第93話 恋のキューピッド大作戦~勇者の仲間~
~前回までのゼユウ~
俺達は、男爵が告白する為の作戦を考えた。
まずは第一段階。衝撃的な出会いの演出。
思うところはあるが、後には引けない。華麗にぶっ飛ばされてみせる。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇ドットテカ男爵:ルフロンの町周辺の領主
〇カナミア:アイーホルの勇者。ドットテカ男爵が一目惚れした
〇ギリュウ:カナミアの仲間
用意した酒を飲む。俺達は、酔っ払いだ。
俺はビッケと肩を組んで、入店。
カウンター席に、ターゲットを発見。
(…一人じゃない!)
しかも、男。カナミアの右側に座っている。
「仲間の一人だよ、名前はギリュウ。問題なし、このまま続行。」
ビッケが小声で教えてくれる。
「おーおー!姉ちゃん、綺麗だね~!俺と一杯しようぜ~!」
ビッケが切り込んだ。
ギリュウに睨まれる。
「見ない顔だね~旅人さんかい?困った事ない?なんでも答えるよ~♪」
ビッケがカナミアの肩に手を置いく。
ギリュウが立ち上がった。
「ギリュウ。」
落ち着いた声だった。
その、カナミアの一言で、ギリュウは着席する。
「こんばんは、お兄さん。ちょうど隣は空いてるわ。」
(受け入れられた…?)
ある意味、大人の対応なのか?
酔っ払いは話している内に冷静になるとも聞くから、適当に喋らせて穏便に済ませようとしている?
「この町はいい所ね。みんな親切で、だから困った事はないわ。」
(会話をしようとしている?)
俺も詳しくはないし、偏見かもしれないが。
他人に絡むくらい酔っ払っているという事は、思考能力も低下しているはずで、だから会話なんて出来ない。
(関わらないのが一番で、だから席を変えるとかがいいんじゃないか?)
そんな、もはや誰目線か分からない思考がよぎる。
予想外の反応に、混乱したのだ。
しかし、ビッケは動じない。
「ん~…。」
カナミアの左隣に座り、鼻の下を伸ばし、その太ももに触れようとする。
(…ビッケ!進むんだな!このまま!)
いつ彼が投げ飛ばされてもいいように、声を上げる準備をする。
が、投げ飛ばされない。
カナミアはビッケの手が触れる前に掴み、運ばれてきたお酒を握らせる。
「お兄さん、何か話したい事があるんじゃないの?」
「ええ~♪」
嫌な、予感がする。
「お兄さんは酔っ払っていない。なのに、酔っ払った振りをして近づいてきた。
そして殺気もない。どんな目的?興味があるわ。」
バレてる。
動揺中の俺の耳にビッケの声が届く。音制御だ。
『まだだよゼユウさん。カナミアは無理でも、ギリュウなら可能性がある。
このまま攻め続けて、彼に止めさせて、』
「ほんとに凄いわ。
音が聞き取れない。つまり私よりも精度が上の音制御。
一体、何者?あなた達の事を教えてよ。」
いや、ビッケの魔法は、俺レベルだと発動すら気づかれないほどの精度なんだが…。
「ええ~♪えぇ~…。」
ビッケの伸ばす手を、カナミアは笑顔で防ぎきる。
(主導権を取られた。
街中で強い魔法は使えないし、魔法なしの身体能力は向こうが上。
この様子ではビッケが逆切れしても、対処されそうだ…。)
俺は動いた。
「おい、もう行こうぜ。なんか、この姉ちゃん、怖えよ。」
ビッケの肩を叩く。
「向こうで、さっきの話の続きをしよう。」
このまま本当に引き下がるのが、一番平和なのだと思う。
しかし、引き下がる気はない。引き下がれないのだ。
「何の話してたっけ~?」
立ち上がったビッケの、振りがくる。
「レーグの魔王を倒したウーイングの勇者の話さ。
さっきの酒、ウーイング王国の物らしいじゃないか。
あの、美味くない酒。
折角、命を捨てて魔王を倒したってのに、その結果が、不味い酒が飲めるようになっただけって…。」
ウーイングの勇者は、ウーイング王国の為に戦った訳であって。
だから、こんな西国の事までは知った事ではないはず。
しかも、酒だって悪くなかった。
独特な風味がしたが、そこが面白く、普通にまた飲みたい。
なのに、なんでこんな話をしているかと言うと。
カナミアが、ウーイングの勇者と友達だったと聞いたから。
友達の死をバカにされるような事があれば、それは。
「全く、何のために死んだんだか。」
グンっと。身体が揺れた。
カナミアに、胸倉を掴まれた。
「うわっとお!」
俺の隣にいたビッケが、よろめいて、店員さんを巻き込んで転倒。
持っていた酒ビンが割れる。
「やや!この酒は!!」
一人の男がやってきて、床にブチ撒かれた酒の解説を始める。
「お、お前の所為だぞ!お前が俺を押したから!!」
本来、俺が言うはずのセリフをビッケが言う。
店内が、ざわめきだして。男爵が、登場して。
男爵が決め顔で、例え話をするけど、意味がよく分からなくて。
それをビッケが要約してフォローして。
ちょっと強引に金を払った男爵が、カナミアの手を引いて店を出る。
直ぐ追いかけようとしたギリュウの脚を、ビッケが引っかける。
激しく罵り合った後、ギリュウも店を出ていく。
『ドッキリ成功。協力ありがとう』と書かれた、柄のついた看板状のものを持ったクーノが現れて。まあ、成功したなら、ええか。みたいな感じで店内は沸いた。
(…。)
そんな目の前の芝居を、ただ眺めていた。
カナミアに胸倉を掴まれてから、俺は棒立ちだ。
あの時の彼女の瞳に、完全に気圧された。
(腹を立たせて、手を出させるのが目的だ。だから、作戦通りなのに。)
楽しくない。
あそこまで怒るなんて、思わなかった。
(…そこまで仲がよかったのか…。悪い事をした…。)
「いや~、一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなったね。
ゼユウさんのお陰だよ。」
ビッケの言葉に、俺は曖昧に笑う事しか出来ない。
クーノは男爵の様子を見に行き、ビッケはそのまま打ち上げに参加する。
俺は、疲れたからと言い、家へ帰った。
翌日。
ホーメナは賢者の森へ行った。ブテンポラの町でトラブルがあったらしい。
サダキもついていった。人手が必要かも、という事で。
俺は、ホーメナについて行く気だった。
でも、男爵ミッションは継続中。
そして、クーノはサダキに、この件を手伝わせたくないらしい。
曰く、『まだ早い。』そうだ。
だからホーメナ・サダキ組と、俺・クーノ組で別行動。
ビッケは朝帰りで、早々に寝た。
そして今、俺達二人がいるのは、お洒落な店。
店名は、シークレットデイズ。オープンテラスと言うやつだ。
勇者カナミアを待っている。
賢者の森の、魔物調査の経過報告。という建前で、男爵の印象を聞く予定だ。
(…。)
落ち着かない、緊張している。
あの時の酔っ払いが、俺だとバレないだろうか。
変装していたがバレそうなんだよな。魔力の質とかで。
そういう凄みを、彼女に感じている。
(魔力量が多いとか、魔力制御が上手いとか。そういうのも、あると思うけど。)
勝負を決めるのは、戦闘力だけではない。
彼女の本領は、通った修羅場の経験値。
正直、恐ろしい。うやむやになった、ウーイングの勇者への侮辱。
それを、責められる事が。
(侮っていい相手ではなかった。敵に回すのは危険すぎる。もうあんな茶番は出来ないぞ…。)
「お待たせしました。」
冷や汗を拭っていると、勇者がやってきた。
バレたかどうかは不明だが、いきなり胸倉を掴まれる事は無かった。
挨拶を交わし、早速、本題(建前)。
俺がこの場にいる理由はちゃんとある。
基本はクーノが話を進める訳だが、森に関する専門用語が出た時、答えられないのは不自然だから、俺がフォローする訳だ。
勇者の用意した資料を見ながら、その報告を聞く。
彼女の真面目さがよく分かる。
丁寧な仕事だ。
「そういえば、ルフロンの町の領主。ど忘れしたよ、名前なんだっけ?」
報告も終盤になった頃。
やや強引にクーノが切り出した。
カナミアが意識しているかの確認だ。名前を覚えられているのかを。
「ドットテカさん、ですね。最近、男爵になられた方です。」
覚えられている。しかし、真面目な彼女なら仕事に関係しそうだからの可能性が高い。
「そうだったよ。昨日、酒場でトラブルがあったって聞いたよ。
カナミアさんもいたそうだね、怪我はなかった?」
いつも眠そうなクーノの眼光が光る。
カナミアの反応を見る為に。
「ええ。実は、ドットテカ男爵に助けてもらいまして。
とても感謝しています。」
「…へ~。貴族の人って、冷たいイメージだから意外だよ。
男爵、偉そうじゃなかった?」
「そうですね。私の町にいる貴族の方にも気難しい人はいます。
でも男爵は、ユーモアがあるといいますか。
話しやすい方でしたよ。」
カナミアは笑顔だ。
(分からない。社交辞令な気もするけど…。)
好感触、なのか?
その後、クーノが二、三質問をした所で、カナミアに軌道修正される。
報告会は、和やかな雰囲気のまま終わり、カナミアは手を振りながら帰っていく。
俺は、最後まで睨まれたりしなかった。
「かなり、いいよ。」
クーノが興奮気味に口を開く。
「想像以上の好感触。これは、いけるよ。」
クーノは残った飲み物を、飲み干す。そして立ち上がる。
「いこう、ゼユウ。男爵に報告して、次の計画を練るよ!」
「…なあ、ちょっといいか?」
言いながら、一人の男が、俺達の正面に座った。
見覚えがある。勇者の仲間、ギリュウだ。
「いいと言ってから、座ってほしいよ。」
「お前達、ドットテカ男爵の手の者か?」
ギリュウは俺達を睨む。
クーノは着席し、彼を睨み返す。
「何の話か、分からないよ。」
「カナミアを、放っておいてくれ。」
このギリュウとか言う男は、会話をする気がないらしい。
一方的に、続ける。
「あいつは、憧れていた人を、自分の手で殺すハメになった。
新しく出来た友達も、亡くなった。
タコとの戦いで俺達の仲間が、重傷を負った。あいつを庇って。
そんな事が、立て続けに起きている。
しかも、秋には勇者試験だってあるんだ。
恋愛とかさ、そういう余裕はないんだよ。」
「でも、それを君が言うのは違うんじゃないか?」
このテーブルのイスは四つ。
俺、クーノ、ギリュウ。そして、最後のイスに座ったのは。
「「ビッケ?」」
クーノとハモった。
「!?お前は、昨日の酔っ払い!?」
俺はバレなかったが、ビッケはバレた。
まあ、口論もしていたし、だから記憶に残ったんだろう。
棒立ちの俺と違って。
「昨日のも、仕込みか…!下手な茶番をしやがって、これだから貴族は…!」
「だからぁ、それも君が言えた事じゃあない。」
ビッケは、魔王みたいな表情で続ける。
「君達は勇者パーティーだろ?やっかみ、妬み、嫌がらせは当たり前さ。
今までもあった、そしてどうにかしてきたはずじゃないか。
ああ、そうか。何とかしてたのは、祖国で療養中のアクスさんだっけ。
君じゃあなかったか。」
「貴様!」
ギリュウが席を立とうとした。が、ビッケの方が速い。
座ったままのギリュウを見下ろすように、続ける。
「昨日の件。君は勇者を守れたかい?
挑発したのはこちらだが、乗ったのは彼女だよ?
あのお酒、君達に弁償できる額じゃあなかったよね?
何とかしたのは、男爵だよ?」
ギリュウの目が泳ぎ出す。
「男爵だって、黙っててなれる訳じゃないんだ。彼には兄弟だっている。
勝ち取ったんだよ、男爵の地位という力をね。
君が訓練をしている時、男爵もまた、励んでいた。
結果、あの状況で勇者を守れたのは、男爵。
昨日のは確かに仕込みだけど、別にあの程度、いくらでも起きるさ。
次、君に彼女は守れるかい?
舐めているのは、君の方さ。」
ビッケはゆっくりと席に戻り、座る。
「そもそも、僕らを男爵の手先と思うならさ、男爵に直接、言いなよ。
そうしないと、僕らが彼女を放っておいても次が来る。
解決なんてしないよ。
ひょっとして、男爵に直接は不味いと思った?
問題がデカくなると思った?
特定の人物に言うと、やばいと思う内容は、誰に対しても言うものじゃない。
言い方を変える、建前を用意する、言っても大丈夫な状況を先につくる。
頭を使いなよ。
今の君は、勝てそうな相手に喧嘩を売る、小物さ。
何?敵が強ければ逃げるのかい?勇者を置いて。」
頬杖をついて、脚を組んで。ビッケは絶好調だ。
「君が彼女の隣にいるのは、守る為だろ?
その役目も、まともに果たせないのに、何をやっているんだい?
どうせ、独断だろ?彼女に確認なんてしてないだろ?
それなのに、勝手に事情まで喋っちゃってさ。」
「そ、そうだよ!」
クーノが立ち上がる。
ビッケに任せっぱなしは、ダメだと感じたのかもしれない。
自分が、作戦リーダーである事を思い出したのだろう。
ここぞとばかりに、畳みかける。
「仲間だからって、勝手に、恋愛話にまで口を出さないでほしいよ!
なんなの?
ひょっとしてあなたもカナミアの事が、」
「好きだ。」
ギリュウのその一言で、クーノは止まった。
驚愕の表情を浮かべ、静かに着席する。
「だから、次は絶対、守ってみせる。」
ギリュウは俺達に背を向け、足早に去っていった。
第一章にも登場したけど、一言も喋らなかった男。ギリュウ。
そんな彼の、記念すべき第一声は、「…なあ、ちょっといいか?」でした。
カナミアのキャラが違う理由は二つ。
一つは、前回が、かなり限界状態だった。
もう一つは、勇者の友達が出来た。その友達が目標達成したのと、亡くなったという報告を同時に聞いて、思う事があったから。




