第94話 恋のキューピッド大作戦~皆が笑顔~
~前回までのゼユウ~
『暴漢撃退大作戦』の翌日、ギリュウに、もう止めろと言われた。
そのギリュウは、現れたビッケの口撃に敗れ、敗走。
でも去り際のギリュウのセリフに、クーノはショックを受けたみたいで…。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇ドットテカ男爵:ルフロンの町周辺の領主
〇カナミア:アイーホルの勇者。ドットテカ男爵が一目惚れした
〇ギリュウ:カナミアの仲間
「あれは、訓練に行ったね。間違いない。」
ビッケが、いつの間にか注文していた飲み物を飲む。
「腕っぷしだけじゃあ守れないって話をしたのに、全く。
他のやり方を知らない?不器用だから?
はっ思考停止の言い訳はつまらないね。」
ビッケはクーノを見た。
「さて、恋愛には障害がある方がいいって聞くけど、男爵には周囲からの反対というのが既にある。多すぎるハードルは、逆にやる気を失くすものさ。
だから、あの青年はこのままコテンパンにした方がいいと思うんだけど、どうだい、作戦リーダー?
…おーい?クーノさん?」
クーノは呆けている。
えーと、ギリュウがカナミアの事を、好きだと言ったのがショックだったって事であってる?
「ダメだね。思考がどっかに行っちゃった。少し、待とうか。」
ビッケと目が合う。
「ゼユウさん、静かにしていたけど、何かあるかい?引っかかっている所とか。」
「…いや、ないよ。
ビッケの勢いに圧倒されていただけだ。
思ったよりビッケが、男爵の肩を持っていて驚いた。」
ビッケが笑う。
「何言ってんだい。僕達は、男爵の告白を支援して、お金を貰うのが目的じゃないか。」
そうだった。
つまりビッケ個人としては、男爵派でもギリュウ派でもないけれど、目的の為に、ギリュウを攻撃した、訳か。
「勇者とギリュウさんが仲良くなる事で、お金が入るっていうのなら、僕は男爵の所に行くね。そして、男爵のダメな所を言いまくって、ギリュウさんを褒める。
いや、違うか。
男爵にこの方法は効果が薄い。
会話というか、言葉責めは手段にすぎない。手段は、効果的なものを選ばないと。
男爵には見せつけた方がいいね。それこそ勇者とギリュウさんが、目の前でキスでもしたらそれで終わりさ。
あれで、ピュアなんだから。」
立場や陣営で、意見を変える。正しいんだろうな。
でも、好きではない。いや、言っている場合でもないんだが。
ゆらりと、クーノが立ち上がった。
「様子を見るよ。作戦は中断、男爵にも伝えておくね。」
そのままノロノロと帰って行った。
「…流れ変わったね。」
「…そう、みたいだな。」
意気消沈といった感じか?
とはいえ、どうこう出来るとも思えない。
情報も少ないし。
だから俺もビッケも、その小さな背中を黙って見送った。
輝刃は、成功率、精度ともに高くない。
ビッケに、あーだ、こーだ言われながら練習して、暗くなったから家に帰った。
成果は、あるような、ないような感じ。
途中、ホーメナから連絡があって、帰りは明後日になるらしい。
今日、明日は三人だ。
別に、そこはいい。問題は。
「まさか、ずっとあのままかい?」
夕食の食器を洗っていると、ビッケが言ってくる。
「クーノの事?」
なんと、未だに呆けている。
「好きなだけ呆ければいい、と言いたい所だけど、現状はよくない。
僕達は作戦中なんだ。
男爵との連絡係は彼女だし、ホーメナさんだっていない。
何より、作戦リーダーなんだクーノさんは。」
変な所で真面目というか、責任感があるというか。
「男爵は、熱意と行動力があるからね。
戦略的事情があるならともかく、待つなんて出来ないよ。
あの様子じゃあ、手綱は握れない。」
一言、心配だ。で、いいのにな。
「…行ってくる。」
皿は洗い終わった。
話を聞くだけでも、違うかもしれない。
「皆が笑顔になれると思ったんだよ。」
クーノを居間まで連れてきた。
クーノの部屋だと、俺が落ち着かないから。
ビッケを追い出して、ホットミルクを出して、話を聞いた。
第一声が、これ。
優しく頷いて、続きを促す。
「男爵の告白が成功すれば、男爵もカナミアも、お金を貰えて私達も、皆が笑顔になれる。悲しい顔の人は、いないと思ったのに。」
男爵の結婚を反対していた人達は、笑顔になれないだろ。
そんな揚げ足取りはしない。
クーノの計算では、男爵の身を案じて反対していた訳だから、男爵が幸せになれば、認めてくれる。と考えていたのかもしれない。
「ギリュウは、きっと悲しい思いをする。」
視点が広がって、残酷な真実を知ってしまいショックを受けた感じだろうか。
美味しいと肉を食べていたら、正体が動物だと知ってしまった子供みたいな。
(どうしよ…。)
世の中なんてそんなもんさ!はは!とか言って、肩を軽く叩き立ち去る。
それぐらい軽く流した方が、いい時もあるかもしれない。
でも、今のクーノに対しては正しくない気がする。
(皆が笑顔で嬉しいと思うのは、おかしくないだろ。実現して困る人はいないはず、だって、皆が笑顔なんだから。)
実現不可能だから、顔をしかめられるのだ。
現実が見えていない、と。そんな事も分からないのか、と。
(話がデカくなりすぎている。戻そう、クーノのもやもやを解消するんだ。)
「なあ、クーノ。恋ってさ…。」
実らなくても、人を成長させる糧になるんじゃないだろうか。
だって、自分の心と向き合い、相手の事を考えるんだから。
失恋は、無駄じゃないんだ。
だからギリュウも、最後には笑顔になれるさ。
そんな感じで。
何かの本で読んだ知識に独自解釈を加え、いい話風にまとめてクーノに伝えようと思った。
でも何故か。
誰かに、鼻で笑われたような気がして。
言えなかった。
「…なんだろうな。」
しばらくの間。クーノと二人、無言の時を過ごす。
やがて、クーノは立ち上がる。
「ゼユウ。私は決めたよ。」
そう言って、彼女は去って行く。
呆けた俺は、それを追えなかった。
「私はギリュウを応援する。男爵には、諦めてもらうよ。」
次の日。
クーノは俺とビッケに向けて、宣言した。
俺は頭を抱えたくなる。完全に対応を誤った。
「ふ~~~~~ん。」
ビッケが、アップを始めた。
クーノをボロクソ言う気だ。
「ギリュウは昔から、カナミアの仲間だった。
だいぶ前から好きだったはずだよ。
男爵は、興味があって、これから仲良くなる所。
まだ傷は浅いはずで、だから…。」
「君は、何を言ってるんだい?」
ビッケのポーズ(頬杖つき脚組み)だ。
「手段はいくら変えてもいい。
新しい情報が増えたなら計画の見直しは大事さ。
でも、目的は変えてはいけない。
僕らは、男爵側。諦めてもらうのはギリュウの方さ。」
「お、お金なら別の方法で稼げばいいよ!」
「舐めてるね。これは信用の話さ。
僕らは一度、引き受けた。コーホの名でね。
なのに、そんな裏切り行為をしたらどうだい?
誰も僕らに仕事なんて頼まないよ。」
「…でも、カナミア達の関係を、壊したくないよ…。」
ビッケが静かになった。
ビッケなら、クーノの言い分に十全に返せる。
でもクーノは、会話をしたい訳でも、相談したい訳でもない。
自分の決めた意見を発表しているだけだ。
つまり、どんなに続けても不毛なやりとりにしかならない。
それが分かったから、ビッケは次の手を考えている。
「…僕はね。」
と、思ったのだが、会話が再会する。
彼は脚を組みなおす。頬杖はやめた。
「思うんだよ。
恋とは秘めるもの。愛とは行動する事じゃないかって。」
「愛だって感情だよ。」
クーノが頑張って反論する。
でも、ビッケへのダメージはゼロだ。
「行動が抑えきれない感情って事さ。
だから時として、凄まじい力を生む。それこそ、国が滅ぶ事もある。」
国が滅ぶというワードに、ギョっとなる。
まさか、この問題が発展していくと、預言に繋がるなんて事は…。
「動けない愛は、だいたいバカにされる。
お前の愛は、その程度か!ってね。
時間があったのに告白しなかった、ギリュウが悪い。」
「相手を思いやるのが、愛だよ
カナミアを気遣って、告白しなかった。
ずっと大変で、負荷をかけたくなくて、だから。」
「愛!最後の勝利者にして、世界の救世主!」
大声だった。両手を広げて、何かを称えるように。
驚いたクーノがビクっとなる。完全に、ビッケの独壇場だ。
「あまりの人気から、大量発生。
粗悪品や偽造品も多く出回っている。
クーノさんの語る、『相手を思いやる愛』。ギリュウさんは、間違ってないさ。
でも僕の語る、『行動する愛』。男爵だって、間違っていない。
だって、いっぱいあるんだから。
クーノさんの言う愛は、魚屋の愛さんで、僕の言う愛は、八百屋の愛さんって訳。
正否を問う事こそ、不毛。ただ、受け入れるといい。」
呼び鈴が鳴った。
対応しにいく。
そこにいたのは、変装した男爵。付け髭を取ると、笑顔だ。
もちろん、追い返せないから、通す。
「やあクーノさん。顔を見るのは一昨日ぶりだね。」
「だ、男爵…。」
棒立ちのクーノを放置して、ビッケが男爵の座る席を用意する。
そんなビッケを制して、立ったままの男爵が、クーノに言った。
「あの作戦、めちゃくちゃよかった。確かな感触があったよ。」
男爵は、笑顔だ。
「だから私も考えたんだ。新しい作戦を。
ほら、コーホの皆さん、今、大変なんだろ?
聞いたよ、ブテンポラの件。
そんな中、任せっきりじゃあ悪いじゃないか。」
男爵は、昨日の作戦中断の理由を、コーホが多忙だからと解釈した訳か。
「題して、『宝石よりも君が好きだ作戦』!」
男爵の作戦説明が始まった。
1、男爵は、明後日の妹の誕生日プレゼントにと宝石を選んでいた。
2、しかし、男爵は宝石に詳しくなくて、困る。
3、偶然、カナミアと再会。
4、宝石が好きな彼女に、選んでもらう。
5、お礼に彼女にもプレゼントする。おそらく断られる。
6、せめてという事で、お洒落なお店で一杯、ご馳走する。
7、そこで、男爵に緊急の仕事が入る。
8、お礼と、謝罪と、会計を済ませて、男爵は立ち去る。
9、カナミアは、男爵が妹のプレゼントを忘れていってしまった事に気づく。
10、放置は出来ず、カナミアはプレゼントを持って男爵を追いかける。
11、しかし、トラブル発生。森に魔物が出現。
12、勇者カナミアは見過ごせず、討伐へ向かう。
13、そこに待っていたのは、一昨日の酔っ払い。
14、なんと、カナミアを誘き寄せる為の罠だったのだ。
15、カナミアは酔っ払いを撃退。しかしプレゼントの宝石が破壊されてしまう。
16、途方に暮れるカナミア。そこへ、男爵が登場。
17、仕事を終えた男爵が、事情を聞き、心配してやってきたのだ。
18、締めの言葉。『宝石は買い直せばいい。君が無事でよかった。』
19、二人で町へ帰る。
(カナミアの予測行動が、本筋に入り過ぎてないか?)
ある程度は、仕込み人が誘導するんだろうけど。
プレゼントの置き忘れが、即バレして男爵に追いついたらどうするつもりだ?
「流石、男爵!きっと上手くいきますよ!」
ビッケが、囃し立てる。
「そ、そうかな?ありがとう。」
男爵は、肯定的に受け取った。
「クーノさんは、どうかな?一昨日のエクストラの皆さんには、声をかけてある。
OKが貰えれば、今からでも作戦を始めるんだが?」
男爵は、クーノを見た。
キラキラした、笑顔だ。
クーノが、男爵の告白の成功を願っていたのは間違いない。
ギリュウなんてイレギュラーが現れて、苦渋の決断として、ギリュウを取った訳だが、男爵にも笑顔でいてほしいと思っているのは変わっていないはず。
彼女は揺れているのだ、決断した今でも。だから。
「…が、がんばって。」
押し切られてしまう。
「男爵の言った通り、今、コーホはごたごたしていまして。
恥ずかしい話ですが、クーノさんも、そっちへ行く事になったんです。
ですが、ご安心を。このビッケが、全力でサポートしますよ。」
「そうか、大変だな。よろしく、ビッケさん。
クーノさんも、ありがとう。ブテンポラの件、丸く収まるといいな。」
そんな感じで。
男爵とビッケは去って行った。
(ビッケのやつ、音制御で男爵がくるのが分かったんだな。)
だから、話を続けた。
クーノが揺れているのに気付いていて、男爵本人が押せば、反対できないと踏んだのだ。そして、それは、正しかった。
(…どうしよ。)
コーホの目的を考えれば、ビッケに協力する事、一択なんだが。
ビッケなら一人でも上手くやるだろうし、この状態のクーノを放置したくない。
ガックリと膝をついたクーノの背中をさすりながら、この後の展開について、考えた。
クーノは最初から恋の応援が目的で、ついでに援助を受けようとしていた。
ビッケは最初から援助を受ける事が目的で、告白の手伝いは手段だった。
実は最初から、食い違っていた話。




