?
「僕はさ、もう、いいと思うんだよね。」
ビッケは続ける。
「楽しかったさ。小物ムーブなんて、初めてやった。
でも、だからこそ、潮時だ。
あまり引っ張る話でもないだろ、こんなの。」
「こんなのって…。」
クーノは、真剣だぞ。
「男爵が告白しようが、ギリュウさんが告白しようが、決めるのはカナミアさん。
他人が出しゃばる方が野暮さ。
他人の恋愛なんて、対岸から眺めるぐらいが楽しいんだ。
同じ場所になんか、いたくないね。面倒くさい。」
他人が出しゃばる事じゃない。それはホーメナも同じ意見だろう。
だから最初から、乗り気じゃなかった。
「だから、この話はここで終わりにしよう。
君が決めてよ、ゼユウさん。」
「…なんだって?」
俺が、決める?
いや、俺が決めたらダメだろ。
「シンプルにしたよ。間もなくこの場に、ギリュウさんが現れる。
彼は、黒幕は君だと思っている。そう仕向けておいた。
ゼユウさんは、ギリュウさんを倒すか、倒されるかを選んでもらう。」
意味が、分からない。
「向こうも勇者の仲間だし、命を奪いにはこないと思う。ゼユウさんもそうでしょう?
まあ、事故はあるかもだから、やばい時は僕が止める。
そこは安心していい。」
「いや、俺とギリュウが戦う事に、何の意味があるんだ?」
ビッケは、顔色を変えずに、説明を続ける。
「まず、ゼユウさんが勝った場合。
僕が宝石を壊す。そして、適当にカナミアさんにぶっ飛ばされておくよ。
隠れていた男爵が現れて、壊れた宝石の件を済ませる。
そして、そのまま告白してもらう。」
男爵の計画では、告白まではなかったはずだ。
男爵はビッケに丸め込まれたらしい。
「次に、ゼユウさんが負けた場合。
ギリュウさんが、カナミアさんにあう。彼が掴んだ真実を、伝える。
一応、そのままキスして告白しろと煽っておいたけど、そこまでは期待していない。
何にしろ、カナミアさんの男爵への好感度はガタ落ち。
男爵の恋は告白前に、散る。お終いって訳。」
だから、どっちを選んでも終わりになる、と言いたいのか?
「俺が勝って、男爵が告白した場合でも、ギリュウが真実を掴んでいるんじゃ、ダメじゃないか。」
「ギリュウさんの掴んでいる真実は嘘さ。嘘を証明する準備もある。
僕らが、この件と無関係になったら彼の誤解を解く。
だからそこは気にしなくていいよ。」
本当に分からない。ビッケの狙いは何だ?
「言ったじゃないか。僕は、ゼユウさんに興味があるって。
あなたの選択を知りたい。何を考え、何を優先し、何を切り捨てるのかを。」
「…え?」
「ギリュウに勝つとどうなるか。負けるとどうなるか。
それをゼユウさんは考えて、結論を出してほしい。
何、誰が死ぬでもなく、国が滅ぶでもない。
気楽に決めるといいさ。」
言い終わると、ビッケの姿が消える。
後に残ったのは、鏡。
魔幻鏡、と言う名の魔道具。幻を映す鏡。
「!?」
殺気を感じて振り返る。
そこにいたのは、ギリュウ。
(いつの間にか、クライマックスだと!?)
宝石よりも君が好きだ作戦、及び、男爵からの依頼は、この一戦で決まるらしい。
ビッケは、会話も好きだけど、それよりも喋るのが好きなキャラ。
何言ってんだ、こいつ。と思ったら、聞き流してやってください。
一応、ゼユウが聞いてますから。
『恋のキューピッド大作戦』は、あと二話でお終い。
男爵の依頼と関係ない話も含んでいるとはいえ、八話分も使うのは、実は第一章の『血鬼』以来。『血鬼』の時も、カナミアの話でした。




